長い付き合いの幼馴染よりも、1年限定のクラスメートでした。
「だからっ‼︎貴方じゃ無くて、かなちゃんと話がしたいんだって、何十回言えば分かるの⁈人の話ちゃんと聞いてます?」
第2東館2階の階段に近い部屋が、私達の教室だった。
階段を登り切った所で、ゆうくんの荒げた声が教室内から廊下に響き渡った。
こんな風に、怒って捲し立てるゆうくんは初めてで、思わず足が止まる。
「聞いてる聞いてる!それこそ何十回と!でもね、こっちにも事情があって、かなに会わせる訳にはいかないの。これも何十回と言ってるけどねっ!」
対抗するように声を張り上げている沙樹ちゃん。負けてません。
「…林、手筈通りに。」
瑠美ちゃん、何か美希ちゃんに頼んでいたみたいです。美希ちゃんが大きく頷き、周りにいた8人の女子と一緒に教壇側の扉の前まで行くと、その手前で止まり瑠美ちゃんに振り向き、もう一度頷いた。
瑠美ちゃんが頷き返すと、私の腕を掴んだ。
「かな、後ろの扉から入るからね。」
潜めた声で言い、少し速足で後ろの扉まで連れて行かれる。
黒井くんが扉に手を掛ける。
と、前の扉にいた美希ちゃんが思っ切り扉を開け放した。
「きやぁぁぁっ‼︎生徒会、会計の三浦 ゆうくんダァ‼︎」
「ヤダヤダ!ホントに生徒会、会計の三浦ゆうくんダァ‼︎」
「ウッソ!何⁈このプルプルお肌!可愛すぎ〜っ!ねっ、ねっ、触らせて!」
「ホント!そんじょそこらの女子じゃ、太刀打ち出来ません。お願いです!頬っぺ触らせて〜っ」
「もう‼︎可愛い過ぎっ!実は入学当初から狙ってたの〜っ!」
「ねっ!ねっ!ギュッてして良い?高校の思い出に!あっ、ブラッシングでも良いよ!」
「そんな怒った顔しちゃダメダメ!笑ったお顔が1番なんだからっ!」
「一度で良いから、私の名前を呼んで!その可愛い声で聞きたいの!ねっ、お願い!」
美希ちゃん達は教室に入った途端、ゆうくんを囲んで一斉に喋り出した。
そして少しずつゆうくんを後退させ、教室から追い出して行く。
ゆうくんが教室から出るのとは反対に、私は瑠美ちゃに腕を持たれ、黒井くん、佐藤くんを盾にして後ろの扉から、教室に入った。
そして、前後の扉が閉められ、同時に鍵が掛けられた。
「では、本題と行きましょう。」
アレ?いつの間に廊下に出たんでしょう。瑠美ちゃん。
周りを見ると、黒井くんも佐藤くんもいません。
エッ⁈2人も瑠美ちゃんと一緒に廊下に出てるの?
「山田、大丈夫だ。」
「そうそう、俺達がいる。」
「千切っては投げ、千切っては投げってな。」
おおおっ。重戦車の鉄壁防御!ステキです!
柔道部の稼ぎ頭トリオと呼ばれる、早川くん、栗田くん、相田くん達がサムズアップで力強く頷く。
…柔道部の稼ぎ頭って、どう言うコト?
なんて遊んでいると、廊下からゆうくんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「一体何?先輩達に用は無いんだよ!僕が用があるのはこのクラスの山田 佳奈恵だけなんだっ‼︎」
「三浦くんに無くても、私達には関係あるんですねぇ。ところで三浦くん。君は山田 佳奈恵が噂通りに転校生美少女、加賀 琴子を苛めていると、そう思っているのかな?」
瑠美ちゃんの今の表情が眼に浮かぶ。きっと不敵な笑みを浮かべている事でしょう。
近くにいなくてよかったぁぁぁっ。
「そんな風には言ってないよね。僕はその噂が本当かどうかを確認しに来ただけだよ。」
「なら、転校生美少女、加賀 琴子に聞けば良いだろ?わざわざ山田 佳奈恵に聞かなくても、君達生徒会はみんな転校生美少女、加賀 琴子に纏わり付いているんだから。直ぐに分かる事でしょ。」
「聞いたよ!でも琴ちゃん、悲しそうな顔で言葉を濁すんだ。だから!」
「ふ〜ん…転校生美少女の加賀 琴子が悲しそうに顔を歪ませたから、こ〜れは山田 佳奈恵から苛められているなっ!って、意気込んで来たと。ハッ‼︎ちゃんちゃら可笑しくって、腹で茶が沸くって言うの‼︎」
「なっ‼︎」
「私はね、三浦くんはかなを2番目に理解してくれてるって思っていたの。でもこんなに簡単に裏切られるなんて。一緒にいる時間て、関係ないのかなぁ。」
瑠美ちゃんの声を聞いて、私の心が軋む。
本当に、親以外で一緒の時間が1番長かった筈で、みんな分かり合えていた筈なのに、そう思っていたのは私だけで、全ては錯覚だったんだ。
小さく息を吐くと、廊下から大袈裟に手を打ち鳴らす音がした。
「お〜〜い、とっくにチャイム鳴ってるゾォ!続きは後にしろぉ!」
担任である馬場ちゃんの、抑揚の無い声が聞こえて来た。
そこで次の時間が、馬場ちゃんの数学だったと思い出す。
柔道部の早川くんと相田くんが、扉に掛けた鍵を開けに、慌てて走り出した。
ありがとうございます。