覚悟する男達
砂漠に蒸気が溢れ出す。空中でぶつかり合う炎と氷、お互いは熱の奪い合いで中和される。すでに戦場は空中へと移行した。メルの炎を消す氷、謎の男の氷もまたメルの炎で気化する。
お互いは戦いの中で勘づいていた。コイツの魔法は俺の天敵だと、炎と氷ではいくら放出しても無駄だと。
先ほどまで謎の男には勝算があった。奴が仕掛けた魔道具を爆破させてメルを消す。しかしそれを処刑人は許可しない。空中へと移動する事で爆破の影響をなくし、1対1の状況を作る。
「良い魔法だ、しかも炎! 英雄と同じだ! 流石兄弟嬉しいよ!」
「一緒にするな。そんなに好きか、人殺しが」
男はニヤつきながらメルを見つめる。
「お前も人を殺すだろ? 兄と同じさ」
メルの腕の血管がハッキリ見える。メルの炎の火力は通常を何倍も上回っていた。地上で使えばそこら一体が墨と化す。
謎の男も出力を上げる。しかし結果は変わらず戦況は膠着する。
「お前は凄いよメル•テルデール!その炎は兄から教わったのか?」
「ああ、反吐が出るけどな」
「羨ましいよ、僕は英雄に憧れてるんだ! なんて強い男だ! あれはちょうど10年前!」
本来ならメルは悪人の話は聞かずに斬る。しかし相手は初めて意思疎通ができたエリオ信者。しかもこの強さ、組織においては上の人間かもしれない。情報が手に入るかもしれない。
「言ってみろ、聞いてやる」
「僕が彼に会ったのは俺の親父をぶっ殺してる時だ!親父はとんでもない犯罪者で、調子に乗って暴れてた親父をぶっ殺したのが彼さ! 英雄として彼は悪人を葬ったんだ!」
「お前は英雄が好きなのか」
「そうだ、大好きだ! 彼を殺すのが僕の夢だった!」
その発言にメルには少し隙ができ、それを男は見逃さず攻め続ける。話し続ける。
「彼は英雄だ! だがみんな分かってない! 彼は英雄であり、世界一殺すのが得意な男だ! 僕は彼を殺して世界一の人殺しになりたかった! 男は1番に憧れるものさ!」
「じゃあなんでエリオ信者に」
「犯罪を犯してればエリオルに会えると思って色んな奴を殺したが、その前に彼は自害した。舌を切って死ぬなんて! しかも彼と戦ったのは第1隊副隊長や各隊の隊長達! もっと早く再開すればよかった!」
「何故お前がその情報を知っている!」
「そこで知ったのがお前さ! メル•テルデール! エリオルの弟! お前と戦うために俺はここに来た!」
「やはりお前は盲信者だよ!」
燃えた剣、冷気を出す剣はぶつかり合う。
街の空には水蒸気と2人の男の殺陣が繰り広げられた。しかし、戦いは終わらない。
お互い理解し始めた。この戦いの勝利条件を。
「最大火力だッ!盲信野郎!!」
「限界突破だよッ!処刑人!!」
『限界硬直』
魔法は限界を超えて使い続けると使用が困難に、そして自身の身体も動かなくなる。本来なら限界まで使わず、仲間や魔道具で補助するのが基本である。
しかし彼らは1対1だった。
メルはこの男の強さを認め、自身の最大火力をぶつけることを決めた。
謎の男も手加減を止める。彼こそが自分の限界を試すに相応しい男だと理解した。
この戦いは1発の魔法放出で決まる。より熟練度の高い方が勝利する。
真剣勝負、覚悟と覚悟の殴り合いだ。
「『フレイア』!!」
「『フリージ』!!」
お互いの魔法はぶつかり合い、まるで空に太陽が現れたかのように見えた。
二つの影が爆発から落ち、そして無事大地に着地したのは炎の処刑人だった。




