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立ち上がった男


 その日、村は全焼した。広がる炎はパチパチとした音を鳴らし人を焼く。生き残りは森に隠れ、息を殺して怯え震える。


 魔導士による殲滅だった。


 かつての大戦争で英雄と呼ばれた男、魔導士エリオル•テルデール。黒い墨と化した人間を踏みつけ、エリオルは弟の腕を引き村の中心へと歩く。


 弟、メル•テルデールの目にはしっかり燃え盛る人の影が刻まれる。幼い彼にでも、異常自体とは理解できるのだ。


 村の役所に着いた。建物はすでに崩れ落ちており、元型を保っていない。エリオルは瓦礫を片手で浮かし、村長の亡骸を探す。


「兄様、兄様!! なんなのこれ!」


「大丈夫だ、メル。これは、そうだな...魔物討伐みたいな物だ。人類に害をなすから燃やした」


「魔物...じゃないよ兄様、みんな人間」


「メル、人とは何だと思う? 私は心だと思う」


 瓦礫の中から声が聞こえる。赤子だ。泣き声なのだ。エリオルが瓦礫を退けると女性と赤子がいた。女性は腕を瓦礫に潰され、顔も真っ赤に染まっている。彼女が出す声は掠れており赤子の鳴き声で聞こえにくい。


「た..すけ...死にたく」


 メルは兄の背中を見つめる。自分の兄を信じていた。尊敬していた。弱者を助ける者、それが魔導士なんだと。


「メル。人だ、助けなくてはな」


「兄様..! そうだよ早くその人を」


 エリオルの剣技は、とてもメルの目には見えなかった。その事実に気づいたのは、女性の首が足元に落ちた時だった。

 赤子を優しく抱いたエリオルは言う。


「この村にも人がいたのだな。可哀想に」


 メルの瞳孔は揺れた。実の兄によって起こされた殺害に、怯えたのだ。理解しようとしてもダメだった。頭はぐるぐると周り、理由を探しても無駄だった。目の前にいたのは紛れもない人殺しだったから。


 そして、村長の亡骸から鍵を奪ったエリオルはメルを魔導士団に置いていった。

 その日、メルとその赤子は家族を失った。


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