345:冬の舞踏会 ※
今回は第三者視点となります。ご注意ください。
グロリアブレイド王国の冬の舞踏会は、王国内の各領地の領主たちと王都に在住する貴族が一堂に会すると言っても過言ではない行事である。
故に、王城の大広間を用いて開催されるのだが、人数が人数であるため、入退場一つとっても規則通りに進行する事になっていた。
「やぁ、今年もまたこの場で会えて嬉しい限りです」
「こちらもです。いや、今年は大変だった」
「春から夏まで、騒動続きでしたからなぁ……」
まず入場するのは男爵家と子爵家の人間。
彼らは初参加や陛爵、婚約と言った慶事か、何か特別に見せたいものでもなければ、広間からは直接見えないようにされた入り口から入っていく。
空っぽの会場では後から入ってくるお偉方の自尊心を満たせないからだ。
そして、入って来た彼らは、直ぐに親しい者同士で固まって、お互いの近況を語る形で情報を交換し合う。
そうする事で、お互いの家の安全と繁栄を図っていくのだ。
「特に大きな騒動は……まあ、イストフィフス侯爵家の件ですか」
「アレに巻き込まれる形で無くなった家については自業自得で良いのですが、そのしわ寄せは我々の所に来ましたからなぁ」
「まあ、今後、あの一派に煩わされる事が無いと思えば、軽い代償だったでしょう」
続けて入場するのは、辺境伯、伯爵、侯爵と言った家の格が高い面々。
彼ら……だいたいは領主当人か、その代理である者たちは、自分自身で治める領地を持っているため、物理的な線引きこそされていないが、入場の際には別の入り口から入り、最初に立つ場所も違う。
ただそれでも、慶事の類が無ければ、会場全体に響くような声で案内されつつ入ってくるような事は無い。
人数が人数なだけに、いちいち案内され、拍手されでは、舞踏会が終わらなくなってしまうからだ。
「おや、アレは……」
「なんと……」
「なっ……」
だが、公爵あるいは王族ともなれば、慶事がなくとも、その入場が会場全体に知らされる。
それだけの地位にあるからだ。
なんなら入場する順番についても、慶事を伴って入ってくる者たちよりも更に後。
参加者が全員揃ってからと言うのが、例年の流れである。
しかし、今年は違った。
「何故既にトレガレー公爵閣下が入場されているのだ」
「あり得ん。聞き逃したか?」
「いや、間違いなく聞いていない。私は聞き逃しの無いように魔術まで使っていた」
王国内に三家しか存在しない公爵家。
その内の一つであるトレガレー公爵家の当主夫妻が、その存在を告げられることなく入場を終えており、舞踏会全体を睥睨できる周囲より一段高い場所に座していたのである。
その事実は、気が付いた者から順番に驚かせ、会場全体をざわめかせると共に、何か粗相の類でもなかっただろうかと慌てさせるには十分すぎるものだった。
「はっ、もしや……あの件か?」
「あの件……そうか、『船の魔術師』殿と『闇軍の魔女』殿の婚約……」
「そうか。あの二人がトレガレー公爵家の枠を用いて入場するのであれば、公爵本人は先に会場に居たいと言うのは親として納得が行く話ではあるか」
聡い者は、何故トレガレー公爵夫妻が既に会場に居るのかを機敏に察する。
察するが、同時に思いもする。
例年にない事をされるのなら、報せの一つくらいはいただきたい、とも。
これは、この後に慶事があるからと正門から入ってくる者たちは驚かされることになるな、とも。
『只今よりぃ!』
そんな彼らの感情とはお構いなしに、舞踏会の会場の正門が開かれて、これから誰が入ってくるのかが拡声の魔道具を用いて告げられる。
そして、名前を告げられた者から舞踏会の会場へと男女一組になって入ってくる。
「入ってきましたな」
「緊張で固まっている者も多いですな」
「仕方がないでしょう。彼らのこれまで次第では、今日初めて王城に入った者とて居るはずです」
慶事の大半は婚約あるいは婚姻であるため、このタイミングで入ってくる人間はだいたい若く、何処かの家に所属はしていても、自身はまだ爵位を持っていないと言う人間も少なくはない。
男は黒のタキシードを身に着け、女はドレスで着飾り、堂々と、けれど緊張して入って来て、全体への挨拶を一度してから、それぞれの居るべき場所へと散っていく。
『宮廷魔術師のお二人が入場されます! 『焔槍の魔術師』ジャン・フォン・ベリンリン様と『凍えの魔女』グレイシア・フォン・イーリィ様入場!』
「「「!?」」」
告げられた言葉に、現れた二人の姿に会場がざわつく。
会場の正門から入場してきたのは、舞踏会の参加者として身なりを整えたジャンとグレイシアの姿。
それもただ身なりを整えたのではなく、お互いに相手の目の色に合わせた装飾品……ジャンは水色の月を、グレイシアは赤い矛の形をした物を身に着けており、腕を組んで歩く姿も合わせれば、二人がどのような関係性にあるのかは誰の目にも明らかであった。
「なんと、宮廷魔術師同士の婚約とは……、いや、めでたい事に間違いはございませんが」
「おや、『凍えの魔女』殿の左目に眼帯が無いですな」
「ふむ。あの家も当主が交代したことで、自由に恋が出来るようになった。と言う事なのかもしれませんな」
また、普段は眼帯で隠されているグレイシアの左目は今日は薄手の布で作られたヴェールによって覆われていて、微かにだが左目の様子が窺えるようになっていた。
様々な事情から隠していたはずの左目を、僅かながらにでも見せているのは、そうしても良いと思えるだけの関係をジャンが築いたからこそなのは間違いなかった。
その後も正門からの入場者は続き……やがて、公爵家の人間が入場する番となる。
『トレガレー公爵家より、『船の魔術師』ヘルムス・フォン・トレガレー様と『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズ様が入場されます!』
「さて来ましたな」
「公爵夫妻が譲ったぐらいですからな……」
「これは……なんと……!?」
ヘルムスとミーメの二人が入ってくる。
堂々と微笑んで、身長差をものともせずに腕を組んで。
二人の事をよく知らない者は、二人が入ってくるまではこう思っていた。
公爵家の三男であるヘルムスに、宮廷魔術師とは言え元平民であるミーメがどれだけ合わせられるものかと。
だが、入ってきた二人を見て、多くの者は認識した。
「これは……むしろ公爵家でなければ釣り合いませんでしたな」
「身に着けているドレスは例の闇属性の新技術によるものでしょう。しかし、その美しさに本人も負けていないとは」
「ある種の妖艶さと言いましょうか、神秘性と言いましょうか……なんにせよ、隣で堂々としていられるヘルムス殿の方がよほど豪胆ですな」
この二人はどちらかと言えばミーメの方が主役であり、ヘルムスの方が付き従い添える側なのだと。
大海原のような藍色のドレスが、夜空のように輝く瑠璃色の宝石と黒の髪が、小柄ながらも整った全身から漂う圧倒的な存在感が、胸元で輝く灰色の宝石が、二人の態度が、その主従を決定づけていた。
今日の主役が誰であるかを示すと共に、隔絶されているが故に不遜な者以外は受け入れる事が出来ると言う心境をもたらしてもいた。
簡単に言えば、王と同じかそれ以上の立場より睥睨する何かであると、多くの者たちはミーメの事を認識したのだった。
何故このようになったのか。
その種は簡単な事である。
今のミーメは一切の隠蔽をしていない。
それ故に、普段は隠されていた魔力の質の差による圧なども明らかにされており、完全な感知と制御がされている『魔力』『闇』『人間』の影響もあって、周囲が感じる存在感などが大きく増しているのであった。
そこに、魔物素材だけで作られたドレス、装飾品、『顔作の魔女』によるメイクに、侍女たちによる磨き上げによる魅力の増大化も行われている。
結果、多くの者に対して、圧倒的な格の差を感じさせていたのである。
『ケルウス・フォン・グロリアブレイド陛下並びにマリーグレー・グロリアブレイド正妃殿下、ご入場!』
やがて、国王と正妃が入場。
控えるミーメたちの前を通って、会場の一番奥に用意された玉座の前に立つ。
『諸君、我が求めに応じて、今宵はよくぞ集まってくれた』
そして、国王は会場に集まった貴族たちを見回した後、口を開いた。
隠蔽0のミーメって、普通の人間視点だと生殺与奪の権利を完全に握っている存在になるんですよね。
つまりは完全に上の存在です。
そりゃあ、畏怖の念の一つや二つくらいは抱きます。
なお、他のトリニティアイを一般人が見ても、上である事は変わりないので、同じような心境は抱く模様。
どちらも上過ぎて、差が分からんのです。
11/08後書き調整




