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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
7:帰って来た王都

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211:整理して考える

「んんー……終わったぁ……」

 王都に帰って来てから二週間ほど経った。

 この間、王都は非常に平和で、ワタシは優先してこなすべき仕事と王都に居ない間に溜まっていた業務を効率よく消化する事が出来た。

 今後に備えてやっておくべき事前検証も終える事が出来た。

 そして今日に至っては、事前検証に関する書類を書き上げた上で、考え事をするのに十分な時間まで確保する事が出来た。

 うん、こうして時間が出来たなら、これまでは時間がないからと後回しにしていた事……トリニティアイやレリックを相手にしても対処できる何かを考えてもいいだろう。


「さて、考えますか」

 ワタシは部屋付きの侍女の方などを外に出し、部屋の扉にしっかりと鍵をかけ、魔術による情報封鎖も行う事で、誰も部屋の中を窺い知れず、入るにはワタシの許可が必須の状態にしておく。

 これほど厳重な守りを施すのは、これから考えるのはトリニティアイの魔術であり、ワタシの生命線になるかもしれない魔術だから。

 だけではなく、第零属性『魔力』、前世知識、属性の特殊な解釈や『八顕現』をどう組み合わせたかと言った、隠しておきたい事柄についても取り扱うからである。


「まずはどんな魔術が必要なのか……」

 ワタシが新しい魔術を考える時。

 まず考えるのは何をしたいかだ。

 今回の場合なら、魔術の仮想対象はスケクロ……スケアクロウゴーレム・ナンバーエイトから、手加減の類を除いたものとし、その手加減無しスケクロを撃破あるいは無力化出来るような手段を考える事になる。

 実際の所、現代で手加減無しスケクロに対処できる手段があって足りない相手は、たぶん元からどうしようもない相手くらいになるので、これだけあれば十分な物になる事だろう。


「んー、実際問題として火力と言うか破壊力は足りている」

 ワタシが詠唱をしてまで使う魔術は幾つかあるが、それぞれに特徴や火力に差がある。

 『ひとのまのもの(ジャガーノート)』は汎用性に優れると共に、狩った相手の素材品質を出来るだけ下げないよう、攻撃範囲を絞ってある。

 『いのれるならいのれ(アントニウス)』は殺傷能力に優れつつも、色んな意味で撃ちやすい。狩った相手からの素材回収は望めないが、倒す事を優先するべき状況で撃つ魔術だから問題はない。

 『わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ)』は範囲と同時対処数を優先した魔術。対個で使う魔術ではなく、対軍で使うべき魔術だ。

 『おさきまっくら(モイライ)』は……正直使いづらい。条件を達成すれば、それこそスケクロだって仕留められるだろう。だが、その条件をスケクロ相手に達成できるとは思えないし、達成できても仕留める際の爆発がまた別の問題として生じる。

 攻撃転用した『ぜったいあんせい(カダ)』こと『ひとはしぬ(カダ)』は、性質上、相手の体内に人間の細胞が必要になる。なのでこれもまた使いづらい。


 うん、こうして並べて見ると、むしろ必要なのは、『いのれるならいのれ(アントニウス)』や『おさきまっくら(モイライ)』を当てられる状況を作るための何かではないだろうか?


 なお、『わたしだけのみち(ダイダロス)』は転移魔術なので、此処に並べるような事はしない。

 アチラはアチラで問題児なので、もうちょっと考えたい部分もあるけれど、今は置いておく。

 話を戻して。


「うーん。そうなってくると必要なのは速攻で撃てる足止め策。魔力量を補う方法。魔術の出力上昇方法。そう言う方向性かな?」

 思い返せば。

 スケクロとの戦闘時、スケクロが手加減してくれていなければ、『ひとのまのもの(ジャガーノート)』の詠唱は絶対に間に合っていなかった。

 となれば、これから先、ワタシがどんな魔術を考えるにせよ、スケクロに通用するくらいの足止め策は絶対に必要だろう。

 既に腹案はあるので、何とか出来る目途はついているけれど。


「魔力量についてはアレで何とかすればヨシ」

 魔力量についても問題である。

 ワタシの魔力量は125と、魔術師としてはだいぶ少ない部類であり、何なら魔術師の道を諦めた貴族たちよりも低い場合が多い。

 『八顕現』の還元を使いこなしているから無尽蔵に魔術を放てるように見えているし、実際、息切れの心配はないのだが、それでもこの少ない魔力量が制限になる事はある。

 具体的には『ひとのまのもの(ジャガーノート)』と『いのれるならいのれ(アントニウス)』の同時使用がワタシの魔力量では出来ないのだ。

 ワタシが詠唱を必要とするほどの大魔術はだいたい魔力量に直して100前後の魔力が必要であり、込める魔力を減らせば効果もガタ落ちになる。

 普通の相手ならそれでも問題は無いだろうが、スケクロのような相手ではどちらも通らなくなってお終いだろう。

 しかしこの問題についても、解決の目途は立っている。


 と言うかだ。即応性や魔力量については、魔術で何とかする問題ではなく、魔道具で何とかするべき問題なのだ。

 目途も立っているので、こっちは問題ない。


「そう考えていくと……。問題はどうやって障壁を突破するか。かな」

 ワタシは結局スケクロの障壁を攻略できていない。

 アレを突破できる方法が無ければ、時間稼ぎが上手く行っても、『いのれるならいのれ(アントニウス)』を届かせることは出来ないだろう。

 そして、同時に幾つ魔術を使えたところで意味はない。

 つまり、それだけの出力を得る方法が必要……とまで考えたところで気づく。

 『万能鍵』があるとは言え、強行突破できる範囲には限りがあり、ワタシの他の属性的にも強行突破するよりはすり抜けるとか、誤魔化すとか、そっち方面で抜ける方法を探った方が相性はいいかもしれない、と。

 うん、そっち方面で考えよう。


 簡単にまとめるなら、『いのれるならいのれ(アントニウス)』に障壁をすり抜けられるような何かを付与するのだ。

 いや、そうしてすり抜けさせるなら、いっそ闇そのものを浸透させて、『暗黒支配』を直接決めてしまった方が早いかもしれない。

 スケクロの障壁をすり抜けられるのなら、生物が天然で持っている他の生物からの魔力による干渉だって簡単にすり抜けられるだろうし。


「うん。なら方向性はそれで行こう」

 欲しい魔術の方向性は決まった。

 なら次はどうやってそれを実現するかだ。

 ワタシは紙に必要な要素を書き出していき、書き出したそれを『魔力』『闇』『人間』『万能鍵』の四属性と『八顕現』でどうやって達成するかを考える。

 以前なら此処で必要な魔力量が、ワタシの魔力量である125をオーバーしてしまって、泣く泣く諦めていた場合もあるが、そちら方面の目途が付いた現状なら、もうちょっと詰め込んでもいい。


「こうなると詠唱は……。最初の文言はいつも通りで良いとして……」

 そうして構成が決まったら、イメージをより具体的にするための詠唱を考える。

 ワタシの杖は維持を主目的に置いているので、魔術をかなり使いやすくしてくれているが、それでもこの規模の魔術になると、少しでも使いやすくするのに詠唱をした方が良い。

 以前から分かっていた事ではあるけれど、この世界の魔術にはどうにも個人の解釈と社会全体での解釈が入り混じっていて、詠唱によって声を響かせる行為には社会全体での解釈を自分にとって有利に捻じ曲げる作用が僅かながらにあるのではないかと思う。

 つまり、大衆への説得力がある方が、魔術の通りが良くなる。

 きっとこれも、詠唱と言う魔術の使い方が途切れていない理由の一つだろう。


「闇……影……人……這いよる者……崩壊、崩落……」

 後、これはちょっとズルのような気もするが、ワタシの『万能鍵』に限っては、ワタシの声が聞こえたなら、その聞こえたと言う事実を足掛かりに繋がりを見出し、諸々こじ開けると言うのもあるので、そう言う意味でも詠唱はした方が都合が良かった。


「うーん、実に闇」

 それから幾つかの調整を加え、最後に名前を付けて完成。

 本当なら此処から試し打ちをして、更なる調整もしていくのだけれど……この魔術は予定通り、今のワタシの魔力量では使えない魔術になってしまったので、試すにしてもそちらが出来上がってからになるだろう。


 余談だが、ワタシの苦手分野の一つに特定の相手を追跡すると言うものもある。

 ただ、こちらについては『風鳩の魔術師』ことドバート様や、諜報部隊の方々も居るので、今更補わなくてもいいだろうと考えている分野である。

 いざとなれば、闇人間を大量に出してローラー作戦をやらせてもいいのだし。


「ニャーン」

「ん? 猫?」

 気が付けば白く輝く猫が室内に居た。

 青空に浮かぶ雲のような猫は部屋の中をゆっくりと歩き回る。

 そして、隠蔽によって人の目に見えないようにしてある金庫を眺めた後、興味を失ったかのように窓と壁の間をすり抜けて出て行った。

 うん、相変わらず何の脅威も感じない。

 誰もこの部屋に入れないようにしてはいたけれど、猫なのだから、何処かからか忍び込んだ……。


「猫!?」

 気が付いてしまったワタシの背筋が凍り付く。

 あらゆる意味でおかしかった。

 物理的にも魔術的にも密閉されているはずの部屋に猫が居る事も、難なく出て行ったこともおかしかったが、何よりもおかしかったのは、その異常さに今の今まで気づく事が出来なかったと言う点だった。

 と言うか、三度目かつワタシがテリトリーにしている場所でようやく異常性を認識できるっていったいどういう事だ!?


「え、えーっと……は、ははは……」

 ワタシとしてはもはや苦笑いを浮かべる他なかった。

 だが、二つほど幸いな事がある。

 一つは相手に害意が無いのは本当である事だろう。

 だって、害意があるのなら、とっくの昔にワタシは死んでいる。

 もう一つは、今の警戒をすり抜けられたと言う経験が、ワタシが新たに考えた魔術を生かすに当たって大変有用な事だろう。


 しかし困った事もある。


「これ、何処にどう報告すればいいんだろう……」

 あの猫がトリニティアイである以上の事は分からず、機嫌を損ねるような振る舞いをしてしまった時の恐ろしさを考えると、何も出来ない事である。

 と言うか、本当に一体どこから湧いて出てきたのか……。

 ワタシはその後、こちらの事で就業時間終了少し前まで悩む事となり、結局答えは出なかった。

猫に王国に対する害意はありませんので安心してください。

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