141:これからどうするのか
「今日はお疲れ様でしたミーメ嬢」
「するべき事をしたまでですよ。ヘルムス様」
「それでもです」
徴税部隊はワタシの暗黒支配によって消えた。
オルッカ様の証言によれば、彼らはイストフィフス侯爵領の中で横暴の限りを尽くしていて、領都の外での活動に慣れている上に、人間相手の戦闘も問題なく出来る部隊だったらしい。
当然ながら、そんな部隊は魔境、魔物が存在するこの世界においては非常に珍しい部類に入るため、同様の部隊は居ても、あれ以上の質を持つ部隊は他に居ない。
レリックが関わらないなら、精鋭と言っても過言ではなかったそうだ。
まあ、ワタシにとっては暗黒支配一つで終わる程度の雑魚だったわけだが。
「混乱を避けるために表立っての称賛は出来ないのですから、これくらいは言わせてください」
「ええそうです。私からも感謝させてください。『闇軍の魔女』様」
「まあ、そう言う事なら……分かりました」
さて、そんな徴税部隊を壊滅させたワタシだが、今はメクセル男爵様の屋敷で歓待を受けている。
屋敷のダイニングルームに招かれて、ワタシ、ヘルムス様、メクセル男爵様、メクセル男爵様の奥方様の四人で共に食事をしている形だ。
メニューについては肉入りのスープ、香草混じりのパン、ワインあるいは果実水、と言った物でどちらかと言えば素朴な物であるが、しっかりと味がして、美味しいものだ。
なお、言うまでもない事ではあるが、先触れもなくワタシたちが現れた事を考えれば、食事を出してもらえるだけでも感謝して当然で、非難するなど以ての外である。
人口が百人にも満たない村に、二十二人もの人が突然現れて負担にならない訳が無いのだ。
メクセル村に来るまでに轢いた魔物の肉や、持ち込みの食料も勿論提供してはいるが、その程度で居丈高になって良い訳がない。
「それでメクセル男爵。分かっていますね?」
「ええ分かっています。知りたがった者には話させていただきますが、そうでなければ私たちは口を噤みます。もしも騒ぎ立てるような者が居れば、仰ってください。村長として責任をもって叱らせていただきます。それがヘルムス様と『闇軍の魔女』様の望みなのですから。お前もそれでいいね?」
「勿論ですわ。今日も明日もこの村は平和である。それが最も好ましい事ですもの」
「ありがとうございます」
さて、ワタシが懲罰部隊を消した事については、メクセル村の村人たちには秘密にされる事になった。
理由は勿論ある。
「ヘルムス様。こちらからも確認です。ヘルムス様と『闇軍の魔女』様、それに騎士四名に魔術師一名の計七名の方が数日の間、メクセル村に滞在されるのですね」
「ええその通りです」
ワタシたちがこれから数日メクセル村に滞在するので、騒ぎになるのを防ぎたかったからだ。
暗黒支配の圧倒的な強さによる恐怖、徴税部隊に村が狙われていたという恐怖、どちらの恐怖も騒ぎになるには十分な物で、もしも騒ぎになってしまったら、その矛先が向くのはどうしたって生きていて、姿がはっきりと見えるワタシたちになる。
そうなると面倒事以外の何物でもないので、知りたがった人間以外には、今日の事は無かったことにされたのだった。
「その、聞いても良いのならお聞きしますが、他の方々は何処へ?」
「それくらいなら構いませんよ。主に偵察と情報伝達の為に動いてもらいます。領都、他の領境の村、王城と言ったところですね」
「そうですの。必要な物などは……」
「勿論こちらで準備してありますのでご安心を」
ワタシたちがメクセル村に滞在すること含め、これらの行動は予め王城側で決めた通りの内容である。
ワタシとヘルムス様は状況が動くまでメクセル村に滞在して、村を守る。
メクセル村に残る騎士たちは、ワタシたちの護衛兼補助。
領都に向かう騎士たちは王城からの命令を伝える役割で、他の領境の村に向かう騎士たちはそちらで何も起きていない事を確かめる役割。
最後に王城に向かう騎士たちが、今日あった事を王城へと伝える役目となる。
「そうなりますと、動かれるのは早くとももう数日後。と言うところでしょうか?」
「そうなるでしょう。何処も急いでいるとは思いますが、私たち以上に早かったところはないでしょうから」
で、状況が動くと言うのが……イストフィフス侯爵を捕えるための準備が、侯爵領周囲の領地含めて整った状態になる事なので……まあ、どう考えても時間はかかる事だろう。
まず、侯爵とその周囲の人間を逃がさないようにするための包囲網を形成しないといけないのだが、その準備に時間はかかる。
次に、侯爵領の領都までの道中にある村々も占領、捜査、解放していく予定なので、どうしたって人数も必要になり、やはり時間がかかる。
そして、情報共有の為には特別な魔術か魔道具を用いるか、人を走らせるしかないので、当然時間がかかる。
と言う話なのだから。
なので、ワタシたちは機先を制する事は出来たけれど、一度ここで足踏みなのだ。
「幸いと言っていいのか分かりませんが、懲罰部隊の彼らは連絡の為の魔道具や手段を持ち合わせている様子が無かった。ならば、暫くはイストフィフス侯爵に異常が伝わる事もないでしょう。待てる時間は十分にあります」
「そうですか。それは良かった。ところでヘルムス様。滞在中のお部屋ですが……」
さて、そう言った理由で数日間メクセル村に滞在する事となれば、当然ながら宿の類はどうするのかと言う問題がある。
メクセル男爵様としてもそこは気がかりなようで、恐る恐ると言った様子でヘルムス様に尋ねている。
だが心配は無用である。
「ご安心を。先ほど村の中で適当な空き地をいただきましたので、そこに簡易の住居を建てます。そうすれば、数日くらいは問題なく寝泊まりが出来ます」
「そ、そうですか」
連れてきた魔術師の中に土属性の魔術師が二人ほど居て、日が暮れる前に彼らが土属性の魔術で土の壁を建て、そこに持ち込んだ布と柱で天井と床を作る事で、簡易の住居を既に作っているからである。
この手の簡易住居製造技術は、前世知識にあるものよりもはるかにお手軽だ。
そして、ヘルムス様も船員生活などで、そう言った環境に慣れているので、そこまで問題は無いらしい。
で、ワタシもグロリベス森林で一夜を明かせるくらいには慣れているので、そちらでも良かったのだけど……。
「ただ、ミーメ嬢についてはメクセル男爵に用意していただければと思います。私の婚約者を男ばかりの空間で寝かせるわけにはいきませんので」
「かしこまりました。娘が先日まで使っていた部屋がありますので、そちらを急いで整えさせましょう」
「ありがとうございます」
流石にそれは駄目だと言われてしまった。
まあ、当然の事ではあるので、受け入れるけれど。
「娘さんですか?」
それはそれとして。
ワタシは少し気になったので、メクセル男爵様に娘さんの事を尋ねてみた。
先ほどのメクセル男爵様の話だと、まるでしばらく前に一人欠けたように感じたからだ。
「ああ、心配なさらないでください。『闇軍の魔女』様。末娘のストリンは先日、領都に向かいまして、それで居なくなり、部屋が空いたと言うだけの話ですので」
「ふむ。領都の貴族学校ですか?」
「いいえ。あー、そうですね。情報の元は『闇軍の魔女』様だとお聞きしていますので、お二人なら伝えても大丈夫でしょう」
「「?」」
どうやら居ない事は居ないらしいが、ネガティブな理由で居ない訳ではなさそうだ。
メクセル男爵様は少し迷いつつも、理由を……ワタシが以前、王都の服飾店で話した思い付きが巡り巡ってこの村まで来て、ストリンと言う名前のメクセル男爵様の娘がそれを実現して見せた事。出来たそれを公爵様に見せるべく、ペスティアと言う名前の老魔術師と共に領都に向かったらしい。
「なるほど……。そのストリンと言う子は、素晴らしい才能を持っているようですね」
ワタシとしてはストリンと言う少女を称賛する他なかった。
アレをワタシ以外の闇属性魔術師が完成させるには、もっと時間がかかると思っていたのだけれど……まさか、そんな簡単に完成させてしまうとは思わなかった。
「そうですね。この仕事が終わったら、一度顔を合わせたいところですが……メクセル男爵、それでもよろしいですか?」
「むしろ、こちらがお願いする側でございます。その、お二人が満足いくような品を娘が作り上げていればになりますが、可能ならば娘の後ろ盾のような物になっていただけると、ワタシとしても安心するところなのですが……いえ、まずはお会いしていただければ、それで十分でございます」
「ええ、会いましょう。発端は私たちとも言えますからね」
ヘルムス様も興味を持ったらしく、会う気になったようだ。
宮廷魔術師は子爵相当の地位を持っているわけだし、確かにワタシとヘルムス様がストリンの後ろ盾になれば、表向きの地位だけでも彼女を守るには十分だろう。
うん、本人の人柄や腕前次第ではあるけれど、会うべきだとは思う。
「ストリン。どんな子なのでしょうか?」
「さてどんな子でしょうね? どんな子であろうとも、私はミーメ嬢一筋ですが」
「ヘルムス様。ワタシは気にしていませんが」
「私が気にしているのですよ。ミーメ嬢」
ヘルムス様の惚気については……敢えて気にしないでおく。
どうするのかが正解なのか、ちょっと分からなかったので。
その後、ワタシたちは取り留めのない会話を暫く続けて、それで会食は終わりとなったのだった。
04/01誤字訂正




