133:過去の遺物
第五章開幕でございます。
ワタシことミーメ・アンカーズは『闇』『人間』『万能鍵』の三属性を持つトリニティアイである。
そんなワタシが初めて魔道具を作ったのは……さて何時の頃だろうか?
単純に闇を付与しただけなら、それこそ5歳の頃だろう。
しかし、何かしらの条件に沿って魔術が発動するように、道具に魔術を付与した頃となると……流石に思い出せない。
7歳の頃には自分で魔物を狩り、加工し、売っていたので、その頃には作り始めているとは思うけれど。
ただ、売り物にするような魔道具とは、つまり、自分以外の誰かが、ワタシの与り知らぬところで用いる魔道具と言う事だ。
ワタシが想定していないような使い方をされる事は当然であるし、他者を傷つけるような用途で用いられるくらいは考えて然るべきである。
だからワタシは、少なくともそのまま使ったのであれば、誰かを害する事には使えないような魔道具ばかりを作る事にしていた。
取り扱いが複雑で難しい魔道具は作らないようにしていた。
魔術は力である。道具である。技術である。故にそれそのものに善悪は無く、責任の多くは使い手にある。
これは忘れてはいけない、厳然たる事実である。
「では、改めて状況を整理しましょう」
さて、何故このような回想を私がしているのかと言えば、目の前の話の流れがそう言う方向になっているからである。
「そうでございますね」
「だな」
「そうですね」
「おうっ」
今は王都に巣くっていた非合法魔術師組織『ブラックハート』の一斉捕縛作戦及びトリニア教の一部とイストフィフス侯爵の手の者を調べ、捕らえる作戦から数日経ったところである。
この間、王城の優秀な人たちが総出となって、ワタシたちが集めた資料を検分していた。
その結果、多くの事が分かったので、今はそれの共有が行われているところである。
ただ、共有するべき内容ごとに聞く人間も制限した方が良いという事で、今ここに居るのはヘルムス様、グレイシア様、ジャン様、ワタシ。それと……何故か『石抱きの魔術師』ことライオット・フォン・イストフィフス様も居る。
『石抱きの魔術師』様は一応、先日の件で捕まった側であり、今も手錠や魔道具で色々と制限を受けている身なのだが、此処に居ていいのだろうか?
いやまあ、ヘルムス様が許しているから、ワタシは口に出して咎めたりはしないのだけれど。
「まず、先日の捜査で多くの事柄が明らかになりました。具体的にはイストフィフス侯爵による王族の殺害及び王位の簒奪計画ですね。当然ながら、これは絶対に許される事ではありませんが、我々の行動によって一先ずは頓挫したと考えていいでしょう」
ヘルムス様の言葉にワタシたちは揃って頷く。
なお、これは余談となるが、今頃は侯爵の下に王都への召喚命令が届いているはずである。
実の息子である『石抱きの魔術師』様含めて、誰も侯爵が素直に応じるとは思っていないものだが。
「しかし、計画が一つ頓挫した程度で諦める侯爵ではなく、こうなれば悪足掻きかもしれませんが、反乱を起こすことは必定と言っていいでしょう」
応じると思っていない証拠としては、ワタシたちが今行っている情報の共有と同じような事を、陛下、宰相、宮廷魔術師長、騎士団長などなどを集めた場でも行われていて、そこでは今後の事……反乱の鎮圧計画も考える事になっているからだ。
いやまあ、陛下たちなら相手が素直に応じると分かっていても、念のためにで、こう言う話し合いくらいはするのかもしれないけれど。
「しかし、もしも悪足掻きでない反乱を起こすとなれば。それ以前に、王位の簒奪を考えるのであれば、どうしても相応の武力は必要になります。それも、宮廷魔術師に比肩し劣らないような武力でなければいけません」
「つまり、イストフィフス侯爵が王位の簒奪を考えるだけの兵力、魔術、技術、魔道具のいずれか……あるいは全部がある。と言う事ですね」
「ミーメ嬢の言う通りです。侯爵はノスタと違って狂気に落ちていないでしょうし、流石にそれ無しならば、侯爵領の外にまで手を広げようとは思わなかったはずですから」
話を戻して。
反乱程の行動を理性的に起こそうと思うのなら、理由だけでは足りない。
反乱が成功すると言う目算が立つだけの何かが無ければいけない。
では、侯爵が持つ何かとは何だろうか?
「問題はそれがなんであるかですが……」
「ま、一番あり得るのはレリックだろうな。イストフィフス侯爵領はグロリアブレイド王国におけるトリニア教の総本山、方面長と言う頂点がある領地で、クソ親父と今の方面長……ああ、こっちは人な。コイツは肩を組んで踊れるぐらいには仲良しだ。そして、あそこならレリックの一つや二つくらいは隠し持っていたって驚きやしねえよ」
レリック。
それはトリニティアイが全力で作った魔道具の事を指し示すらしい。
トリニティアイは、グロリアブレイド王国の耳目が届く範囲においては、ワタシを除くと『開拓王』を最後としている。
つまり、500年近く現れていない存在だ。
しかし、聖地トリニアが健在であった頃には、トリニティアイは沢山居たらしい。
なので、あるべきところにはトリニティアイが全力で作った魔道具もまた沢山あったようだ。
けれど、長い歴史の中で使われて、紛失して、摩耗して、劣化して、トリニティアイが全力で作った魔道具は少しずつ数を減らしていき、何時の頃か聖遺物などと呼ばれ、特別な扱いをされるようになったのだとか。
「私の言葉を遮らないで欲しいんだが? ライオット」
「分かり易く答えを言っただけだろうが、トレガレーの坊ちゃん」
「おうおう、落ち着けよな。二人とも。ほら、今は情報の共有中だろ」
ヘルムス様と『石抱きの魔術師』様が睨み合い、ジャン様がそれを止めている現状についてはさておいて。
レリックがイストフィフス侯爵の手の内にある可能性は決して低い物とは言えないだろう。
聖地トリニアが滅んだ頃、グロリアブレイド王国はまだ成立していなかったが、開拓は既に始まっている。
少なくともトレガレー公爵領とその周囲の土地くらいは人が住める状態であったはずだ。
そのような状況なら、聖地トリニアが滅びるような何かから上手く逃れる事が出来たトリニティアイが、一人くらいグロリアブレイド王国まで流れ着いて、現地のトリニア教に魔道具の提供と引き換えに助けを求めるくらいは何もおかしな話ではない。
そして、この推測が正しく、侯爵が『石抱きの魔術師』様の語る通りの人物であれば……レリックを私欲で利用する事は決しておかしな事ではないだろう。
うん、罰せられるべきは侯爵であり、レリックの作り手ではないだろう。
だって、これまで先代までのイストフィフス侯爵家はこれほどまでに大きな問題を起こしていないのだから。
そもそも、レリックの作り手は大昔の人で、もう居ないのだし。
「ヘルムス様。ワタシたちが考えなければいけないのは……相手が用いるであろうレリックへの対策ですか?」
「それもあります」
「それも?」
考えがまとまったところでワタシはヘルムス様に尋ねる。
レリックがトリニティアイが全力で作った魔道具なら、それに対抗するのは、同じくトリニティアイであるワタシの役目。
そう思っての問いかけだったが、他にも考えるべき事はあるらしい。
「相手がレリックを持つか否かも、仮に持っているとして、そのレリックの詳細がどのような物なのかもまだ分かりませんから。ですが、侯爵が反乱を起こし、その反乱の鎮圧作戦が行われる事はほぼ確実です」
「そうですね」
「ですので、より正確な相手の内情が分かったり、詳細な作戦が決まる前から準備できる物を準備しておく事も、私たちの考えるべき事になります」
「なるほど」
つまり、作戦を決めるのは、もっと賢い人たちの役目であり、ワタシたちは情報を得て、これは必要そうだという物を先に作っておくのが今は仕事になるのか。
そう言う事なら……うん、是非とも作っておきたい物がワタシにはある。
これまでは様々な事情から作らないようにしていたものだが、今なら専門家の助力も得られるだろうし、作ってみてもいいだろう。




