121:状況整理と作戦会議
「ヘルムス様」
「おや、ミーメ嬢」
ワタシはヘルムス様の下を訪れた。
部屋の中にはジャン様の他、数人の騎士、魔術師、文官の方が居て、机と壁には幾つもの資料が張られている。
また、ワタシは素通しだったが、部屋の入り口には騎士の方が立っていて、部屋の中に入る人を精査しているようだった。
「なるほど。ヘルムス様はもう既に計画を立てている最中なわけですね」
「その通りです」
資料に目を向ければ……。
『ブラックハート』の拠点が王都内の何処にあるか。『ブラックハート』の協力者と思しき人間がトリニア教の教会に入るのを目撃したと言う話。ここ数年の呪いの被害者についての詳細情報。資金の流れ。エトセトラ、etc.
とにかく、非合法魔術師組織である『ブラックハート』とトリニア教の一部が裏で手を組んでいる事を示すような資料が沢山あった。
また、恐らくだが、これまでに捕まえた犯罪者を対象とした『イーリィマップ』による調査も行われたのだろう。そう言う資料も置かれている。
そして、資料の一つ、王都の地図の上には幾つもの駒が置かれていて、今正に制圧のための作戦を立てている真っ最中のようだった。
「ただ、ミーメ嬢。改めて申し上げますが、今回の件はミーメ嬢が嫌うような、貴族としての面倒事。それその物のような話です。ここで話を聞けば、それに巻き込まれますが……いいのですか?」
「構いません。面倒事ではありますが、手を打たない方がもっと面倒な事になりそうですから。後、荒事ならワタシの得意分野です。それから……」
「それから?」
「ワタシはヘルムス様の婚約者です。何時までも、関わらないと言うのも無理がありますから」
「……。ありがとうございます。ミーメ嬢」
ワタシはヘルムス様の言葉に堂々と返す。
実際の所、今回の問題はこれ以上放置をすれば、ノスタの件と同じか、それ以上の被害を出しかねない話になりつつある。
そんな事になるぐらいなら、ワタシが出て、何とかなる部分については、ワタシが何とかしてしまった方が良いだろう。
なにせワタシはトリニティアイであり、その実力は圧倒的な物なのだから。
対してヘルムス様は柔らかく微笑み、嬉しそうにしている。
「さて、そう言う事ならば、改めて情報のすり合わせをしましょうか」
「そうですね」
それからヘルムス様が現状、分かっている事について説明をする。
曰く。
非合法魔術師組織『ブラックハート』は様々な非合法活動をしているが、その中には呪いを扱っている者たちが居る。
彼らが呪う対象は誰かから依頼された者も多いが、イストフィフス侯爵に敵対的な者も多い。
そうして呪われた人間はトリニア教の教会に金銭を寄付し、自身の呪いを解除してもらうか、いつの間にか仕込まれた呪いの品を引き取ってもらう事になる。
しかし、呪いを解除されても、再び呪われて……またトリニア教に寄付をする事になる。
そうやって得た多大な資金の一部は、王都の教会からイストフィフス侯爵領の教会へと流れ……恐らくはそこから更にイストフィフス侯爵や『ブラックハート』へと、流れていっている。
また、もっと直接的に王都の教会から『ブラックハート』へ資金や物資、あるいは何かしらの情報が流れている可能性も高い。
確実な事として、『ブラックハート』、トリニア教の一部、イストフィフス侯爵の三者が相互に協力して、悪事を働いている。
だが、確実な証拠を掴まなければ、侯爵は知らぬ存じぬで生き延びてしまうだろう。
との事だった。
「と、このような状況ですので、我々は現在『ブラックハート』の一斉捕縛を目指しています」
「なるほど。それで上手く証拠が掴めれば、教会やイストフィフス侯爵にも捜査の手を伸ばす。と言う形ですか?」
「そうなっています。とは言え、よほどの証拠でなければ王都内の教会はともかく、侯爵までは手が届かないでしょうから……そこは運ですね」
ヘルムス様は運と言っているが、実際の所はサキさんの働き次第なのだろう。
ただ、サキさんが何をしているかは掴めないので、運と言っているのだろうけど。
「それでミーメ嬢の情報は?」
「そうですね。ヘルムス様たちの調べに一つ付け加える事があります」
ではワタシからの情報。
と言っても、大半の事はヘルムス様たちの方が詳しいので、ワタシから付け加える事はそう多くない。
「教会ですが、呪われた品の一部を『ブラックハート』に流していると思います。そして『ブラックハート』はその品から呪いを抽出して、次の呪いに生かしている可能性があります」
「……。根拠はありますか?」
「教会の地下倉庫で感じた呪いの濃さと品の少なさのチグハグさですね。呪いが濃い割には品が少なかったので、持ち出しは確実にされています。なんなら、自然浄化も普段は止めているかもしれません」
「なるほど。つまり、『ブラックハート』の拠点に地下倉庫から持ち出された物と思える品があれば、教会が裏で通じていた証拠の一つになりそうですね」
ヘルムス様によると、教会から物が盗まれたと言う届け出はないらしい。
なのに教会に在るべき物が犯罪者の持ち物として見つかったのなら、少なくとも教会を調べるに足る証拠にはなる事だろう。
なので、ワタシの出したこの情報は、知っておいた方が良い情報になるだろう。
「んー、ミーメ嬢。その呪いの抽出って奴。やって大丈夫な技術なのか? 俺っち、凄く嫌な予感を覚えているんだが」
「ジャン様の懸念は正しいですよ。たぶんですが、抽出を重ねる度に少しずつ呪いが強化されていって、危険で制御が難しい代物になっていると思います。アチラがどういう管理をしているかにもよりますが、下手をすれば教会の地下倉庫で見た悪霊なんて比較にならないような危険な何かが現れるかもしれません」
「おおう……」
そして、呪いの抽出については絶対に知っておいた方が良い情報になる。
相手がやっていると言う確証はないが、もしもやっていたならば、黒い絵の具の中からより黒い部分を選び出すように。あるいは鍋でひたすら煮詰めたかのように。とても濃い呪いが出来上がっている可能性がある。
相手が非合法組織である事を考えれば、より効率的に呪いを得るためだとか言って、もっと良くない事をしている可能性だってある。
つまり、ワタシでもしっかりと対処しないといけないような、かなりヤバい物が出てくる可能性もゼロではない。
と言うより、それぐらいの物が出てくるからこそ、サキさんが危険を冒してこちらに情報を伝えようとしたのではないかと、ワタシは思ってもいる。
「なるほど。我々が想定したよりも危険な相手になっている可能性があるわけですか」
「そう言う事ですね」
ワタシの言葉にヘルムス様は悩む様子を見せている。
地図を見る限り、『ブラックハート』の拠点は王都内に数カ所ある。
その全てに一斉にかからなければ、貴重な証拠が失われる可能性もある。
だから、数を揃えて一斉にかかりたいわけだが……相手の質が上方修正されるとなれば、必要な戦力も変わるので、判断が難しいのだろう。
なお、今回の状況だと、ワタシの『わたしのぐんぜい』や闇人間たちで補うのは無理だ。
ワタシが近くに居ないと細かい判断が出来ないので。
「……。ミーメ嬢。ミーメ嬢はこの拠点をお願いできますか? そして、こちらの制圧が完了し、十分な証拠があったのなら、此処の教会をお願いします」
「分かりました」
やがてヘルムス様は何かを決断した様子で、地図上の二カ所を順々に指さす。
一カ所目は『ブラックハート』の拠点の中でも特に大きく、人の出入りも激しい……恐らくは本拠地と思われる場所。
二カ所目はつい先日も訪れた『聖アンザンシ教会』。
つまり、相手の抵抗が激しいであろう場所だ。
「注意事項として。今回は出来る限り相手を殺さないようにお願いします。何処の誰が重要な情報を隠し持っているか分からない状態ですので」
「はい」
殺さないのは……まあ、何とでもなる。
とりあえず、初手『暗黒支配』でいいだろう。
その後、ヘルムス様はジャン様や騎士たちの配置も決定。
動くのは……猶予が無いと判断されて、明朝と言う事になった。
「では、王国の為にも力を尽くすとしましょうか」
そうしてワタシたちは動き出すことになった。
03/09誤字訂正




