第14話 Dゲーム②
「し、静かに!」
安心院が声を張り上げると
教室に静寂が戻った。
「と、冬至くん。
名前を・・」
安心院に促されて
僕は慌ててホワイトボードに
「安武マリア」の文字を書いた。
重苦しい空気が教室を包み込んでいた。
そんな中。
廊下側一番前の席のマリアは
姿勢を正して普段通り穏やかな表情で
椅子に座っていた。
よりによって
幻夜の投票用紙から開くとは。
僕はこの空気を作り出した
張本人を盗み見た。
幻夜は机の上で両腕を組んで
まるで自分には関係がないとでもいう風に
窓の外を眺めていた。
「円響・・」
安心院の声にふたたび教室が騒ついた。
「えっ?」
僕は安心院を見た。
安心院も僕の方を窺っていた。
投票用紙を手にした安心院の目が
僕に何かを訴えていた。
「ちょっと!
ふざけてるの?
何であたしの名前が呼ばれるのよ!」
教壇の前の席の円が立ち上がった。
「じ、自分は投票用紙に書かれた名前を
読み上げているだけだ。
責められる筋合いはない」
安心院は円の剣幕に若干怯みつつも、
毅然とした態度で言い返すと
改めて開票作業に入った。
「円響。
そして。
・・円響」
安心院が立て続けに
円の名前を読み上げた。
「ちょっと!
いい加減にしなさいよ!」
円がふたたび抗議した。
「開票中だよ。
静かにしてな」
その時。
廊下側一番後ろの席の
剣野麻衣
の声が教室に響いた。
ショートカットの青い髪。
細い眉の下の二重の吊り目は
円に勝るとも劣らない
気の強さを表していた。
スッとした鼻筋に一文字型の唇。
全体的に整った顔立ちをしていた。
正義感が強く男勝りで、
円とは犬猿の仲だった。
剣野はクラスの女子の中では1番背が高く
幼い頃から剣道を習っていて
常に生傷が絶えなかった。
この学園に剣道部はない。
そのため彼女は宿禰中央警察署の武道場に
週に4回通っていた。
余談だが。
彼女の父親は中央警察署の署長である。
円が振り返って剣野を睨み付けた。
一瞬で教室の空気が張り詰めた。
「開票を続ける!」
安心院が額の汗を拭ってから
新しい投票用紙を手に取った。
円は唇を震わせて椅子に座った。
「剣野麻衣・・」
「あっはっは」
円が手を叩いて笑った。
「し、静かに。
残りは3票だ」
そして安心院は新たな投票用紙を開いた。
「あ、安武マリア・・」
「えっ?」
僕は聞き間違えたかと思い、
安心院の方を確認した。
安心院が小さく首を振った。
ふたたび重苦しい空気が
教室を包み込んだ。
安心院がゴホンと大袈裟に咳をして、
次の投票用紙を開いた。
「安武マリア・・」
僕は躊躇いつつ
マリアの名前の横に3本目の線を引いた。
安心院が気まずそうに僕の方を見ていた。
僕は小さく頷いた。
安心院はゆっくりと
最後の1枚の投票用紙を広げた。
「円響・・」
教室がどよめいた。
「うわぁぁぁ。
女王様が奴隷かよぉ!
すげぇ!」
お調子者の圭太が
立ち上がってはしゃいだ。
円が振り返って圭太を睨み付けた。
すぐに良司が圭太の制服を引っ張って
強引に椅子に座らせた。
教室が異様な興奮に包まれていた。
「無効よ!これは無効よ!」
円のヒステリックな叫び声が
その名前の通り教室に響き渡った。
「それは・・
さすがに都合が良すぎるんだなぁ」
良司がそっと圭太に囁いたが、
その声は教室中に聞こえていた。
「何ですって!
あなた達、
あたしを誰だと思ってるのっ!」
円がバンッと激しく机を叩いて
立ち上がった。
「・・投票で決まったことなら
その結果に従いましょう。
それがこのゲームを始めた時に決めた
ルールでしょう?」
その時。
凛として透き通った声が教室に反響した。
マリアだった。
「今月はあと半分。
響もその間だけ我慢しましょう、ね?」
マリアにそう諭されて、
円は渋々ながら腰を下ろした。




