第六話 ばんえいダービー観戦
十二月上旬。帯広競馬場は、小雪が舞いなか、ばんえいダービー(BG1)の熱気に包まれていた。
飛田牧場一行は、特別観覧席に陣取っていた。
凛花は目を輝かせ、レースプログラムを握りしめている。
武田文吉、美保晋三、飛田雅樹、瑤子、遊馬も一緒だった。
「これが……3歳馬の頂上決戦か」
武田が低く唸った。 ばんえいダービー。
3歳馬限定、定量730kg(牝馬は710kg)の大一番。
直線200m、2つの障害を越え、ソリの後端でゴールを争う。
ゲートが開いた。
「発走!」
10頭の巨大なばん馬が、一斉に鉄ソリを引いて雪の粉を舞い上げた。
先頭はライジンサン(1番人気)。
続いてキョウエイエース、タカラプリンセス、ホクセイダイヤらが激しく追いかける。
第1障害(高さ約1m)を越える瞬間、場内がどよめいた。 凛花が息を飲む。
「すごい……! あんな大きな体で、あの坂を一気に!」
第1障害を越えた直後、騎手たちの駆け引きが始まった。 多くの馬が「刻み」を入れる。
ソリを一旦止め、馬に息を入れさせる作戦だ。
しかし、キョウエイエースは刻まずに第2障害へ向かった。
「無茶だ……!」
武田が思わず声を上げた。
第2障害(高さ約1.6m)。
ここがばんえいダービーの最大の山場だった。
先頭のキョウエイエースが坂に挑む。
巨大な後肢が雪を抉り、筋肉が激しく波打つ。
ソリが重く沈み込む中、騎手は必死にバランスを取りながら手綱を操る。
「行けぇぇ!!」
キョウエイエースが第2障害を越えた瞬間、観客から大歓声が上がった。
しかし、障害を越えた直後が勝負の分かれ目だった。
後方からタカラプリンセス(牝馬)が驚異的な粘りを見せる。
710kgの定量をものともせず、重いソリを引きながら猛追。
最後の50mで、キョウエイエースとの差がみるみる縮まる。 凛花が立ち上がっていた。
「すごい……! 牝馬なのにあんなに粘る……!
夢雪ちゃんも……いつかあんな風に……!」
ラスト20m。
二頭のソリの後端が並んだ。
騎手たちの叫び、馬の息遣い、鉄ソリの軋む音。
すべてが混じり合い、観客の歓声が頂点に達した。 ゴール!
キョウエイエースが、僅差でタカラプリンセスを振り切り、ばんえいダービー優勝!
場内が割れんばかりの拍手に包まれた。
武田文吉は腕を組んだまま、静かに呟いた。
「……面白い。
サラブレッドとは全く違う。
この『重さ』と『根性』……俺の血が騒ぐぞ」
凛花は興奮冷めやらぬ様子で、プログラムを握りしめていた。




