暁-5
年が明けて、俺は宝田と瑤子にある提案をした。
ビンゴを売った事によりある程度のお金を手に入れたが、それを牧場の設備や施設増設に使いたいと。
「ぼっちゃん…それ最高でんがな!」
「うん!凄く良い!」
二人とも納得してくれた。
俺は思ったんだ。龍田はメディアで競馬をアピールしてくれている。だったら俺は、末端の小規模牧場のレベル上げをしていこう。
今俺に出来る事はそれしかないと…。
宝田の提案で、近隣の小規模牧場にも利用してもらえる馬の医療施設を建てる事にした。もちろん院長は宝田で、うちの仕事も兼任してもらう。
そして瑤子の提案で、乗馬クラブを営業する事になった。一般の人に馬と触れ合ってもらう事で馬と言う動物、そして競馬と言うスポーツに関心を促すのが目的だ。観光促進にも一役買えるかもしれない。春文に事情を説明した所、快く快諾。社来ホースクラブや近隣の牧場との共同経営で話を進めている。
龍田ほどではないが、俺も少しは前進出来た気がした。
龍田と久々に会ったのは出産シーズン目前の2月。
この辺りではお洒落で評判の
Jazz Bar《Mr CB》
で飲む事となった。
「なんでも貧乏人が集まってなんかしようとしているらしいな?」
相変わらずの憎たらしい態度だ。
「ああ。医療施設は来月から。乗馬クラブはすぐにでも開ける。」
春文や近隣牧場の人達が乗馬用の馬を調達してくれた。
「ところでドラゴンアローは元気になったかい?」
「脚は普通に歩くぐらいはできる。最近じゃあ気持ちも落ち着いたらしく元気だよ。」
俺はホッとした。
「だったら今年からバンバン種牡馬として活躍だな。」
しかし龍田の口から意外な答えが帰ってきた。
「 種牡馬にはしない…いや、種牡馬にはなれないんだ…」
どういう事だ?
「脚の傷は徐々に回復している。心の傷もスタッフの必死のケアで良くなっている…ただ…繁殖能力がないんだ…」
やはりあのレースでのショックからだろうか…ドラゴンアローは繁殖能力を失ってしまったのである。
シンジゲートを組むためのメディカルチェックで判明したらしい。
悪い事は重なる…。
「まぁ来年にはドラゴンアローの全弟がデビューだ。そっちに期待するさハッハハ!」
強がって見せる龍田にかける言葉が見つからなかった。
ん?
あ!
突然、俺の脳裏に電撃が走った。
「おい!龍田!俺…いい事を思いついた!」
不思議な顔をする龍田。
2月末。乗馬クラブ
《ドラゴンアロー記念乗馬クラブ》
が営業を開始。
閲覧馬としてドラゴンアローを見学できる乗馬クラブだ。
かなりの会員数も集まり、ドラゴンアロー見たさに観光客も集まった。
ドラゴンアローは第2の人生を、地元の経済向上に尽力する事となった。