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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン1 chapter2
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暁-3

天皇賞の興奮冷めやまぬ翌週は中学の15年ぶりの同窓会。

馬産地の田舎中学だから、1クラス単位ではなく1学年単位で行われる。まぁほとんどが牧場関係か競馬関係の仕事についているから別に懐かしい友達と再会って事は少ない。


会場は地元の居酒屋神山(シンザン)。同窓会じゃなくてもここに来れば馴染みの顔ばかりだ。


俺が着いた時には、すでに八割方揃っていた。春文と目が合い挨拶をしてビンゴの話を聞いた。元気そうだ。


まだ全員揃ってなかったが乾杯をし、宴は始まった。

そして遅れて龍田が到着。もちろん話題はドラゴンアローだ。

今や時の馬の馬主だけにこの話題は盛り上がった。しかもテレビやメディアに引っ張りダコの龍田仁。芸能人のような活躍ぶりだ。

龍田の周りにはいつも人が集まる。昔、俺はあいつが少しうらやまかった。

…結局…妬んでばかりの人生さ。



しかし今日は俺にとって嬉しい再会もあった。



中央競馬のジョッキー村木義男だ。

中学の時の親友。最後に会ったのが5年前になる。

村木は中学卒業後、中央競馬の騎手過程に入学。3年間厳しい訓練を受け、見事ジョッキーになった。なかなか平地でいい馬に会えなかったが、障害レースで活躍。ここ数年は障害リーディング上位に定着している。


「本当は僕も平地で乗りたいんだけどね~障害が合っているみたいで~」

やんわりとした性格は変わっていない。春文とは今も交流があるらしく社来系列の障害馬は村木がほとんど乗っている。おそらく春文とは温厚な人柄同士気が合うのだろう。


「俺馬主の資格取ったから、今度乗ってくれよ」

俺は何気無く言った。

「まさか…あのセリの時の馬?」

春文は思い出したかのように笑いはじめた。

「え~?なんの話だよ?」

興味を持った村木に春文はすべてを話した。

すぐに俺もその事情を話したが。


「ふ~ん…そんなに愛情もらった馬だもん。きっと走るよ」

村木は笑わずにこう言った。


いや…村木…笑ってくれた方が…俺は楽だ…。


宴もお開きとなり村木に再会を約束し、帰ろうと思ったとき、俺を引っ張るヤツがいる。

龍田だ。


「よし、貧乏人。今夜は俺がおごってやる。次行くぞ」

こいつ酔ってやがる…。なぜか春文も強制連行されて着いたのは、高級会員制クラブ皇帝(ルドルフ)


俺は初めてクラブってやつにきた。クラブと言っても若者が踊るクラブじゃない。座っただけで何万もとられるクラブだ。



「あら~龍田社長、あらあら春ちゃんまで~いらっしゃい」


なるほど、春文も使ってる店か。



「ママ、ドンペリニョンを頼むよ」


龍田がなにやら高い酒を頼みだした。


「よし、じゃあ乾杯!」


なんてうまいシャンパンなんだ!


俺の両脇には美人なお姉ちゃんが接待してくれる。


しかし突然

「ママ、しばらく席を外してくれ…」

龍田の言葉に一斉に美人なお姉ちゃん達はいなくなった。


なにしてくれるんだ龍田!やっぱりおまえはバカだ!なにが悲しくてこんな所で男三人で飲まにゃならんのだ!


「ドラゴンアローはもう駄目だ…」

龍田がポツリと言った。

なに言ってんだコイツ…。


「やっぱりそうか…」

春文も言った。


おまえら何を言ってんだ?


「明日…正式に発表する。」


なにを?


「ドラゴンアローは引退だ…」


は~?どう言う事だ?


訳が解らない俺に春文が言った。


「僕も気になってたんだ…あれだけのレースに馬が耐えれるのかって…普通の馬があんなレースしたら脚のすべての腱が千切れるよ…」


龍田はうつ向いたままだ。


龍田が更に説明してくれた。

ドラゴンアローはあの秋の天皇賞後に競走能力を失う程の屈腱炎を発症。しかしそれよりもドラゴンアロー自身の心にまで障害を与えてしまったのだ。


「騎手や調教師のせいではない。己や馬に過信していた俺のせいだ」

龍田は自分を責めた。


その後、グデングデンに酔っぱらった龍田をタクシーに乗せ、春文と二人で安居酒屋、【純ちゃん】に入った。


なんだか切ない気持ちだ。


もう20年以上の腐れ縁である龍田のあんな顔を今まで見たことなかったし、ましてやあのドラゴンアローが引退だなんて。


「飛田くんは 龍田くんを誤解してるね」


純ちゃんでレモンサワーを飲んでいた俺に、焼酎お湯割り(梅入り)を飲みながら春文が言った。


誤解って?


「飛田くんは 龍田くんが、ただ龍田ファームを継いだだけの派手なシルバーのメルセデスを乗り回しているボンボンだと思ってるだろ?」


え?違うの?


「なぜ龍田くんがテレビやメディアに出演しているかわかるかい?」


目立ちたいからだろ?


「今…日本の地方競馬は潰れ廃れていく一方だ。中央競馬だって売り上げは年々落ちている。これは競馬収益だけではなく、僕たち馬産業の人間にも大きなダメージだ。」


いつもは温厚な春文が少し興奮している。


「彼は少しでも競馬を世間にアピールするために露出しているんだ。時には成金扱いされてバッシングの対象にされる。でも彼はどんなにバカにされても辞めることなく続けているんだ。僕は 龍田くんほど競馬界全体を考えている人間はいないと思ってるよ」


まるで頭に雷が落ちた心境だった。そう言えば龍田は数々の地方競馬のスポンサーにもなっている。地方競馬への支援をしているのだ。


「おそらく今日ドラゴンアローの話を飛田くんにしたのは、これから馬主になる飛田くんへの龍田くんなりの教訓なんじゃないかな?まぁ僕や飛田くんは龍田くんとは古いから、なんとなく僕たちに話をしたかったのかもしれないね」



結局…成長していないのは俺だけだったって事だ…。


龍田は成金でバカみたいなキャラクターを装って必死に競馬をアピールしていたんだ。

まさにプロの馬主だ。


春文だって吉野の三男として大きなプレッシャーの中、堂々と会社を繁栄させているし、村木だって自分の道を一生懸命歩いている。


人を妬むだけで…人を羨むだけで…なにもしなかった自分が情けなくなった。


春文は言った。

「僕たちにもきっと何かできるさ。龍田くん程のカリスマ性はないけどね。」


「ああ…そうだな…」


ちっぽけで薄っぺらな自分を改めて見えた純ちゃんの夜だった。

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