表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い景色に空いた穴  作者: 香久山ルイ
31/67

人の噂

 人の噂も七十五日、だっけ。そんな成句があった気がするんだけど。

 幸葵くんの噂は日に日にひどくなっているような気がする。例えば放課後に自分に想いを寄せているっぽい女子を体育館裏に呼び出してさんざんっぱらにその子を批判して振ったという自意識過剰説。そんなこと猫が逆立ちしたって幸葵くんはしないと思うけれど。




 聞いている身としてはやはりいい気分にはならない。

 はあ、と溜め息を吐いた昼休み。白崎幸葵危険人物説が流れてから七十五日どこらか百日は悠に経ったのではないかという頃。まあ、噂話というのは伝言ゲームのようなものだから尾ひれはひれがつくのは仕方がないか、と半分諦めつつも、残り半分は気になっていた。

 けれど七十五日も過ぎたところで噂はピークを迎えたのだろう徐々に鎮まる気配を見せてきたから、まあいいか、と僕は居住まいを正す。

 ちなみにどういうご縁か、夏休みが明けて、行われた席替えでは、僕と幸葵くんが前後になった。なんとなく安心する。


 昼休み明けは数学だ。予鈴が鳴る前に準備しておこう、と机を探る。

 今日は弁当ではなく、購買戦争に参加していた。けれど、北見さんに土下座されて以来、「死ね」と書かれたラブレターが届くことはなくなっていたので、本当に北見さんが犯人だったんだなぁ、と実感した。




 油断していたのは確かだ。




「あれっ?」




 僕がその違和感というか危機感を抱いたのは机を探ってすぐ。……数学の教科書がない。

 嘘でしょ、と口の中で呟きながら、鞄を見る。当然のようにない。今朝鞄からは出したような気がするから。

 いや、待てよ。気がするだけだから、これは確定情報ではない。机にない、鞄にない、置き勉なんてしないから当然ロッカーにもない、ということは。


「数学の教科書忘れた!?」


 思わず絶叫してしまったが仕方ない。周りが「うわぁ」とか「南無三」とか言っている。明日死ぬ人を見るような目が向けられている。

 それもそうだ。数学の教師は鬼の名を冠するほど手厳しいのだから。


 まさかこんな日がやってこようとは……

 我がクラス担当の数学教師は「オニセン」の異名を持つ。由来は「鬼のような先生」。予習復習をしない生徒に疾風怒濤容赦のない指名、教科書、ノート、ワークなどの忘れ物なんてもっての外だ。

 他のクラスから借りてくるという選択肢が残っている、と思った僕だったが、無情にも予鈴が鳴り響く。予鈴とは授業開始五分前のチャイムだ。オニセンは時間に厳しい。時には予鈴が鳴った直後に教室に入ってきたりする。そうとなったらもう誤魔化しは効かない。ちなみに隣の人に見せてもらう、というのもアウトだ。忘れ物は許されない。問題を板書してもらえる代わりに授業範囲全部を解かされるなんてざらだ。

 僕の成績は中の中くらい。難しい問題に当たったらどうしよう……




 そう思い悩んでいると、天使が舞い降りた。




「相楽、教科書忘れたんですか? 貸しますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ