第5話
「僕も<星の魔法使い>になる!」
「おお!そうか少年!だけど難しいぞ?」
「そんなの知ってるよ!」
「少年になれるかな?」
「なれるもん!」
「こら意地悪しないの」
少年と男女二人の声が聞こえる。
何だろう、どこか懐かしい匂いがする。
「僕無属性だけど、頑張って絶対強くなるから!」
がさっ!
伏せていた顔を勢いよく上げる。その顔はどこか悲し気な表情を浮かべていた。
薄っすらと開けた眼で周りを確認するが誰もいない。
沈みかかった夕日の眩しい光が教室を赤く染めていた。
「もうこんな時間か」
すでに授業は終わっており、隣のクラスからも何も聞こえない。自分が嫌いでしかないこの教室もこれだけ物静かだと悪い気はしない。
鞄を手に取り立ち上がり俺は寮へと向かった。
(しかし最近あの頃の夢ばっかり見るな)
それはまだ俺が6歳だった頃。この時の出来事ばかり夢に見るのだ。
小さな国アライリアの東の端にある村トリニア、俺はそこで生まれた。
6歳の誕生日を迎えたその日は、属性と魔力量を測る日だった。
同じ村の子供たちも次々に結果を出し、自分が計る日が待ち遠しかったが、その結果は最悪なことに無属性だった。
小さいながらも無属性が不遇の属性であることは知っていた。
自分の結果がその無属性に該当してしまい、俺は家を飛び出した。
どこか遠くに、誰も居ない場所に。
どのくらい走ったかも忘れてしまうくらい無心に走り続けてたどり着いた場所はトリニアの隣にある森だった。
至って普通のこの森には魔物が存在している。魔物にもF〜Sランクと階級があるが、この森にはFとEランクの魔物しか生息していない。
しかしまだ魔法も使えない子供の俺にとってほ低ランクの魔物だとしても敵う相手ではなかった。
森でただ一人蹲って涙を流していた。
ガサガサッと草木が揺れる音がした。赤く腫れた目を手で擦りながら音のした方を向く。
「ガルルルウゥ…」
泣き声に引かれてきたのか、人間の臭いを辿ってきたのか、その正体はFランクの魔物<ウォーウルフ>だった。
涙を浮かべていたが、魔物の姿を見た途端恐怖が全身を駆け巡り、逃げようとも身体が言う事を聞いてくれない。
のそのそと既に俺を餌だと思ったのかゆっくりと近付いてくる。勝つのが分かりきっている事からくる余裕だろう。
「ひっ…」
恐怖によって全身を固められ、全く身体に力が入らなかった。声にならない声を漏らした。
もうダメだと思った。助からない。でもこれで良かったのかもしれない。これから先死ぬまで付きまとう悪魔のような重荷はただ辛いだけだ。
自分が獲物を狩る距離まで詰めてきたウォーウルフは、視線を俺にロックし体勢を構える。脚に力を体重を乗せ、一気に跳躍する。
目を閉じた。もう終わりだ。
「・・・っ」
何かが身体に降りかかってきた、。しかしそれは痛みではない。何か生温かく鉄のような臭いが鼻を刺激する。
何が起こったのかゆっくりと目を開ける。視界が徐々に開ける。目の前にぐったり倒れたウォーウルフの姿が目に映った。
「少年!大丈夫か!?」
赤い血が地面に広がる。倒れたウォーウルフの隣には黒いマントで全身を覆った男女二人が心配そうに立っていた。
「血がかかっちゃったね」
綺麗な金髪の女性がアイテムポーチからタオルを取り出しエルの顔を拭く。血で汚れた俺の顔は綺麗になっていくが、血が降りかかった感触は身体から抜けない。恐怖で染められたその時の俺は安心したのか涙を浮かべる。
「あらあら、怖かったのね。もう安心だよ」
女性がそっと優しく抱きしめた。温かかった。絶望していた俺にとってこのぬくもりは何よりも安心できる瞬間だった。我慢していたものが溢れ出す。
「うわあああぁぁぁん!なんで、なんで僕が無属性なんだ!どうしろっていうんだ!」
泣き喚く俺を女性は嫌がることなく力ずよく抱きしめる。
泣き声は静かな森に響きわたった。




