白い箱(掌編・新作)
ここに白い箱があるとしよう。
その箱は人が一人入っても全く窮屈じゃない大きさだ。
さぁ、君ならその箱に何を入れる?
私なら。
私ならまずは机だ。それも幅が広く奥行きも充分な物。それからそこに届く延長コード。机の上にはペン立てがひとつ。手回しの鉛筆削りがひとつ。ペン立てには『B』もしくは『HB』の鉛筆が5、6本。それから赤鉛筆が2本。あとはノートかルーズリーフ。それにホッチキス。たまにしか使わないかも知れないが、プリンターも置く。出来るだけ端の方に。
それから、座り心地の良い椅子。そんなに高価な物じゃなくても良い。ただ、布地の方が好ましい。
後はトイレと洗面台。歯ブラシと石鹸も要るね。清潔なタオルが数枚。
忘れてはいけないのは、グラス。軽くなく小さくなく、重みがあり容量の多い物が良い。
冷蔵庫?こたつ?……そんなものは要らない。何か音楽が聴けるプレイヤーがあれば上等だ。ああ、でも、布団は欲しいね。ただ寝るだけだから普通ので構わない。
そう、最後はパソコンだ。それもノート型の。インターネットが出来る環境も必要だ。
後は、何もいらない。
後は、食べれるだけのお金だけ。
そんな質素で何もなく誰もいない、白い箱の中で、時さえも空腹さえも忘れて、書きたい。
私の大好きな小説を。
私は誰がなんと言おうと、小説家、なのだから。
さぁ、君ならその箱に何を入れる?