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【掌編・新作】 私は真夜中に紅茶を淹れる。

真夜中に紅茶を飲む。


そう決意したのは丑三つ時を過ぎたあたりだった。

どうしてそんな事を急に決めたのか分からない、けれど、スマホのゲームに飽き飽きしていたし、母は御風呂に入って行った。

親子揃って夜更かしもいかがなものかと思う。その証拠に他の家族はすっかり床についている。

母と私はそういう所が似ているのだと思う。血液型的には仲が良いわけじゃないし、普段の生活では衝突が多々起こる。

けれど、どこかへ出かければ、必ずと言って良いほど、言われるのだ。


仲が良くて羨ましいです、と。


ティーセットを出すのは面倒だから、カップにストレーナーを直接入れる事にする。なんたって丑三つ時を過ぎているんだもの、そんな本格的な事はしたくない。

だけど事前にカップを温めるのはどうしても譲れなくて、先日、母の御友人から頂いたオレンジの花柄の大ぶりなカップの半分にポットからお湯を注ぐ。

それから部屋に茶葉を取りに行く。小さな丸みを帯びたキャラクターが描かれた缶に入っているのは今から九年前の紅茶。先日ようやく封を開けたばかり。多少香りは抜けているかもしれないが、そもそも、紅茶を始めとする茶葉や味噌や海苔、塩、それらの所謂保存食に近い物に賞味期限だの消費期限だの設けるのが間違っているのだと思う。


要は、カビが生えたり痛んでいなければ、良いのだ。

だって、これは嗜好品に他ならないのだから。


カップのお湯を捨て、ストレーナーを入れる。茶葉は買った時に付いていた紅茶専用のスプーン。これが欲しくて買ったんだよなと思いながら、まず、一杯。それからカップの為に、半杯。この淹れ方も母が昔持っていた本から学んだ物。お湯を入れ、ストレーナーに専用の蓋をし、その辺にある乾いた布巾を掛けておく。


本格的な紅茶の淹れ方にハマったのは中学生の時。かっこつけたかったのか、それともただ、中流階級の家庭特有の良い茶葉があったのか。漫画の影響じゃなかった事だけは、確か。

今でも紅茶は大好きだけど、外では滅多に頼まない理由は簡単で、大抵の店がティーバックを出して来るから。


そうそう、以前、美味しい紅茶をポットから注いでくれるお店があった。それも大きなポットから何杯も。お代わり自由だったから、母と贔屓にしていた。ただ、母はもっぱら珈琲を飲んでいて、それも大きなポットから淹れてくれたっけ。


茶葉の蒸し時間は大体が三分から五分。でも五分も蒸すと渋みが強くて好きじゃない。お湯を淹れてからポータブルプレイヤーのタイマーを三分にセット。三分経つと耳元でアヒルが『ガーガー』鳴いてくれる。

丑三つ時過ぎなんだから、台所用のタイマーは使えない。最近の家電って本当に便利。こうやって真夜中にこっそり時間を測れるから。


紅茶を淹れているのに聞いてるのはロックミュージック。全然似合わない組み合わせだって自分でも笑っちゃう。でも、まぁ、いいでしょう、と、茶葉と一緒に持ってきたお気に入りの作家の小説を開く。

この本はもう何度も読んでいるから、どこから読んでも構わない。

開いたページはちょうど盛り上がりかけるところ。文字を薄暗い中で目で追えば、耳元でアヒルが鳴いた。

良い所なのになんて思いながら、テーブルに開いたままの文庫本を伏せて、紅茶を取りに行く。


まずストレーナーを取り、フレーバーティーだからと、さっさと水洗いをして匂いが付くのを防いで干して。それから紅茶とご対面。キャラメルって書いてあった通り甘い香り。ストレートで飲むのを止めて、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して、そのまま入れる。

綺麗な茶色が濁っていくのを見ながら、笑みを浮かべてしまったのは、やっぱり、私はフレーバーティーが嫌いなんだって事を思い知るから。


カップを手にテーブルに戻り、ロックミュージックを聞きながら恋愛小説を読みつつ、ミルクティーを啜る。

もうあべこべ。


真夜中の丑三つ時の小さな私だけのイベント。


私はそれを母が御風呂から上がる前に終わらせ、ミルクティーを飲み終れば、さっさと手洗いでカップを洗って自室に戻る。ぱたんと閉じた文庫本と茶葉が入った缶を手に。それからベッドに入って電気を消す。

身体がポカポカしてるのは、ミルクティーを飲んだから。

おやすみなさい、を、誰に言うでもなく呟き、電気の紐を引っ張って部屋を暗くする。




ああ、ちなみに。

私はフォションのモーニングという銘柄の紅茶が、本当は一番好きだ。

フレーバーティーは、紅茶に対しての冒涜だと、思って居る。

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