81 魔人族の村へ
朝目覚めると、キンタローの横にはアンリエッタが、ベッドの横にはクマゴローが、クマゴローの上にはミカンとニナがいる。しかし、部屋にフラムとシルビアはいなかった。
2人は今フラムの自室で寝ている。シルビアの夜泣きでみんなが起きるため、フラムが言い出した事だった。
キンタローは、ベッドから降り部屋をこっそり出ようとすると、クマゴローがついていくため立ち上がる素振りをした。
キンタローは、クマゴローを手で大丈夫と伝えてフラムの自室に向かった。
フラムの部屋に入ると、小さなベッドでゆっくり眠っているシルビアと、そのベッドを枕のように頭を乗せて座って寝ているフラムがいた。
先程まで、起きていたのかもしれない。そう思い、フラムに毛布をかけてやると、2人の頭を起こさないように撫でてあげた。
「あー」
気がつくとシルビアが起きてしまう。
「お母さん、寝てるから静かにしような」
「あー」
まるで返事をするかのように声を出すと、シルビアは、キンタローの指を握る。そして、またうつらうつらと微睡んでいた。
その空間はとても心地よく、幸せな雰囲気が漂っていた。
◇◇◇
「準備できたか? トーレス」
シルビアが産まれてから10日が経ちキンタロー達は、魔人族の村へ魔王に会いに行く。門の補強も完成し、投石機も出来た。
キンコが連れてきた猛獣の獣人族を衛兵として組み込み、他のサイレントベアーとも手を組んだ。
やれることはやった。本来なら、アリエルから話をもう少し聞きたかったが、あまり猶予もない。
トーレス達魔人族がキタ村へ来て二ヶ月が経とうとしていたからだ。
キタ村から魔王のいるエアリーズ村まで、陸路で行きトーレスが作った船でバルト川という大河を渡って最短が二ヶ月だった。
ノイルに乗ってあっという間とはいえ、あまり魔王を待たせる訳にはいかなかった。
エアリーズに向かうメンバーは、キンタローとトーレスとトーレスのお供達、そして、クロウ。
クマゴローは、自分を置いていく事に反対した。むしろ、激昂したと言ってもいい。
◇◇◇
『キンタロー! なんで、オレは留守番なんだよ!! オレは、嫌だぞ! 絶対ついていくからな!!』
『そう、怒るなよ。だから、まず話をだな……』
『嫌だ! ついていく!!』
珍しく、話を聞こうとしないクマゴロー。それは、キンタローは、自分が守るのだという自負と、万が一離れている間にキンタローに何かあったらと思う恐怖からだった。
『クマゴロー、オレとお前は家族だ。違うか?』
『そうだけど……』
『フラムやシルビア、アンやニナ達はオレの家族だ。つまりクマゴローにとっても家族になる。守るのは家族だ。だから、クマゴローとニナという最大戦力をここに置きたいんだ』
『でもよぅ、キンタローにもし……』
『大丈夫。親父さんもいるし、トーレスも信頼出来る。それは、わかるだろう?』
む~、と口を尖らせて、いまいち納得出来ない顔をする。すると、トーレスがミカンとクマゴローを借りたいと提案してきた。
説得してくれるものだと信じて許可すると、ミカンとクマゴローを連れてトーレスは書斎へとやってくる。
「さて、ミカンさんには、クマゴローさんに通訳をお願いします。これから話をすることはご内密に」
「内密~? 蜂蜜の仲間なの~?」
「えっと、誰にも教えないでくださいって言う事です」
そして、ミカンにトーレスが耳打ちする。それを聞いて、しばらく固まったミカンだったが、クマゴローに伝えた。
『そ、それは、本当なのか!?』
「本当なの~?」
トーレスは首を縦に振る事で肯定を示す。
「ですから、キンタローさんは僕が身命を賭して、守ります。どうか、僕にその機会を頂けませんか?」
クマゴローはミカンから話を聞くと、しばらく考える。本当に信用してもいいのか、トーレスの言っているのが本当なのかを。
『わかった……信用しよう。だが!! もし、キンタローに何かあったら、覚悟しとけよ!!』
トーレスは一言「もちろんです」とだけ応えた。
◇◇◇
「それじゃ、親父さん。竜の姿になってくれ」
角が輝き、足元に魔法陣が描かれる。浮かび上がった竜のシルエットとノイルが重なり黒い竜が現れた。
「いつでも、いけるぞ。婿どの」
キンタローが乗り込み、続いてトーレス達が最後にクロウが乗る。
「うひゃあ、凄いっす」
クロウは、久しぶりに年相応の反応を見せるとキンタローに怒られた。
「ふふ、最近『婿どの』と呼んでも否定せんな」
「ああ、どうせ否定しても呼ぶんだろ? ま、ニナが嫌がらなければ、その内な」
「なんなら、もう『親父』でも『お義父様』とでも呼んでも──」
「絶対呼ばねーーよ!!」
ノイルは、笑いながら羽を羽ばたかせる。
「みんな! あとの事は頼んだぞ!!」
そう告げたキンタローを乗せてノイルは、あっという間に飛んで行った。
ナギ村を越えて、ドワンゴ村へ向かう丁字路も越えていく。
そして、日が暮れる前にトーレス達を乗せてきた船が見えて着地する。
船長達は初めは突如現れた竜に驚いていたが、トーレス達を見て安堵した。
そこで人手が足りないだろうとお供達に船を動かす為に降り、すぐに出発するように頼んだ。
キンタローとトーレス、クロウの三人を乗せたノイルは、再び羽を羽ばたかせ飛んで、バルト川を越えていく。
夕暮れが迫る頃、最初に異変に気づいたのはノイル。
「キンタロー、対岸が見えたのだが……」
「クロウ」
キンタローは、目の良いクロウに対岸を見てもらう。
「どうだ?」
「………………対岸が、森が燃えてるっす」
「「「!!!!」」」
夕暮れで赤くなっていると思われた魔人族の領域全般を埋める森が、真っ赤に燃えていたのだった。
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今回で、第7章は終わりです。
少し間を挟んで、第8章エルフと死竜と魔王へと続きます。




