80 父と子
「ま、間に合わなかった」
思わず自室の前で立ち尽くすキンタローに向かって目の前の扉が開く。
「いでぇ!!」
扉にぶつかり、頭に痛みが走る。部屋の中から出てきたのは、アマンダだ。
「あら? ああ! キンタローさん、やっと戻って来たのですね。どうぞ、早く中に!」
アマンダと入れ替わる様に部屋の中へキンタローが入ると、視界に飛び込んできたのは、慈愛に満ちた目で赤ん坊を見ているフラムだった。
「はわ! キンタロー!」
いち早くキンタローに、気付いたアンリエッタが駆け寄り手を引っ張ってフラムの元へ連れて行く。
「キンタロー」
フラムの呼びかけに、何か答えなければと思うが上手く言葉が出てこない。目の前で大泣きしている赤ん坊を見ても、言葉が出ない。
「キンタロー、抱いてあげて」
フラムは、抱いていた赤ん坊をキンタローに差し出すと、恐る恐る赤ん坊を自分の両手で抱える。すると、今まで泣いていた赤ん坊がピタリと泣き止む。
「はわ! キンタローだと泣き止みました。お父さんだとわかるのです」
アンリエッタが嬉そうに、キンタローとフラムを交互に見てくる。
お父さん……そう言われ、内から抑え込んでいたものが溢れて、キンタローの頬には涙が流れていた。
「フラム……ありがとう。それに、お疲れさま」
フラムに赤ん坊を返すとキンタローは、フラムと赤ん坊を抱き締めた。
怖かった……前の人生でろくに両親から愛情を貰えなかった自分が父親になることに。
不安だった……父親として、子供に何をしてやればいいのかわからずに。
だけど、赤ん坊とフラムを見て気づく。転生後の自分を愛情を持って育ててくれたお手本があるじゃないかと。この子を、フラムを、アンリエッタを、ニナを、みんなを守ればいいのだと。
そして、この子を守ることが、アルメイダに対して最大な嫌がらせになるのではないのかと、キンタローは考えた。
自分と同じ黒髪の赤ん坊を──
◇◇◇
この日は、多くの人がお祝いにキンタローの家に駆けつけた。
キタ村の村人達が、こぞってやって来ている。キンタローはもちろんの事、ミカンやクマゴローまで対応に終われていた。
「まるで見せ物だな」
キンタローがそう言うのも無理はなく、フラムと産まれた赤ん坊の周りに多くの人が集まってきていた。
「名前は、お決まりになったのですか?」
フラムと赤ん坊を見ていた女性が不意に洩らすと、キンタローに視線が集まる。
「え? えーと、うーん、ギンタロー?」
「却下」
フラムに即否定されてしまう。赤ん坊もギャン泣きして、拒否をアピールしてくる。
「困った……」
キンタローのネーミングセンスの無さが露呈してしまった。
誰か助けてくれ……キンタローは心の中で呟く。
「大体、女の子の名前じゃないでしょう?」
「へ?」
「「「えぇっ!?」」」
「…………ちょっと、キンタロー!?」
フラムに女の子だと告げられ、驚くキンタロー。そう言えば性別を聞いていないのに今さら気づく。周りの人達も予想外のキンタローの反応に驚いた。
「あれ?」
キンタローにフラムを筆頭に周りの冷たい視線が突き刺さった。
◇◇◇
「どうして、男の子だと思った?」
そう、何故か男の子だと思い込んでいた。キンタローはいつからか、必死に考えを巡らす。
夢の中……
キンタローは、あの悪夢で亡くなった赤ん坊が男の子だと思った。
つまり、これは……
「夢の中の出来事を1つ回避した?」
根本な所は、まだだ。しかし、これは悪夢を回避出来る事を示唆していた。
キンタローは、《不運》の回避に希望を見出だした。
「しかし、当面の問題は名前だな……」
未だに名前が思いつかないキンタローだった。
◇◇◇
「シルビア!?」
ゴルザやジャンに子供の名前を考えるの手伝って欲しいと頼んだが一蹴して断られる。やむを得ず一晩中眠らず、書斎にこもり、目の下に隈を作って考えた名前。
それが、シルビアだった。
「いいじゃない、キンタロー」
フラムを始め、皆が喜ぶ。しかし、誰も気づかない。キンタローが必死に考えた名前が、割りと安直だと言う事に。
キンタロー→金→銀→シルバー→シルビア
やはり、銀から思考が逸れないキンタローにネーミングセンスは、なかった。
「アンの事もあるし、早目に考えておこう」
心の中で誓うキンタローだった。
ブックマーク良ければお願いします。




