63 酒臭ぇ……
「と、とりあえず落ち着け、キンタロー」
「提案したのは、おっちゃんか?」
落ち着かせようとしたゴルザだが、逆に睨まれる。そこに、アレキサンダー村長が割って入ってきた。
「提案は、儂じゃよ。まぁ、それに至ったのはキンタローくんのせいじゃがな」
「は? オレの?」
キンタローは、自分のせいだと言われて心当たりを探るが、さっぱりわからずにいる。
「わからんか? ナギ村とドワンゴ村の村長にキタ村に来てもらうように頼んだ時、儂を年寄り扱いしたじゃろ?」
「あ! いや、それは……」
「もちろん、それは方便も入っておるじゃろうがの。連携するのに、こっちが主導権を握る為じゃないかね?」
キンタローは、ポリポリと頭をかく。
「そこまで、わかってるのに人が悪いな。村長」
「なにせ、年寄りじゃからな。人も悪くなるわい」
「くっ……!」
村長にすっかり一本取られた形となったキンタローは、剣を鞘に納めて、先ほどまで村長が立っていた台に立つ。
「あー、本当にオレでいいのか? オレ、まだ10歳くらいだぞ」
「何言ってるのですか? そんな小生意気な10歳居ませんよ──痛あっ!」
ヤジを飛ばすハンスに向かってノールックで、剣を鞘ごと投げつける。
キンタローは、そのまま話を続けた。
「それに、オレは獣人じゃない。獣人族の風習も何も知らない。今までの生活が一変する可能性もある。それでもいいのか?」
誰も何も言わない。しかし、それは否定ではなく肯定だからこそ何も言わない。村人達の心はとっくに決まっていた。
「はあぁ~~~、どうなっても知らないぞ」
村人は何も言わず、ただただキンタローに向けて微笑む。そして、とうとうキンタローは両手を挙げた。
「わかった、出来るだけの事はするよ。ジャンとおっちゃん、それに村長も力貸してもらうよ」
「もちろんですよ。キンタローさん」
「おう! 任せろ!」
「村長は、キンタローくんじゃ。儂の事はアレキサンダーでええ」
「長い! じじいでいいか?」
こうして、キタ村の新村長としてキンタローが就任する事となる。そこで、フラムがキンタローに手を挙げ提案をした。
「キンタロー、自分の誕生日知らないでしょ? 今日、誕生日って事にしたらどうかしら?」
「そうだな。そういや、誕生日なんて気にしてなかったな。それじゃ今日からオレは11歳か」
門の完成を祝う宴会は、キンタローの新村長就任と誕生日を兼ねる事になった。
◇◇◇
村人総出の宴会は、盛大な騒ぎとなっていた。
次々と酒を注ぎにくる村人を、キンタローは未成年だと言っては蹴り、言っては蹴りを繰り返しているが、かなり蹴りにくそうにしていた。
村人に奥様扱いされ、上機嫌なフラムは飲みに飲んで、現在キンタローの首に腕を絡ませ抱き付いている。それを、アンリエッタとニナが引き離そうと引っ張るので、この度にキンタローの首が締め付けられた。
それは、すぐに解消される。
クマゴローが、ニナとアンリエッタをフラムごとキンタローから引き離すと、キンタローを自分の膝の上に乗せ、頭を撫でながら抱きしめる。
『きんたろ~、きんたろ~、きんたろ~~』
『ぐはっ! 酒臭っ!! クマゴロー! 酔ってるのか? 誰だぁ、クマゴローに飲ませたの?』
「クマゴロー、自分で飲んでたの~」
木苺いっぱいの籠の中で、一生懸命食べていたミカンから言われて、クマゴローにもストレスとかあるのかと、暫く好きにさせてやった。
ようやくクマゴローから解放されて、ふらふらと村人を避けながら歩いていると、ハンスとゴルザが酒を飲みながら言い合いをしているのを見て、慌てて止めに入った。
「ハンス! おっちゃん! 何、喧嘩してる!?」
「キンタローさん? いや、喧嘩なんてしてませんよ?」
「そうだぞ、キンタロー。喧嘩してないぞ。フラム親方とアンリエッタの可愛い所を褒めてただけだ」
「は? そ、そうか。それなら問題ないな。それじゃ」
親バカお嬢バカとは、相手してられないと逃げようとすると2人に肩を掴まれる。
「よし! やっぱりここは、旦那の意見も聞きたいな!な、ハンスさん」
「そうですね! 今までの恨──お嬢達をどれだけわかってるかも教えないといけません! ゴルザさん」
「え……いや……結構で──」
「ワシも混ぜさせてもらおう」
結局ノイルも混ざり、軽く2時間親バカ×2とお嬢バカを相手する事になった。
「さ、酒臭い………………」
◇◇◇
這う這うの体で、丘の上まで逃げてキンタローは、そこからキタ村を眺めていた。
村人達は、未だにお祭り騒ぎが収まらず、焚き火やかがり火の灯りが、煌々と輝いている。
「はぁ……オレが村長ねぇ」
独り言をポツリと呟きながら、大切な人達を、この村の人達を守らなくてはと、密かに心に誓うキンタローだった。




