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パラレルフィスト~交差する拳~  作者: 黒主零
5章:パラレル交差する明日へ
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137話「悪夢と平行の男と女」

18:悪夢と平行の男と女


・ライラが自らの目を遮断して引きこもりの生活を送り始めて一週間。

最初の週末がやってきた。

キリエからMMに事情を伝えられていて

その上政府議会からの指示もあるため学校側では欠席扱いにはなっていないが

当然ライラを心配する声は上がっている。

「・・・・・あ、」

ライラが自分の部屋で目を覚ます。

正面に見える鏡には両目を真紅に染め上げた自らが映っている。

ライラは別にこの一週間何もしない生活を送っていたわけではない。

鏡を通して自分自身を見やることで

少しでも緋瞳の力を使いこなせるよう努力していた。

「・・・やっぱりラウラさんが言っていたように

緋瞳は天死の猛禽類じみた狩猟本能を最大限活かすための装置。

動くものに反応してその物体の体温や血流、電気信号などを

視覚で分かるようにするための能力が備わっている。

これは天死引いては猛禽類なら当然のように備わっている能力であり

それを打ち消すには両目を潰すしかないだろう。

ただ、それを今の自分に出来るかと言えば・・・。

「ん?」

何かが緋瞳を刺激した。

正面でも側面でもないほぼ後方に近い角度。

振り向くと窓淵そこには、

「よ、大変そうだな。」

「剣人さん!?」

窓淵に剣人が座っていた。

「ど、どうしてここに・・・!?」

「学校の方に行ってもお前と全然会わないからな。

何かあったのかと思ってあのティラって子に聞いたんだよ。

・・・で、お前。緋瞳を元に戻せないみたいだな。

いや、天死としての本能に逆らえなくなってきているってことか。」

剣人が剣を抜いていた。

「え・・・!?」

気付けばその剣に自分の変貌した腕がぶつかっていた。

「な、ど、どうして・・・!?」

「・・・理性よりも先に本能が動いていたようだな。

不用意にお前の視界に入ったことで天死としての能力が騒いだようだ。」

剣人は易易とライラの腕を払い除けて背後に回り込んだ。

「・・・剣人さん。ナイトメアカードでどうにかなりませんか?」

「難しいな。オブジェとインストールを使えば可能だろうが

まだ前回使ってほとんど時間が経っていない。

半年我慢してくれれば可能だろうがな。

・・・それまでお前をスリープのカードで眠らせてやることなら出来る。」

「・・・半年間の眠り・・・ですか。」

「もちろんそれも完璧な処置ではないかもしれない。

強制的に眠らせようとして下手に防衛本能に障ってしまえば

他の天死同様に暴走してしまうかもしれない。

なにせ天死相手に殺す以外の方法でカードを使った事は一度もないからな。

・・・そこでだ、ライラ。」

「はい?」

「脱げ。」

「・・・は!?」

「この診断チェックのカードを使ってお前の体を調べる。

だけど出来るだけ正確に調べたいから裸になって欲しいんだ。

なに、大丈夫だ。ほんの1時間ほど俺の前で全裸を晒してくれればいい。」

「・・・・・・・・・・・下心は何パーセントですか?」

「50%!!」

同時に剣人を変貌した腕の裏拳が襲った。

「も、もう半分は本気シリアスだし今のも死ぬところだったから抑えてくれ。」

治癒ヒールのカードでねじ曲がった首を治しながら剣人が言う。

ライラはしかし、やはり躊躇があった。

剣人を信用していないわけではない。

12月に自分を襲った時を除けば常にこの男には助けられている。

だからきっと今回も彼の指示に従えば事態は好転するかもしれない。

ユイムあたりでも見張りとして呼べたらいいのだが

この醜く変貌してしまった腕で引き裂いてしまう可能性もある。

それにこの姿を見られたくもなかった。

「・・・分かりました。ただし!」

ライラは背中から2枚の翼を生やす。

それでカーテンのように自分の体を隠した。

「この状態でやってもらいます。・・・見られたくないので。」

「・・・ちっ、」

「・・・いま本気で舌打ちしませんでした?」

それでも赤面しながらライラは服を脱ぎ始めた。

そもそもいま気付いたが自分はまだ寝間着だった。

顔も洗っていなければブラジャーもしていない。

脱ぎやすいと言ってしまえばそれまでだが羞恥に襲われる。

「・・・あ。」

ワンピースを脱ぐのは簡単だったから気付かなかったが

この変貌してしまった腕では下着を下ろすのは難しかった。

「・・・あの、下着もですか?」

「出来ればそうして欲しい。」

「・・・鼻血垂らしていなければ素直に頷けたんですがね。

と言いますか剣人さん。僕はしばらくの間男として振舞っていたんですよ?

そして男として剣人さんと話をしていたのに今更意識するんですか?」

「仕方ないだろ。今のお前どう見たって女なんだから。」

「・・・チェンジで男の体にしてもいいんですよ?」

「・・・勘弁してくれ。」

会話で羞恥を誤魔化しながら刀のように尖った爪で下着を切り裂き、

翼で隠しているとは言えついに剣人の前で全裸となってしまった。

最近あまり働かなくなった男根は今もほとんど動かず小さいままなため

その下にある本当の自分の性器を隠すことが出来ない。

翼も少々無理のある形で留まっているからかプルプル震え始めてきた。

「晒して、いいんだぜ?」

「あなたが死に晒す事になりますよ?」

既に両腕が変貌していて緋瞳による計算では

0,2秒で剣人をこの手で八つ裂きに出来る。

「と言うか早く始めてください。」

「ちぇっ、仕方ないな。診断チェック・サブマリン。」

剣人が渋々カードを発動させるとライラの体をまるでレントゲンのように

光線が走り抜けていく。

発動して一瞬でライラの体をクモの巣状に輝くように光が走る。

そして細かくブロック分けされた肉体ごとに厳密なデータが調べられていく。

「スリーサイズ、体脂肪率、カップ数、子宮の大きさを最優先で調べるんだ!」

「・・・剣人さん、いっぺん死んでみます?」

翼の羽毛の一本一本その全てが剣人向けて針のように開立した。

「オーケーオーケー。俺はまだ蜂の巣になりたくない。」

「サンドバッグでもいいんですよ?」

「・・・随分物騒な事を言う。これが天死の狩猟本能か。」

「純粋に乙女としての防衛本能です!」

「・・・乙女として、か。そうだな。

お前はさっき男として振舞っていたって言っていたが

本当に去年のお前を女だと思う奴はそうそういなかっただろうな。

どうだ?しばらくぶりに本来の自分に戻れた感想は。」

「・・・あなたには素直に感謝していますよ。

こうやって元の姿に戻れたのですから。

初めて会った時だってあなたがいなければ

僕どころかユイムさんを助けられたかも怪しいですし。」

「ふっ、お前はどこまで行ってもユイム一筋なんだな。」

「・・・ええ、もちろん。

そう言えば剣人さん。前に雪山に旅行した際に僕とティラさん、ラモンさん、

シュトラさん、ケーラさん、ユイムさんまでの6人がカードの力で

一人になったんですがどういう現象か分かりますか?」

「ああ、あれか。俺も風の噂で聞いた。

確か希望フューチャーのカードが姿を変えることなく発動して

お前ら6人が合体して自由にパラレルカードの力を

使えるようになったんだってな。

俺も詳しくは分からん。すべてのナイトメアカードを支配しているとは言え

俺だってひとりの人間だ。神様じゃない。

だから推測でしか過ぎないが、

お前はパラレルカードの司界者になったのかもしれない。」

司界者しかいしゃ?」

「ああ。数百年前にすべてのナイトメアカードを手に入れた俺や、

そもそも世界にばらまかれる前に

すべてのナイトメアカードを触れていたパラディンが

ナイトメアカードを支配する存在・司界者になったのと同じように

希望のカードを使って一人になったお前達は

パラレルカードの司界者になった可能性がある。

確か希望のカードの名前がフューチャーからパラレルになったんだろ?」

「え、ええ。」

「パラレルカードに関しては

俺も詳しくないからはっきりとしたことは言えないがな。」

それから先は何気ない会話をしてチェックが完了するのを待った。

「・・・さて、全裸の少女と会話するという貴重な機会が

終わってしまったか。」

渋々剣人がチェックのカードを机に置きながらつぶやく。

その間にライラは剣人の背中を睨みながら部屋着に着替えた。

「何か分かりましたか?」

「ああ、やっぱりお前の体はもう

ほとんど活動状態の天死と同じ状態になっているみたいだ。

前にヒカリって子がお前のその体にいながら

話せるようになるまで時間がかかったのと同じように

お前の体の持ち主がしょっちゅう変わりまくってたから

天死のDNAが本格的に活動し出すのに時間がかかってるようだがな。

それでも恐らくこのままでは近いうちに

お前は天死として完全に覚醒してしまう。

そうなったら俺でもお前を倒してやることくらいしか出来なくなるだろう。」

「・・・なら、やっぱりスリープで・・・」

「いや、スリープよりも界離キャストラインの方がいいかもしれない。」

「キャストライン?」

「そう。どこぞのメンタルとタイムのルームのような

現実世界と切り離された世界に行くことが出来るカードだ。

そこでは時間の経過が存在しない。

お前の内部での天死としての力が活動することなく

オブジェとインストールが出来るまで待つ。

・・・まあ、これも発動者である俺は入れない上

準備に24時間かかるから今すぐには出来ない。

キリエ達と相談してからするといい。」

「でも僕・・・」

「大丈夫だ。さっきのチェックの際に今から24時間だけならば

任意以外での緋瞳の発動は出来ないようにした。

その腕だってもう元に戻そうと思えば戻せるはずだ。」

「あ、本当だ。」

ライラの両目と両腕が元に戻り翼も背中の中に収納された。

「だが飽くまでも無意識で発動する事だけを防いだだけだ。

もしもお前が自分の意志で発動を望めば間違いなく発動する。

そしてきっとその時にはもうキャストラインでは間に合わなくなる。」

「・・・はい、分かっています。」

「・・・ああ、それと1つ聞きたかったことがある。」

「はい?何ですか?」

「お前、男より女を選んだそうだな。」

「え、ええ。ラウラさんが言うにはそうみたいです。

僕自身としてはあまり意識していないんですが・・・」

「・・・それなのにユイムが好きなのか?」

「え?」

「つまりだ。

今まで男を選んでいたから女であるユイムを好きになったって言うのは分かる。

だが、女であることを選んだいまでもまだ女であるユイムを好きなのか?

平たく言ってしまえばだ、男を好きになるつもりはないのか?

元の姿に戻ってしまえばもう女を抱くことは出来なくなるんだぞ。」

「・・・・・どうでしょう。

長く精神が男だったせいで意識したこともないです。

でも、ユイムさんを想う気持ちに変わりはありません。」

「・・・そうか。余計なお世話をしてしまったようだ。

じゃあ、24時間後にまた来る。その間は好きにしていろ。」

そう言って剣人は再び窓から去っていった。

それからライラは部屋を出て住人一同が集まるリビングにやってきた。

「ライラくん!もういいの!?」

「あ、はい。剣人さんが24時間だけ天死としての力を止めてくれたんです。」

「あの人来てたんだ。」

「そこでみなさんにお話が・・・」

ライラは剣人から聞いた話をユイム達にする。

24時間後に半年もの間別世界に行き新しい体になるということを。

「そう・・・なんだ。」

「はい。半年間皆さんに会えないのは淋しいですが

でも、たったそれだけで僕は元の人間に戻れるんです。

みなさんに迷惑をかけることもなくなるんです。

だから・・・」

「誰もあなたを止めるつもりはありませんわ。」

「そうだよ。・・・ちょっと寂しいだけで・・・。」

X是無ハルト姉妹が少し俯き言葉を選ぶ。

「・・・だから皆さん。ちょっとお出かけしませんか?」

そしてライラが口を開いた。

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