138話「Angel Halo・前編」
19:Angel Halo・前編
・ライラ達はピクニックに来ていた。
そこはかつて1000年以上前に当時の軍隊が使っていたという基地跡だが
聖騎士戦争や時の経過などで完全に跡形を留めておらず
近代では専ら自然公園として扱われている。
ここが昔軍事基地だったなどと知っている者は
よほどの歴史マニアか地主くらいしかいないだろう。
当然議員であるキリエは頭の片隅にその情報を入れてはいるが。
「いい天気ですね。」
ライラが背中まで伸びたそのスカイブルーの髪を風に靡かす。
それを見て少女であることを疑う者などいないだろう。
「ライラくん、ちょっと手伝って。」
「あ、はい。」
ティラに呼ばれ彼女と一緒にテント張りを行う。
当然キャンプではないため日帰り用の小さな物だ。
「ラモンさんがやってくれていたのでは?」
「ラモンはあそこ。」
ティラは川の方を指さす。
川ではラモン、ラウラ、ケーラ、ヒカリが釣りをしていた。
小さい川ではあるがわずかほど魚はいる。
そしてそれは当然ながら、
「あなた達!何をしているんですか!?ここは釣り禁止ですわよ!」
キリエが怒鳴る。当然であった。
「・・・バカばっか。」
それを眺めながら升子は来斗、リイラと共に焚き火用の落ち葉を拾っていた。
その隣でシキルが料理をしている。
「・・・あれ?ユイムさんとシュトラさんは?」
ライラが視線を回すがその二人の姿がどうにも見当たらない。
心に不安と焦燥を生みながらライラは持ち場を離れて近くを回る。
「・・・ライラくん、心配なのは分かるけどちょっとひどいよ。」
急に支えがなくなってテントが倒れるのを眼前で目撃していたティラが零す。
走ること数分。
ユイムとシュトラはすぐに発見出来た。
しかし何やら真剣そうな会話をしていた。
「・・・やっぱりそうだったんだ。」
「・・・うん。だから・・・」
「お二人共?」
しかし臆さずライラは声をかけた。
「ライラくん・・・」
「どうかされたんですか?」
ライラの言葉に対して数巡の間を起き、
「うん、僕達今までライラくんに男の子役をやらせすぎたかなって。」
「ユイムさんから聞いたわ。今朝剣人さんと会ったって。」
「今更何を言ってるんですか。
僕は性別に関わらず二人の事が好きだからたくさん無茶をしてきたんです。
・・・あ、でもこれから半年間僕は戦えなくなりますから
もしブランチが来たらどうしましょう・・・」
「違う・・・違うよライラくん!僕達だってライラくんを守りたい!
それなのにいつも迷惑をかけてばっかりだし・・・。
この前だって僕が捕まりさえしなければ
ライラくんに迷惑をかけることもなかった・・・。
ライラくんの天死の力が目覚めることも・・・」
「それは・・・」
「何やら面白いことになっているようだな。」
「!?」
声。
3人が振り向くと一本の木に体を預けそこに赤い天死が立っていた。
「あなたは・・・!」
「剣人さんが倒したんじゃなかったの・・・!?」
「天死の生命力は人間のそれを遥かに超えている。
それにいくら風行剣人と言えど所詮は人間。
いくらでも限界を見つけられる。
そんなことよりもだ。ライランド・円cryン。
どうやら女性であることを選んだようだ。」
「だったら何なんですか・・・!?」
「お前は私と同じ運命を辿ることになる。
男であれば女を無理矢理孕ませることで自分の子孫と永劫の時を
過ごせたかもしれない。だが、それが出来ない女を選んでしまった以上
お前を待つのは永遠の孤独だけだ。」
「・・・永遠の孤独・・・!?」
「女というのは感情の生き物だ。
どんなに理屈を建てようと感情を諦めることが出来ない生き物だ。
それが通常よりも永い命を得てあまりに丈夫すぎる体を持ち、
どんな野獣でさえも圧倒するほどの野性を手に入れたらどうなるか。」
すると赤い天死はその2本の足に自重を全て預け既に変貌していた腕を向ける。
「お前も受けてみるといい。永遠の孤独、その序章を!!」
「っ!!」
ライラが懐からカードを出す。
しかし、次の瞬間には赤い天死はライラを片手でなぎ払い、
10メートル以上殴り飛ばす。
だがその視線はライラにではなくユイムとシュトラを狙っていた。
「え・・・!?」
「くっ!水難!!」
吹き飛ばされながらライラはカードを発動して光より早く
500リットルの水を一瞬で作り出し
直径5センチほどにまで凝縮させて赤い天死向けて放つ。
「無駄だよ。」
紅い視線が走れば水球は彼女の顔のすぐ横を通過していった。
「!?」
「緋瞳の反射能力は君も知っているはずだ。」
そしていとも容易くユイムとシュトラを締め上げる。
「ぐうううううううううう!!!」
「あがあああああああああ!!!」
「ユイムさん!シュトラさん!!」
「さあ、選ぶといい。」
「な、何を!?」
「この二人の内どちらか片方だけ逃がしてやる。
しかしもう片方は生き残った方とお前の目の前で殺す。」
「そ、そんな・・・!?」
「おっと、動くなよ。動けば二人共殺す。
風行剣人が今動けないことは知っている。
あの男とお前以外に脅威などない。
他の何が来ようとこの状況は覆らない。
だから選ぶといい。どちらを見殺しにするかを。」
そんなこと出来るはずがない。
しかし秒ごとに赤い天死の指が二人の首にくい込みを増していく。
「あ、ああああ・・・・・・・・・!!!!」
声も出せないのか鈍い音を口から漏らし痙攣し失禁する二人が
どうしようもなくライラの感性を刺激する。
やがて二人の首から血が滲み始めた。
このままでは喉が潰れる・・・いや数百キロ以上の握力なら首が千切飛ぶだろう。
だがそれでもどちらかを見殺しにすることなど・・・。
「ん・・・?」
その時だった。
突如赤い天死の上半身に激しい火花が巻き起こった。
「ぐっ・・・!!」
吐血をしながら赤い天死は後ずさる。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
彼女の手から逃れた二人。
その手にはガイザレスとサンダーのカードが握られていた。
「少し甘く見すぎなんじゃないの?」
「私達、そこまでライラくんと強さ変わらないわよ?」
「ユイムさん!シュトラさん!!」
素早くライラが二人の傍に移動する。
「3人でやろう!」
「物理的に何度も繋がった私達なら出来るよ!!」
「・・・分かりました!!」
ライラが一度シプレックを解除して
スライトとシプレックの2枚を3人で掴む。
「「「破滅・水難・双行使!!!」」」
そして発動をすると3人がスク水姿となりその上に破滅の鎧を纏い、
それぞれの手に黒いハンドガンが与えられる。
「・・・ちっ!ブランチめ。
ナイトメアカードへの耐性を不用意に与えすぎだ・・・!」
赤い天死が口元の血を拭いながら3人を見やる。
緋瞳で正確に3人の情報を探る。
ライラは全く問題ない。
しかし天死の力を使わないようにしているのか
その肉体には外的リミッターが掛けられている。
ユイムは2度目だからか既に肉体が慣れつつある。
しかしその体質からか血圧が異常な程高くなっている。
長くは持たないだろう。
そしてシュトラ。
3人の中で最もナイトメアカードに触れていないからか
力を扱おうとするだけで限界らしく全身の細胞が悲鳴を上げている。
ユイム以上に長くは持たないだろう。
しかしそれでも3人もナイトメアカードを使えている。
なるほど。
今までブランチが手こずり続けていたわけだ。
だが、
「結果は変わらんよ!」
赤い天死が片翼を広げ亜音速で3人に迫る。
これには3人ともが反応出来た。
だが対処まで出来たのはライラのみ。
ユイムでは僅かに反応速度が遅れ、
シュトラは一挙手一投足するだけで激しく体力を使う。
ライラが500リットルの水を盾にするのと
赤い天死の爪が振るわれるのは同時だった。
「くっ・・・!」
その爪が僅かに水圧を貫き、ライラの頬を掠める。
しかしその水圧により赤い天死の手首の骨にヒビが入る。
「ライラくん!!」
1秒過ぎてやっとユイムが破滅を込めた銃弾を発砲するも
超反応を持った赤い天死には簡単に回避されてしまう。
そしてそのユイムに赤い天死の爪が迫る。
「ユイムさん!!」
シュトラが吼えた。
まだ使い方など全く知らない。
だが咄嗟にシュトラは赤い天死のその爪に
1000リットルの水をゼリーのようにして浴びせる。
「!?」
突如の水圧と重量に爪も腕も折れて彼女は膝を折る。
その間隙にライラは銃口を彼女の胸に突き付けた。
「あなたの負けです。今あなたの中の天死を破滅させます。」
「何を・・・」
ライラが引き金に掛ける指に力を込める。
その時だった。
突如4人の足場が激しく揺らぐ。
「な、何・・・!?」
「・・・!」
一瞬の隙を突いて赤い天死が距離を取る。
と、3人との間に地面から巨大な物体が出現した。




