125話「悪夢の眠る海の底・後編」
6:悪夢の眠る海の底・後編
・ライラ達パラレル部高等部とかつての剣人の仲間達が戦う中。
「・・・なるほど。確かに面白い題目だ。
人類がどこまで強い存在になれたのか見定めるいい機会かも知れない。」
その戦場の直上高くの岩壁。
その僅か1つの足場にパラディンは立っていた。
「しかし尽く君とは趣味が合うな、カオス。」
その隣。
白と黒とが混ざり合ったガスのような気体。
それに顔が浮かんでいた。
「確かにな、パラディン。
お前は気に食わないがしかしやりたいことは中々に気合うもんだな。」
両者が見下ろす戦場。
「ティラさん!!」
「よそ見をしている暇はない・・・!」
倒れたティラに向かうライラ。
と、頭上の雲が閃く。
「っ!」
咄嗟に頭上に水球を放つとそこに電撃が引き寄せられて弾け飛ぶ。
「・・・水を盾にしたか。」
「どうしてこんなことをするんですか!?」
「・・・俺達にも事態は飲み込めていない。
だが明らかに言えることは嵌められている事だな。」
「嵌められている・・・!?」
「今の俺達は普通じゃない。少なくとも生きた人間ではない。
・・・ただ敵として倒すといい。」
「・・・分かりました!」
李狼が言うと再び雲が輝き電撃が走る。
が、その稲光よりも早くライラの体そのものが水となり
光より速く宙を舞い李狼の背後を奪い、
250トンの水をハンマーに変えてその背中に叩き込む。
「何!?」
「アクアハンマー!!」
背中から凄まじい衝撃と運動エネルギーを受けた李狼は
自分で生み出した雲の中に突っ込んでいきもろともに消え去った。
「李狼!!」
鬼のように火炎弾をばら撒いていた火之介が気付き、
背中から発していた炎の勢いを急激に上げてまるでロケットのように
ライラに向かって飛んでいく。
「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「くっ・・・!」
「ライラくん!!ガイザレス・行使!!」
反応の遅れたライラに突撃する火之介にユイムが
魔力の爪を放ち迎撃しながらライラの隣に走る。
「ユイムさん!」
「ライラくん!一人でやるのは無茶だよ!
だからそれ、僕にも貸して!!」
「え!?」
ユイムがライラの懐からスライトとシプレックのカードを取る。
「で、でもナイトメアカードですよ!?」
「この体で何度も使ってたんだから使えるはずだよ!」
「で、でも・・・!」
「もうライラくんも女の子なんだから無茶はしないの!」
「な、ならせめて一緒に・・・!」
一度シプレックを解除したライラとユイムが2枚のカードを
それぞれ両手で掴む。
「「破滅・水難・双行使!!」」
「いてて・・・ん?なんだ!?」
地面に突き刺さった上半身をなんとか抜いて火之介が見ると、
正面にはスク水姿で破滅の鎧を纏い
ハンドガンを手にしたライラとユイムがいた。
「・・・本当に出来るなんて・・・」
「ライラくん!気を抜いちゃダメだよ!」
「けっ!そんな馬鹿みたいな格好で俺の相手をしようってのかぁぁぁぁっ!!」
再び火之介が両手足と背中から爆炎を放射してミサイルのように突進してくる。
「ユイムさん!」
「ライラくん!」
が、光より早く二人が2500トンの水の壁を作り出して
左右から火之介に挟み込むように叩きつける。
「がはっっ!!!」
「「はあああああああああああっ!!!」」
挟み込みながら水量をどんどん増して行きその水圧で火之介を粉砕した。
「・・・あれは・・・」
ライラが光の速さで火之介の残骸を見るが
それは肉で出来た物体でも金属で出来た物体でもなかった。
まるで泡のように消えていく光の粒子で火之介は出来ていたようだった。
恐らく確認できなかったが李狼もそうだろうし
残ってる二人もそうなのだろう。
(・・・ブランチの仕業?けどこの人達はあの剣人さんの仲間。
たかがブランチ相手に遅れを取るはずがない。
・・・いや、それどころかあの人達の言動からもしかしたら
まだブランチが地上に現れていなかった頃の記憶しかない可能性もある。
だとしたら本当にあの人達は偽物。
誰かが後の世に作り上げた存在。
でも、尚更一体誰がどうやって・・・?)
考慮をしながらライラはユイムと共に着地する。
そこで、
「大したものだ。」
「!?」
二人の背後。そこにムラマサは立っていた。
「まがい物とは言えあの二人をこうもあっさりと倒すとは。」
「あ・・・・あ・・・・」
そして二人の背中に2本の刀の切っ先を突きつけていた。
しかしその視線は自分達には向けられていなかった。
彼の視線は遥か頭上の彼方。
「そこにいるのだろう!?パラディン!カオス!!」
「え・・・!?」
続けてライラが頭上を見上げる。
火口に繋がる頭上の空間。
そこの一角に確かに白い人影があった。
「・・・やれやれ。コピーでも侮れないな、あなたは。」
やがてパラディンが飛び降りてきた。
「パラディンさん!あなたがこんなことをしているのですか!?」
「確かに私にとっては懐かしい面々だが
残念ながら私にこんなことをする力はない。
全て彼がやったことさ。」
「俺一人のせいにされても困るぞ、パラディン。」
やがてパラディンの傍らに白と黒の姿をしたガス状で半透明な獣が姿を見せた。
「カオス!」
「やはりお前かガイアス。昔からお前の相手は面倒だったな。」
「数百年が経過した今でもお前はまだこんな遊びをしているのか!」
「説教はやめてくれ。俺の意思じゃどうにもならなかったんでな。」
「それはどういうことだ?まさかパラディンが・・・」
「だから私のせいにしないでくれ給え。」
「・・・あの、同窓会しているところ申し訳ないんですが
そろそろ事情を話してもらえませんか?」
ムラマサに刀を向けられたままのライラが挙手。
「あといつまで後ろの二人は戦っているのでしょうか・・・?」
尻目。
後方ではケーラと剣一が未だに己の武術をぶつけ合っていた。
「ケーラって意外と頑固だからね。」
「・・・それはなんとなくわかります。」
「・・・・・・。」
ムラマサがまだパラディンから視線をそらさない。
「そんな目をしていても流石に今の君じゃ私を倒すことは出来ない。
況してやまだ片腕の君ではね。」
「・・・まだ、だと・・・?」
「いいさ、種明かしをしよう。
私はカオスに呼ばれてここに来ただけさ。
面白いものが見れると言われてね。
そしてそのカオスはある人物に使役されて剣人くんの
かつての仲間達の残像を作り出して君達と戦わせた。」
「使役ってことはカオスはもう誰かと契約を・・・!?」
「契約というほどではないがな。」
「結果は同じさ。まあ、そんなところで。」
「!待て、パラディン!!」
ムラマサが刀を振るうが寸前でパラディンの姿は消えた。
「・・・逃がしたか。」
「逃がすもクソも今のお前は俺が作り出した幻想に過ぎない。
そろそろ消えていいぜ。」
「な・・・・」
「おい!!」
ムラマサと剣一はカオスの声と共に霧のように消えた。
「・・・これがカオスの能力・・・」
「その能力を解いたということは我々と戦うつもりはないということか。」
「パラレルしか使えない現代のガキどもだけならともかく
同じ召喚獣であるお前や剣人が力を与えた奴を相手に
いつまでも児戯で余裕かませるほど俺は自分を高く買っちゃいないさ。
それに未だにパラディンの野郎が蠢いていたり
お前が俺を探すためにこんな場所まで来るってことは
ブランチか天死かが動き始めたってことだろう?
流石の俺も奴らを放って置けるほど自分の宿命にルーズじゃない。」
「ならば剣人の許に戻るか?」
「お前と同じでほんの少しの間だけまたあいつに力を貸してやるか。」
そうして2体の召喚獣はカードの姿に戻った。
「・・・あれ?あたし何ともない。」
同時にさっきまで感電して気絶していたティラが無傷で起き上がった。
「・・・まさかカオスの力は実体ある幻を作り出すもの・・・?」
ライラの疑問に答える者はいなかった。
ともかく剣人に言われた仕事を終えて6人はスカイサブマリンに戻る。
既に待っていたシキル、パルフェと合流してエルデを後にした。
「・・・・・・・・」
それとほぼ同時に一部始終を見ていたクリーム色の髪をした少年が
その翼を広げて火口からエルデを後にした。
「・・・今のは・・・」
ヒカリだけがそれに気付いた。