123話「時代の潜行」
4:時代の潜行
・海底火山エルデを目指してとりあえずティラに話を聞くことにした。
「え?泳ぐ車が欲しい?」
「はい。スカイビハイクルじゃいけないような場所なんです。」
ライラがティラに事情を話す。
「海の底かぁ~。ならスカイサブマリンなんてどう?」
「え?空・行使ですか?」
「違う違う。もうほとんど知られていないけど
潜水艦って言って海の底まで行ける車のことだよ。
で、KYMのビハイクルには空と海の両方を移動出来るスカイサブマリンっていう
製品もあるんだよ。
恐ろしい程流通しないからって市販はしてないみたいだけど。
でもライラくんだったらいいよ。うちに来てよ。」
というわけでティラと共に久しぶりにKYMシップに向かう。
空の一部を埋め尽くすほどの大きさである空中要塞。
電線に集まるカラスのようにそれを中心に
無数のスカイカーが密集して運用実験がされている。
その中へと堂々と二人が乗るスカイカーが吸い込まれていく。
普通の民間車両だったら間違いなくセキュリティを呼ばれるが
社長令嬢ならぬ社長自らが乗った専用スカイカーであるため
もちろん問題はなかった。
「大昔にはKYMシップは軍艦産業だったんだって。
昔はどんなクルマも空を飛べないからって海を泳がせていたんだって。」
「それもう10世紀以上前の話ですよね?」
「うん。初心を忘れないようにって今でも
たまに潜水出来るスカイサブマリンを作ってるの。
10年に一度とかだけどね。
ちょうど最新型がこの前出来たばかりだからそれを使っちゃおうよ。」
それからスカイシップに着艦して格納庫へと向かう。
途中でラモンと合流して事情を話す。
「それはいいけど・・・。ライラ、」
「はい?何ですか?」
「あんたユイムとしてならここのスタッフに顔を知られてるけど
あんた本人の姿じゃ完全に見知らぬ他人だよ?」
「・・・・あ。」
「スカート履いてるから男としては見られていないのがラッキーだけど
もし最近のイメチェン前のまま来てたら
ティラに男が出来たって騒ぎになってたよ。」
「あ、あははは・・・。」
それから3人で格納庫に到着してティラがスタッフにある程度の事情を話して
最新型のスカイサブマリン・轟天の発車準備をしてもらう。
しかし本来は必要な時には政府議会からの依頼があって
それから準備が行われて数日後に発進という流れであるため
0から準備を行う分今すぐに出発というのは難しい。
「まあ一日で行って帰って来れるとも思ってませんし
そこまで急がなくても大丈夫ですよ。」
「ごめんね。なら今度の金曜日。二日後の放課後に出発できるようにするね。」
・X是無ハルト邸。
ライラが家に戻りキリエ達に事情を話す。
「海底火山エルデですか。またあの人は厄介なことを・・・。」
「ですがヒカリさんをこのままにしておくのもまずいですし・・・。」
「・・・と言うかあの子ずっと体の中にいたんだ・・・。」
食堂。
ライラの隣にユイム、向かいに升子と来斗。
升子の隣にシキル、リイラが、その向かいでキリエが座って食事を行っている。
「それで行っても大丈夫でしょうか?政府議会の許可っているんじゃ・・・」
「行くこと自体に許可は必要ありませんわ。
個人ではスカイサブマリンの受注が出来ないから
政府議会を経由するというだけで
KYMシップの社長となったティラさんが準備できるというのでしたら
議会は関係ありませんわ。」
「私も行ってもいいでしょうか?ヒカリのために何かしたいんです・・・。」
「僕も行くよ。シキルのボディガードも僕がやるよ。」
「私はパス。まだ来斗から目を離せないもの。」
「私は升子の手伝いをするわ。」
「私も今度の土日は議会で招集が掛けられているので行けませんわ。」
という事でライラ、ユイム、シキルは参加することになった。
翌日。
既に事情を話していた上剣人から
名指しを受けていたパルフェはそのまま参加が決まり、
それ以外にも部活で事情を話すと
「ユイムさんが行くなら当然私も行くわよ。
あとあのヒカリって子には借りもあるしね。」
「あたしとラモンは轟天の管理人として当然参加するよん。」
「では私もご一緒致しましょう。」
シュトラ、ティラ、ラモン、ケーラの参加が決まった。
「ミネルヴァさんはどうしますか?来てくれたらありがたいんですけど。」
「悪いね。力になりたいのはやまやまなんだが
土曜日にはプロ試験があるんだ。
これに受からないとプロを引退しないといけなくなる。」
「そうですか・・・。頑張ってくださいね。」
「ああ。もし必要があるようなら土曜の夜からでも向かうよ。」
「ありがとうございます。あれ?ところでラットンさんは?」
「民子と一緒に整備日だから少しの間いないよ。
次の試合は早くても一ヶ月後だからってんで一気に整備してるのさ。」
「・・・そうですか。」
「なに、そんなに無力がるなって。
あたしらが来るまで頑張ってきたメンバーはみんないるんだ。
どんなピンチだって乗り越えていけるさ。」
「あ、いえ、そんな、みなさんの力を疑ったことなんて・・・」
しかし思えばパルフェとシキル以外の5人とは既に1年近くの付き合いだった。
ユイムとはあと一週間ほどで初めて会ってから1年経つ。
尤もこうして普通に話せる仲になったのはまだまだ先の話だが。
(・・・ティラさん、ラモンさん、シュトラさん、
ケーラさん、そしてユイムさん。
みんな私にとってはもう無くせない存在。
彼女達は必ず守り抜かなければならない。
例え、自分が相手になったとしても・・・。)
・そして翌日。放課後。
KYMシップにライラ、ティラ、ラモン、シュトラ、
ケーラ、ユイム、パルフェ、シキルが集まる。
「では、行きましょうか。」
8人がスカイサブマリン・轟天に乗る。
操縦などは本来は人間が手動で行うのだが今回は自動で
行えるようにこの数日間で再設定された。
そのため8人全員がエルデに乗り込めるようになっている。
「火山だから暑いんだよね?」
「多分そうだと思います。
恐らく最低でも40度から50度はあるかと・・・。」
「それをよく研究者のおじさん達はカードもなしに行けるよ。」
「ホントだよぉ~あたし暑いのあまり好きじゃないのに~。」
「大丈夫ですよ。いざとなればアクアあたりでも使えば。
それにいいトレーニングになると思いますよ。」
「・・・・」
ライラとティラ、ラモンが話しているのをユイムは黙って見ていた。
「どうしたんですかユイムさん?」
「ああ、うん。あの3人って本当に仲がいいんだなって。
だってライラくんもう女の子だけどお嫁さんが二人もいるのに
他の女の子と一緒で・・・。ちょっと妬けちゃうよ。」
「・・・まあ、あの二人はライラくんがユイムさんを装って
山TO氏に来た時からずっと一緒ですからね。
私やユイムさんが部活から離れてた半年間で本当のユイムさんとも
関係が半ばリセットされつつありましたから・・・。」
「・・・この1年間あの3人で頑張ってきたんだね。」
「ユイムさん、
1年前にあなたが起こした行動は何も悪いことばかりではないんです。
ライランドさんが山TO氏に来なければパラレル部は再開しませんでしたし
こうして再び部員が揃うこともありませんでした。
なのでどうかお気にしすぎないでくださいね。」
感傷に浸るユイムの肩をシュトラとケーラが叩いた。
「・・・いいチームですね。」
「はい、私もそう思います。」
そしてそれをシキルとパルフェが眺めていた。
やがてスカイサブマリンは飛行を終えてついに海へと突入した。
窓から見える景色が空の青から海の青へと勢いよく変わった。
内陸に住居が集中した現代では教科書の中
あるいはキリエの力でしか見ることの出来ない
一面の蒼が容赦なく脳内の新しい回路を焼いていく。
しかしキリエのそれよりも暗く、教科書で見るそれよりも薄汚れた蒼だった。
既に海の大部分に酸素が行き届いておらず
酸素を必要とする水生生物は死に絶えてしまい
時折海に落ちてくるゴミなどが分解されないまま海中に溜まっているためだ。
泉湯王国に近い川から流れる近海では
まだわずかに酸素が残っているためそこにのみ魚が生息している。
「・・・本当に魚いないんですね。」
ライラが教科書で見た現在の海の状況を見て表情を変えた。
「私、泉湯王国の川も綺麗だと思いますが
本物の海はもっと綺麗なものだと思ってました。」
「確か聖騎士戦争が起きるまでは教科書とかに
載っているような綺麗な海だったんだよね?」
「聖騎士戦争が起点なら今度剣人さんに聞いてみましょうか。」
そんなこんなでスカイサブマリンが海を行き、海底火山エルデを目指す。