6 働けよ
第6話です。
面接後、父親と竹井が衝突します。
正しさだけでは届かない現実。
そして、少しずつ変化の兆しが見え始めます。
面接が終わったあとだった。
父親は何も言わず、部屋を出ていく。
職員たちが、それぞれ持ち場に戻っていく中、
竹井だけが、その場に立ち尽くしていた。
――あれでいいのか。
胸の奥がざわつく。
気づけば、足が動いていた。
廊下を抜ける。
外へ出る。
父親の背中が見えた。
「おい」
声をかける。
父親が、ゆっくり振り返る。
「……なんだよ」
「働けよ」
一瞬、空気が止まる。
「……は?」
「子ども守りたいなら、まずそこだろ」
父親の表情が歪む。
「働けねえからこうなってんだよ!!」
怒鳴り声が響く。
「仕事なんか選ばなきゃいくらでもあるだろ!」
「あるなら教えろよ!!」
空気がぶつかる。
「……あいつと、二人でやってきたんだよ」
声が落ちる。
「誰にも頼らずに」
「それの何が悪い」
竹井は言葉を失う。
そのとき。
「竹井」
後ろから声がした。
高田だった。
首を振る。
その目は、静かに制していた。
「……やめて」
短い一言。
沈黙。
父親は視線を外す。
「……もういい」
それだけ言って、歩き出す。
竹井は、追えなかった。
翌日。
竹井は相談課長に呼ばれていた。
会議用の打ち合わせスペース。
簡単な仕切りだけの、半分オープンな場所だった。
周りでは、他の職員が普通に仕事をしている。
電話の音も、キーボードの音も聞こえる。
隣には係長と高田がいる。
「竹井君」
課長が静かに口を開く。
「気持ちを持つことは大事だ」
「それに熱意もある。よくやっていると思う」
一拍置く。
「ただね」
視線がまっすぐ向く。
「僕たちは“強い権限”を持っている」
「だからこそ、感情で振るうことは許されない」
空気が重くなる。
竹井は唇を噛む。
「……でも、最後は感情じゃないですか」
思わず言葉が出る。
課長は少しだけ目を細める。
「そうだね」
「ただ、“最後”はまだ来ていない」
言葉が刺さる。
竹井は何も言えず、下を向く。
拳を握りしめる。
係長が一歩前に出る。
「今回は初日から同行させるなど、こちらの判断にも問題がありました。申し訳ありません」
続いて、高田も頭を下げる。
「私も、止めきれませんでした。申し訳ありません」
竹井は顔を上げられない。
課長が小さく息を吐く。
「……上司に謝られたら、何も言えなくなるだろ」
少しだけ空気が緩む。
「とりあえず今日はここまで」
「一度、頭を冷やしなさい」
竹井は小さくうなずく。
⸻
「高田さん」
呼ばれて振り向く。
上の階の職員だった。
手には、一枚の紙。
丁寧に折られている。
「これ、お願いします」
そう言って手渡される。
高田はそれを受け取る。
中身は見ない。
静かに、うなずく。
午後。
係長と高田は、再びあの家の前に立っていた。
インターホンを鳴らす。
しばらくして、ドアが開く。
「……なんだよ」
父親が、不機嫌そうに顔を出す。
「昨日話しただろ」
高田は落ち着いた声で言う。
「こちらをお届けに来ました」
紙を差し出す。
父親の視線が、そこに落ちる。
「……なんだそれ」
「お子さんからです」
一瞬、空気が止まる。
父親の手が、わずかに止まる。
「……」
「少しだけ、お話しできますか」
沈黙。
やがて父親は小さく舌打ちをする。
「……入れ」
第6話を読んでいただきありがとうございます。
今回は「正しさ」と「現実」のぶつかりを描きました。
竹井の言葉は正しいのか。
それとも間違っているのか。
次回は、子どもが書いた“手紙”が動き出します。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。




