7.違和感
どうして、ユリウスがヴァンノインに行かなければいけなかったのか。どうして、ユリウスが死ななければいけなかったのか。
……私は、どうしても知りたいし、出来ることなら止めたい。
だから、手始めに他国の情報を扱う外務部の側まで来てみた。来てみたものの……今まで、政治なんて全く触れてこなかったから、正直よく分からない。
「ん? これは……王女様、何か御用ですか?」
「えっ、あ……あの……」
どうしよう、なんて聞いたら良いんだろう。
でも、あたふたして不審がられても困る。ここは、もう腹を括るしかない!
「ちょっと聞きたいんだけど、先日まで滞在してたエリシア様の記録って、見せてもらえるのかしら」
「……記録ですか? そ、そうですね、確認致しますので、こちらのお部屋でお待ち下さい」
口にしてしまったから仕方ないけど、もしかして――
「ストレート過ぎたかしら……」
しばらくソファで待っていると、先ほどとは違う、髭を生やした人が来た。
「リサ王女殿下、失礼致します。ご希望の資料をお持ちしました」
「ありがとう。えっと、貴方は確か……」
「ここの室長を務めております、ルノーと申します。失礼ですが、なぜ王女殿下が資料などご覧になりたいのですか?」
「ルノー伯爵ですね。先日エリシア様とお話しした際、ユリウスがヴァンノインに訪問したと知って、私も興味を持ったの」
「……左様でしたか。隣の部屋に控えておりますので、何かあればお声掛け下さい」
「ありがとう」
二冊に分かれた綴りを前に、深呼吸した。
どうやら、一冊は滞在中の記録。もう一冊は、二国間での取りまとめや議事録のようだった。
「へぇ〜……エリシア様、滞在中に何度かユリウスに会ってるのね。だけど……」
所々、文面の区切りが悪い。
ページが……足りてない?
それは、二冊とも。
変なところで議事録が終わったり、会話と思われるやり取りも中途半端。意図的に抜かれてるのだとしたら、私にも見せたくない何かがある?
それでも、出来るだけ情報が欲しい。
「両国の関係を、もう一段深める方法を話し合いたい……これは、お兄様の発言ね」
内容を目で追っていくと、ヴァンノインとエルフェリア、両方と縁のある者で、且つ信頼できる人材と書かれている。
『ユリウスのような人材を、ただ護衛として置いておくのは惜しい。君が推薦してくれたおかげで、こちらも動きやすくなったよ』
……エリシア様が、ユリウスの名前を挙げたんだ。
これがキッカケで派遣されたのだとしたら、友好目的?
ヴァンノイン王国とエルフェリア王国に、争いはない。表向きはすごく平和で、国民の往来も盛ん。
“実績があれば、彼の将来は大きく開ける。君の願いにも、応えやすくなるだろう“
この文面で、思い出した。
以前、お父様から『先方の姫君が、ユリウスを大層気に入られてな。縁談の話も進んでいる』と聞かされた。
……そっか。他国の貴族でも、エリシア様の相手になるための実績が必要なんだ。友好的な派遣を名目に王命が出されたのだとしたら――
でも、それ以上の情報は何も見つけられなかった。
仕方なく資料を重ね、ルノー伯爵へ返そうとドアに歩み寄った。
“――内容は伏せろ、それに抜いた所は――”
微かに聞こえたやり取りに、鳥肌が立った。
ルノー伯爵の表情は、終始穏やかだった。だから、こんなに寒気がするんだ……。
***
帰国と同時に呼び出すなんて、お父様ったら相変わらずだわ。手土産を待ってるわけでも、ないでしょうに。
「お父様、只今戻りましたわ」
「帰ったか、エリシア。それで? 例の件は、どうなった」
「……向こうの王様が下してくれるでしょう。私は、ちゃんとお願いしたし、候補の中にユリウスも入ってたわ」
「そうかそうか、良くやった」
満足そうにワインを流し込むお父様に、念のため確認くらいしておきましょう。
「私は、ユリウスが欲しいの。ちゃんと分かってる?」
「……分かっておる。しかし、実績がなければお前を嫁に差し出すことも、婿に取ることも出来ん。だからこそ、名前を入れたんだろう?」
「返事が来たら、すぐ教えて」
私は、ユリウスが側に来てくれれば何だって良いわ。
結婚してくれるなら嬉しいけど、まぁ、仮に出来なかったとしてもエルフェリアには戻らないでしょう。




