続々・ヒーロー部のゲスト講師
真由美です!
セイロンさんの講義はまだ続いています。
「それと、もうひとつ」
セイロンさんは宮本先輩の肩に手を置きました。
「私はヴィラン組み手だと言ったはずなのに、君は道着のまま私に対峙した。私は見ての通りヒーロースーツだが……生身で勝てると判断したのかな?」
「い、いえ……それは、急に始まると思わなかったので」
「いや、別に間違いとは言っていない。先日、五百旗頭理事長の奥さん、真佐江さんが……」
ヒィーーッ
お母さんの名前が出たとたん、女性部員から悲鳴が上がり、明らかにヒーロー部員がざわついています。お母さんはヒーロー部の夏合宿に何日か講師で参加しているけれど、あの悲鳴はなんだろう?
「おほん。その真佐江さんが颯爽と現れ、虎の怪人を生身で倒した……」*第19話『お母さんが現れた』参照
おぉ……
やっぱすげぇ……
さすが鬼真佐江……
鬼真佐江って……お母さん、合宿でどんな特訓しているの〜。
「真佐江さんが現れたその時、思わず止めた私にこう言った。『ヒーロースーツを着ているからヒーローなのではない』と。そう言って、怪人に堂々と立ち向かう背中に、私はヒーロー『ハニービー』としての矜持を見たのだ」
みんなの前でお母さんの解説されていてなんだか照れ臭いです。もうその辺にしておいてください、セイロンさん。
「しかし、それは元トップヒーローの実力、状況判断があってこそだ。君の場合は違うね?」
「はい……」
「怪人は間抜けも多いが、力や特殊能力は通常の人間が太刀打ちできる相手ではない。驕りや油断は、自分だけでなく守るべき相手の生死にも関わる。さぁ宮本君、ヒーロースーツを着なさい。再開しよう」
宮本先輩は壁際に走り、置いてあるヒーロースーツ入れ?からヒーロースーツを取り出し、着替え始めました。
セイロンさんは小川さんに近づいてまた語りかけます。
「小川君、君は今より強くなれるとしたら、どうする?」
別バージョンだ……。
「え!? 今より強く。興味あります!」
小川さんって人、大丈夫かな?
「そうか、君のように優れた人材にはヒーローになるだけではなく、怪人になるという選択肢もある。いや、怪人と言ってもね、何も全員が全員、悪さをするわけではない。その並外れた力で様々な施設の警備を担当したり……」
「待て怪人!」
ヒーロースーツに身を包んだ宮本先輩です。
「また君か。邪魔をしないでくれるかな? 今、小川君は人生の大事な岐路に立っているんだ。決めるのは彼だ。他人の君が口を挟むことではないだろう。違うかね?」
出た、セイロンさんの『君には関係ない』論法! これを言われると、なんだか自分がお節介している気になるよ。
「そ、そうだ宮本! これは俺の人生だ……」
う〜ん、小川さんって実はちゃんと役割をわかってやっているのかもしれない。
「やかましい、小川! お前を説得するつもりはない。俺は俺の正義を執行する。それがヒーローだ!」
あ、さっきと感じが違う……。
「ほう、君の正義とやら、聞かせてもらおうじゃないか」
セイロンさんが得意の論戦に持ち込もうとしている。宮本先輩、どうする? 論戦ではセイロンさんに勝てないよ! めちゃくちゃ強いんだから、口喧嘩!
「断る! ヴィランのお前に正義は理解できない!」
断っちゃった!
「なるほど、問答無用か。いいだろう、かかってこい!」
正解だった!
セイロンさんが腰を落として構えました。いよいよ組み手が始まります。武道場の半分で稽古中の柔道部員も手を止めてこちらを見ています。
空気が静かに張り詰めていくのがわかります。
その静寂を破って宮本先輩が跳躍します。
「キェーー!」
一直線に放たれた飛び蹴り。
バシッ!
それは難なくセイロンさんにはたき落とされます。
態勢を崩しながら、めげずに身体を回転させて足払いを仕掛ける宮本先輩。
セイロンさんはそれもふわりと飛び上がって回避。着地と同時に正拳突き。
ドンッ!
宮本先輩はそれも紙一重でかわし、転がるようにすぐに立ち上がります。
そして、セイロンさんも後ろに跳んで距離を取りました。
おぉ……
驚きの歓声が上がる中、お互いジリジリと摺り足で距離を測っているように見えます。
「カマンッ!」
セイロンさんの気合いの入った挑発に応えるように、
「セイッ!」
宮本先輩の右の突きが襲います。
ゴッ!
武道場に響いた鈍い音。
「つ……ッ!」
右手を押さえて痛みに顔を歪めたのは宮本先輩の方でした。
セイロンさんは左手の肘を前に突き出しているだけ。もしかして、あの突きを肘で受けたの?
セイロンさんがゆっくりと宮本先輩に近づき、右の拳を半開きにして胸元近くに当てます。
あれは……セイロンさんの必殺技『なんとかパンチ』……なんだっけ、忘れちゃった。
「勝負あり!」
源五郎丸先生が慌てて止めました。
「宮本、拳は大丈夫か!?」
「大丈夫です、痺れただけです……。セイロンガー先生、今の肘ブロック、狙ったのでしょうか?」
「拳を壊さないように少しずらしたがな」
「そこまでピンポイントで……。最後のは『ワンインチパンチ』ですか?」
それそれ、宮本先輩。正解!
「あぁ、源五郎丸先生が止めてくれて打たずにすんだ。ありがとうございます」
セイロンさんは源五郎丸先生に一礼し、宮本先輩に向き直りました。
「宮本君。さっきの口上は悪くなかった。ヴィランとまともに取り合わず、自分のペースで戦いに持ち込んだ。だが、肝心の戦闘で負けては意味がない。君は学生の全国大会で優勝したようだが、目標はそこではないはずだ」
「ヒーローを目指すなら」
「もっと泥臭く、使える手はなんでも使って相手を倒すことを考えるんだ」
「はい! セイロンガー先生! またお手合わせ願います!」
うわぁ、なんだかすごい。戦いの世界ってこんなに熱いんだ。……私には無理だけど。
この後は、生徒を指導するセイロンさんのカッコいい勇姿を堪能して、一緒に下校しました!




