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灰色のバックソード  作者: Hegira
第七監
94/95

死命ディシジョン

安心しろ。お前の脚本などない。だからお前は自由に動けるはずなのだ。

それなのにお前ときたら、自分が主役だと思い込んでいるばかりに……。

「なーに……尚怪我す、って?」

 まだ立ち上がるよ、コイツ。

 そんでもって鳥肌立ちまくってるよ俺。精神衛生とか凄げー穢されまくってるし。

「深い意味は全くねーよ。お前の死に様を誰にも見せずに知らしめるだけだ」

「いー下限に竹刀と垂れにも離乖されないよ?」

 はっ、言ってろ。

 読者ごときに理解されたらお終いなんだよ。

 俺の善意が通用するやつなんざほとんどいねーよ。

 俺の助けが要る奴は俺なんか要らねーんだよ。

「とーは癒え、刺すがに綿しも減回がちかいから、あそんでられないよ。もう、ねてちょうだい?」

 ……ってそんな構えられてもな。

 限界なのはお前のキャラだ。

 そして阿木本は俺が「いいぜ、かかってきな」と言い始める前にかかってきた。

「せーいっ!」

「っ……!」

 よけるのが面倒だったのもあるが、まあ仕方なしに右の頬を差し出しといた。

 まー痛いのは俺じゃーないし痛がるのは尚の事俺じゃーない。

 俺がするのはこいつを殺す事だけだ。

 それ以外はアウトオブ眼中だし、アウトオブオーダーだ。

「っー、くあああっ!」

「痛みから、逃げんなよ?」

 殴った刹那の後に拳が誰かさんのせいでぼとりと切られた。

 誰だろうな、リストカットなんて半端ねー真似をするのは。

 少なくとも俺じゃーない。

 本当だって、信じてくれよ。

 俺の嘘を、信じてくれよ。

「……っ」

 阿木本は手首を押さえながら退こうとしたが俺はそんなのを許すほど寛容なタチとして作られてはいない。

「どうした? 俺を寝かしつけるっつー気概は最初っからねーとは思っていたけどな、本当にねーのか?」

「ぅーぅうううう……君は、誰?」

「やっとまともに口を利くよーになったな……といっても俺は知ったこっちゃねーけどな」

 分かってるとは思うが俺は人間未満みたいなものだからな。眠気とは無縁なんだよ。

 だから俺みたいな人でなしが普段から持ち主を支配するような事があったら代償行為に走るんだけどさー(具体的には『連続殺人器』になるとかな)、そのパターンだと大体が凄まじく早死にするっつー難点があるから半端な奴には力を貸せないから参るぜ。

「そーこまでの刃核、とは重罠かった……」

 そこに来て四手統那。こいつは気持ち悪いぐれーに半端ねー。

 あの時何よりも先に諦める事を選んだこいつは、人為に刃向かう事はあっても流れには逆らわない。

 つまり空気に敏感に反応してしまう。

 アツい展開ならテンションをアゲるし死ぬ雰囲気に包まれたら真っ先に死ぬ。

 逆に他人の期待にはほとんど応えられない。

 どこまでも正直な気分屋だ。

 主義も主張もあったもんじゃねぇ。

 そもそも、本人に自覚があるかどうか知らねーが、答えを見つける気が無い。

 グレーゾーンに浸かり切っている。

「俺は周りを逸脱した精神強度を持つ奴の味方をする、〝異端子〟としての役割しかねー。だから、普通の人間の三分の一も使ってるお前はどこまでも俺の敵に近けーな。そして、あいつは、俺の助けだけじゃー足りねー程に、弱すぎるんだよ」

 俺の力ぐらいじゃー驕れもしねー。

 まだまだ、艱難辛苦を乗り切れねー。

「……そう。だったら、私には、最初から勝てる相手じゃ、無かったね。そんなに大人数で相手をされちゃったら」

 どうやら、こいつの怖さについてようやく納得してくれたらしい。

 だからって、そこで『そうだよお前は出オチだ』と言ってやる親切心は俺にはねー。まー、昔に持ち主の親を切った事は、残念ながらあるんだよなー。でもそれって親切心じゃねーしなー。

 こいつが切るのは、親しくないやつだけだからな。

「さあ、もうキャラクターも無くしたし、一思いにやってちょうだい?」

「ああ、任せろ」

 俺が首筋に手を当てたその時。

「ひっひっひっひ……私を差し置いて殺人事件なんて起こるとでも思っているのかなーあ?」

 死ーん、と冗談のような無音が全身に浸透する。

 俺というか……僕のだな。僕の皮膚とやらが粟立った。

 まあ案の定そいつか目覚めていた。

 番鳥優子。

 亡霊の如く。

 いやーかっけー。

 真っ黒い襤褸(ぼろ)と真っ白く禍々しい、刃と柄それぞれが七尺以上はありそうな……えーと大体二メートル以上か? そんな感じの装飾と長さの鎌。

 それ以外何も見えねー。

 そこだけ真っ暗だ。

 正体不明。

 正体朦朧。

 いやまー俺にゃー関係ねーが。

「おいおい……これは俺の手柄だぞ。他人に結果を押し付けられるか」

 俺は一応託された気持ちを通してみようとした。

 しかしこの女(の頭を覆っている物)は首を振った。

「そんな勝手は、私の勝手の前には通じない、とかね♪」

 おそらく死に体の相手も感じちゃいるだろうが、こいつの存在を認識するだけで、おぞましいものが全身を駆け巡っている。

 細胞の一つ一つが、冷ややかに握られているような。

 ぞくぞくするが、続々しない感覚だ。

 台詞に『とかね♪』って無理に付け足しても深刻過ぎる語調は誤魔化せねーのな。すげー。

 文章の上で嘘吐きやがった。

 俺が軽薄で重厚なのと同じぐらいの矛盾だ。

「いいのー? 流石に貴女に殺されない自信はまだあるけど? それとも、出番が欲しいのかな?」

 んでコイツ(えー……読者には悪いがもう名前忘れたわ。とても申し訳なく思っている。とても、とってもだ)もコイツでよくこんな得体の知れないのと喋る気になるな。

「正直私はもう出番は要らないから、こうしてしまう事で、ネタを切らしてしまおうかと、ちょっとね♪」

 僕の脚は、(すく)んだ。

「意味が分かんないな? 能力は奪ったはずだけど?」

 いやーお前はすげーよ。


 死を恐れないってのは考えない事だと初めて知ったぜ。


「化けの皮を剥がれた今、私はどんな姿をしているんだろうねっ♪」

 全身の素肌に氷面が擦り付けられたように、幻覚した。

「そんな事聞いて、どうするの?」

 さて〝僕〟の記憶から引っ張り出していこうか。

「どーもそこの統那君の目には、私は真紅色を放っていて、目に悪い事この上なさそうなんだけど、それで私はピーンと来ましたとさ」

 今の番鳥優子の色は。

「哀川潤、ってキャラクターは知らないよね?」

「……うん」

 あ、テンポ崩れた。

 ていうか、俺邪魔だな。

「まあいいや。全く別の作品なんだけど、一つだけ、ぴったり共感できるものがあったんだ」

「何?」

「〝死色の真紅〟」

「…………」

 …………。

 ………………やっぱ言わねー方が良かったんじゃねーの?

 あってはならない沈黙っつーか。

 そろそろ本気(シリアス)出せよ。

「……まあとにかく、だ。私はもう死色だから」


 己の能力を消した相手に向かって。


「死ぬべき時に、死ね」


 番鳥は言った。

 そんで言われた阿木本は……当然だが死んだ。

 拭い去る事の出来ない、番鳥の本質によって。

 その死に様は眠りに落ちたように安らかだった、と付け加えておこう。

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