挟撃キックアップ
再び当てど無く彷徨う僕。
「まあ、今更こういうシチュエーションが怖い、とは言わないけど……どんだけ広いんだ?」
走っても走っても境界は見えず、市内全体を覆っているにしても広すぎるんじゃないかと思わなくもないけど、そういえばそもそも市内全域を把握している訳ではないのだ、僕は。
だから、やむなく虱潰しに市内と思われる場所を探して行くしかないのだ。
地の利なんてのは全く無かった。
既にさっきの戦闘から二時間は経過していた。手持ちの携帯で確認したから間違い無い。
歩きに速度を変更したからか、疲労は無かった。
このぐらいではエネルギーが尽きないのかもしれない。
「本当にそうなのか……?」
そんなに都合が良くていいのだろうか。
何か、大事な物を見落としてはいないだろうか。
「いや。こんな所まで不安がっていたってしょうがないだろ……」
さっきは敵以外の方面から足を掬われかけたからしょうがないのかもしれないけど、心配性も度が過ぎるとうっとおしいだけだし。読者に嫌われない工夫は必要か。
しかしなあ、今のトレンド(何処の、とは言わないけど)が未だにシンジ君みたいなのを引き摺っているのが問題なんだよなあ。
どの道平凡な主人公が平凡で弱い人間のままだったなんて現実みたいなことは無いのに、そんなあり得ない存在にシンパシーを抱くなんて代償行為をしたって裏切られるだけだよなあ……。
まあ僕に限って言えばこんなひねくれ者だから誰も共感しないだろうけど。
あ、これこそ好感度ダウンか……?
今のでお気に入り登録人数が五人ぐらい減ったんじゃないか?
いやいや、不吉な予想はやめよう。どうせ今の僕はマグマ溜まり……マグマ黙りみたいな彼らにはなれないんだから、そんなことを言ってもしょうがない。
しかし、彼らのようにあそこまでストレスを溜めるのは並大抵のことじゃないということだけは認めてもいい。
あれこそが、個人の攻撃力を殺害すら可能にする程に発揮すると言っていいだろう。
さあ、好感度の話を続けよ――
「――ぅわっ!?」
続きはWebで!
ってこれWebだけど、どう続くんだ?
……いやまあ、続くんだけど。好感度の話が続かないだけで。
「――去ね」
「――ここから」
黒衣を身に纏った、木の枝のように細い二人組が、覆面の下からくぐもった声を発する。
そいつらは僕の真正面から不意を打って手に持った武器――苦無――を躊躇い無く急所に向かって二つ同時に飛ばしてきたその瞬間だけ姿を晒し、また隠れた。
「いかにも……だなあ」
真正面に留まらないのは、外国のヒーローものみたいで(登場の時に口上があるのは日本の特徴なんだとか)褒められた所だとは思うけど、忍者……なあ。
ベタ過ぎねえ?
「なんか想像の圏内だし、拍子抜け具合で言えば表紙抜けな雑誌並だよなあ……」
脳内変換ミスも調子がいい気なもんだ。
これなら何も使わなくても小丈夫。
大丈夫とはとても言い難いのは当前、僕の頭なんだろうなあ……。
……ゴホ、ガッホゲホッ!
咳払いすらまともにできないとは……これはどうも本格的に――
「――動くな」
「――其処を」
――いや、よそう。
そんな事は、考えてはいけない。
命令を無視し、鋭くその場から飛び出す。
今度は何かゴツゴツした球体の形が空を裂いて斜め上空から――軌道を遡れば数階建てのビルの屋上から――さっきまで僕がいた場に飛来する。
形状を認めた瞬間、一目散に僕は背を向けとんずらし、兼ねてから盾にしようと決めていた看板(コンビニだとかファストフード店にあるタイプのやつ)の後ろに屈む。
直後、追い縋るように、無味な爆音と押し広がる爆風、そして手榴弾の破壊力の源である破片が全方位にばら撒かれた。
「確かに忍者って、なんちゃってなくらい何でも有りだけどさあ……」
まだ小言を言うか、僕は。
そこまでして侮辱をしたいのか。
「――――」
「――――」
土煙(と言っても黒い背景に白い粉が舞い上がっているようにしか見えないんだけど)も晴れないのにその中に着地する影が二つ。それらは一つのひび割れた看板を見据え我先に――いや、我同時に、駆けつけて左右から挟み撃ちにかける。
その姿を、眼下に収めた僕。
「――な!」
「――に?」
つまり、その上に僕はいた。
「どうしてだろうか、僕には忍が……いや、君達はくノ一か。そんなに憧れられる理由が分からない」
さらに言えば、正確には『いた』ではなく、『落下中』だった。
既に着地の為の、そして襲撃の為の姿勢は整え終え、僕は重力に従って乱暴なぐらいに脚を振り落とす。
狙われた片方は相棒の方へ走り、こちらに背を向けたまま何をするかと思えば相棒がそいつを越えてあっという間に跳んで来た。一人の手に足をかける、二人一組での壁越えの要領か。
案外普通のテクだが、そこは異常な世界に身を置く者、速度が異常だった。
空中での剣戟――やっぱり僕は素手で、さらに相手は苦無というこの状況が剣戟なのかは果てしなく怪しいけど――による交差の後、威力を逸らした僕ですら体勢を崩して真横に吹っ飛んでいるのに、相手は今の僕の何倍もの高さに身を置き、そこから苦無を連続で飛ばし続けてきた。
仰向けの体でそれらを金属音と共に払いのけ、若干背伸びして買った感のある、だぼだぼ気味の靴を両方とも上空の影に向かって蹴飛ばす。それが攻撃を止めるのに功を奏している隙に猫のように仰向けからうつ伏せに空中で向きを変える。
今度は下からの投擲に襲われるが(前のタイミングで打っていたら味方に当たらないとも限らない)、腕の振りで予測は何とかできた。同様に捌いている内に着地。
余韻に浸る間も無く地面にいた方が、反りの無い忍者刀を構えて突撃。刃に合わせて弾く事で防御している中で反撃を試みてみるものの、片手間の攻撃で倒せる程、甘くない。
フェイントには引っかからず、フェイタルな攻撃は紙一重で掠める。
どこが勝負時なのかを心得ている。だが――
その時、殺気を背後に感じ取り、とっさの判断でしゃがみ込んだ。というよりも、ほとんど座り込んだに近かった。
……攻撃は、来なかった。
覆面の奥で、ニヤリと笑われたような気がした。
殺気だけを、ぶつけられたのだと気付いた。
今まで対峙していたそいつが全体重を込めて刀を突き下ろす。
「――終われ!」
「――すぐに!」
刀は僕の眼前十センチ、七センチ、五センチ、五センチ、五センチ、二十センチ……と、外れた。
目の前のくノ一……いや、死体は、二時間前の僕と同じく、離れ離れになっていた。
ただ、違いとして決定的だったのは、元に戻るか、戻らないか。それだけだった。
手は、使っていない。
手しか使えない、とは一言も言っていない。
「――、お前、今」
「ああ、命令しない方が残ったのか……。積極的に個人個人を差別する僕にとって順列組み合わせの順劣っていうのは結構重要な事でさ、今は、動詞を使えない、つまり他人との関係性において不利な君の方が劣っているとすれば、これはいい事なのだろうかと決めかけているんだ」
という意地悪の前に僕が何をしたのかを説明すると、単純に、頭を後ろに持っていきながら、揚げ足の勢いで真っ二つに切ったのだった。
追加で靴下が残念な事になったが、背に腹は代えられない。
向こうの方がダメージが大きいんだから、ここで嘆いたら、釣り合いが取れないだろう。
にしても片手の逆立ちが崩れない内に足を届かせるとか、我ながら恐ろしいバネを持っているものだ。ここまで来ると、僕がまだ人間の枠で戦っているのが信じられなくなりそうだ。
相棒を失った哀しみに同情する道理も無いままに、二人目を切り捨てる。
「……やっぱり、一番劣っている僕が残るのが一番イイ結果なんだろうね」
忍者の相手も、非情でなければ務まらないのか。
第二戦、勝者、僕。
流石にこれは……失敗だろうと思う訳です。
いつか書き改めるかもしれません。
今日の一言、というか寸劇。
「趣味は?」
「それを探すこと」
つまんねー!
また明日!