裂火ブリムストン
日の目を見ない、深奥の物。
概してそれは、共通して、普通ではない。
声がした。
多分、僕の頭の中で。
今までの展開とか、僕が戦っている事とかそんなのとは全く関係なく。
完全に自分の都合しか考えていないようなソレは。
目の前の敵の事も僕の事も考えない。
その結果。
バキッ。
「……っ!!」
戸惑った僕が敵の剣で、頭部を思いっ切り殴られた。
切られたのではなく、きちんとダメージの通る方での、攻撃。
「……どうやら貴様の場合、有効な攻撃はこれのようだな」
吹っ飛びそうなぐらいに重かった。
衝撃に真っ向から対立したら、首が壊れかねない一撃。
だけど僕は、下がらなかった。
「……ほう、いい根性だな。今のを踏み止まるか」
違う。
まさか雑魚相手に発揮する根性なんて僕は持っていない。
原因は分かるが理屈が全く分からない。
頭を二度三度と振る。
意識をはっきりさせるためでもあるし疑問を振り払うためでもあったけど、効果は半分しか得られなかった。
怪我の程度は明らかに向こうの方が酷いのに裏では逆転されていような気さえしてくる。
「いいのか? 放っておくと三十秒ぐらいで全て回復してしまうぞ」
男の言う通りだった。
甲冑の下で治癒が始まっているのか既に出血が治まりかけている。
小間のアレと似たような物か。
「いいんだよ。今僕が課せられて、そして枷られているのはきっと『逃げられない』って事だから、あと十秒もあれば終わるし」
多分言葉の半分も理解していないであろう男の目が甲冑の下ですっと細くなったように見えた。
「何……?」
「さっきやろうとして、できなかった事を、今から始めよう――」
底無しの、闇にも似た僕の不穏な気配を感じ取ったのか、僕の刃の被害者は逃げる事を選択――できない。
「俺の足が……すくんだだと……っ!?」
一応当たりは取っておいたけど……そういう事か。
オーケイ、把握した。
逃げられず、逃げれない。
最近は聞かないけど、文字通りのデスマッチか。
「大変お安く仕上がってて申し訳ないんだけど、ここらで一丁僕も必殺技っていうのをかましてみようかと思うんだ」
「何を……する気だ」
第一段階は、既に終了している。
返り血を浴びた右手を、だらりと下げる。
空気に触れる、紅。
血の乾きが、刃に訴える。
乾きは、災いをもたらす。
災いは今、降りかかる。
「……、やめろ」
「〝連続殺刃〟」
冷徹な響きが、僕自身を落とし込む。
業火の熱が、刃を昇華する。
「俺はそんな死に方はしたくないだからやめろぉぉぉおおおお!!」
「〝火装煮煉〟」
血が滾る。
血が盛る。
血が迸る。
再度切りつけた瞬間『それ』は体を巡る繋がりによって持ち主の全身に広がり、一息で、背景と変わらぬ消し炭の色に染め上げた。
乾き切っては、声も出ない。
熱を飛ばすように手をビッと鋭く振る。
……これはさすがに格好付けだな。
「朱夏みたいな派手さは全く無いけど、威力は十分過ぎるな……」
歌舞伎者とまでは言わないけど、悪役の怪人を倒した時に出る爆発の爽快感に近い物はある。
……ここで誤解して欲しくないのは、僕は別に爽快感を得た訳では無いという事だ。純粋にやった事は本当なんだし、相手を殺す、背筋の凍る感覚は未だに現実のものとは思えない。
死という事象には嫌と言うほど触れているはずなのに。
――ホウ? ナカナカイイ素質ヲ持ッテイルジャナイカ――
「何だよ……またか……」
痛くは無いが、額を押さえてみる。
この歳で悪魔に取り憑かれたとかそういう妄想には浸りたくないんだけど……!
――仕方ガ無イダロウ。今ハマタト無イ自由デ以テ不自由ヲ究メル事ガ出来ルノダカラ――
そのいかがわしい片言と台詞の前後に一行空けるのを止めろ!
……何で対話してんだよ、僕。言葉に出さなかっただけマシだけど。
――はっ、だりぃ性格してんなあお前も――
「キャラまで変えた!?」
喋ってしまった。
それはともかく、ほんとに何モンだよ、これ。
名乗らなかったら門左衛門って名付けるぞ。
――何で近松のオッチャンの名前と一緒にされなきゃなんねーんだよ。もしそんな事をしたら十秒に一回呟いてやるぞ――
いや、脳内ツイッターとかどんだけ痛いんだよ。
ほら、そんな事言ってるからどんどん足が痛くなって……足が痛くなる?
――かっ、てめーみてーな生意気臭いガキに付き合ってるってのはこりゃ相当以上な親切だな。親を切るって書いてカインド、もしくはグッドウィルだっつーんだから多分、英語ってのは相当野蛮な文化なんじゃねーの? で? 何か文句は出ないのか?――
「ぐっ……ぬぅあああっ」
頭の中の声だけが、ノイズキャンセリングされたように響く(……もしかしたら古いかも)。
そして僕は動くどころではなかった。
足が膝上十センチまで、沈んでいた。
おい、どういう事だ!
――ぎゃははははは! こりゃーどう診断しても直訳新陳代謝症候群の典型的な死因だな! 葬式も要らねー! このまま死に埋めという言葉について深く、語ったり合おーぜ!――
……いやいやいや! 答えになってねえし、意味分からねえし!
さっさと教えろ!
――なんだよーノリ悪りぃな、マジ詰まんねーな……腹は括ったんだろ。次は捨てるんだよ。贅肉を――
いや、僕太ってないし。
――察しも悪りぃのな。どうせ読者に詰まんねー自己主張でもしてんだろーけどよー。……ハイハイわーっかりましたよ。ヒントは……かったりーからやっぱヤメた――
……言葉も出ねえ程おまえの事が嫌いになりそうだ。
というか、何を捨てるんだよ。生憎僕は断捨離とかには詳しくないんだってのに。
――それが何なのかわかんねーけど、まず関係ねーわな。つーかそろそろ肩が埋まってるぞ――
そいつの言う通りだった。
「というか、呼吸が……!」
完全に読者を置き去りにしたようなこいつの意図はハッキリしないが(ハッキリさせるつもりも無いが)、もう僕も置き去りにされているようなもんだ。
そして。
誰も見ていないのが災いし、ここに至り僕は、挫折した。
ああそうなんだ。僕ってのはここまでの存在なんだな。そうか、なら。
もういいや。
こいつの正体に関しては大体の見当が付いているけど、いいや。
捨てろって言うし、
物も、記憶も、権利も、誇りも、経歴も、遊びも、豊かさも、関係も、身体も、意識も――武器も全部、
取り合えず捨てた。
////
目を覚ました。
ここは誰? 僕は何処?
――……いや、なんつーかさ、お前、馬鹿じゃねえ? 壊滅的が過ぎるっつーか……あれか? いーちゃんか? それとも殺人鬼か?――
「……何だ、死ななかったのか」
死ねば良いのに、僕。
結局、全部手元に戻ってきたよ。
――問題はそこじゃねー。自殺志願の為にいるんじゃねーんだからお前さー、そういう事はもう少し考えてやれよ――
そんな難しい事、現代の若者は出来ないから。
――いんや、どー考えてもお前のは異常だ。薄皮一枚の下にどんな本性隠してんだ……? どうしたらそんな簡単に――
逆に考えようよ。ここまで深く入り込んだのはおまえだけなんだから、もっと堂々と誇ればいいんだ。
――お前、どんだけ不誠実なんだよ。嘘の建築士に嘘の設計図に嘘の土地に嘘の建築……しかも今も嘘の改築が続いていやがる。いつかは倒れるぞ? 分かってんのか?――
本当は知ってるんだよね。
どうにもならない事が世の中にはいっぱいあるって。
だったら生きてる意味なんて無いんじゃないかって思うのは、そんなに許されない考え方かなあ?
僕なんて生きてても死んでも同じなんじゃないか、と思うのは、一時の気の迷いで片付けてしまっていいのかな?
そんなのは僕にとってはどうでもいいんだけど、他人はそう思っているのかどうか分からないから僕が殺す事に罪悪感を覚えても、自殺にはそれほど抵抗が無いんだよね。自殺の始末にかかるお金の面で両親が困るのは立場的に困るけどね。
結論としては僕は嘘吐きだから――つまり、いつでも自分を殺しているから、君のその捨てるという試験に関しては本気を出さなければいつでもパス出来るんだよね。
――それが嘘なら平和な毎日を送れるんじゃねーのか……?――
それじゃあ、嘘の時間は終わり。また普通の、全力で空回りな四手統那に戻るよ。
――…………わーったよ。負けだ。力を貸してやる。名前は恥ずかしいから教えないけどな――
……いいの? こんなご都合主義で?
――知るかよ。実はあと二つ試験はあるけどそれはお前の異常に免じておく。だが忘れるなよ。夢ってのは、頭の中にしか無いんだからな――
……何を当たり前の事を。
僕は夢を見れたなら、やりたい事が沢山あるんだ。その僕が夢について考えた事が無いとでも?
夢を見たならまず僕は――――
ここから本調子に戻るまで、しばらくの時間を要したので、そこはカット。
数時間後、また僕は戦いに巻き込まれる事になる。
この辺は変なテンションで掻き揚げた、のでおかしい事になっているのは重々承知しております。
最近は衝動買いが多くて軽くですが悩んでます。
という訳で、また明日。
……縦書きのPDFだとこれの前後書きがうっとおしいんだろうなあ……。




