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灰色のバックソード  作者: Hegira
第四介
50/95

手足ディストロイ

デストロイをよりネイティブに近づければ『ィ』が付くはずでぃす。

……あれ?

「選手交代、ねぇ。俺様控えがいないから参っちゃうわ」と言う声が何十重という口から出た。


 それを見て、打葉は特に表情を変えない。

 ただあるがままの状況から言える事だけを言う。


「悪いな。こっちには控えがまだいるから頑張ってくれ」


 それがどうという事もないのだけど、まるでこちらの方が有利であると、ブラフとはいえ錯覚してしまいそうではあった。少なくとも僕に勇気を与えるほどには、打葉の言葉というものは作用していた。僕なんかとは違って堂々としていた。


「ぅ……おっさんげんなり……」と、お茶目なおっさんがたくさんいた。「おっさんの手を替え品を替える手品も通じるかどうか怪しい空気だねぇ。これじゃあ」と悲観するおっさんもたくさんいた。


「悪いが全力を(そそ)いで()して()ぎ込むからどうにもするなよ」


 打葉のその台詞は、『どうにかしろよ』と言われて『どうにかしろと言われたからどうにかしたぜ』という風に、覆されたときに相手が格好良くなるのを防ぐ目的があったと言える。

 ……なんだこのちんちくりんな分析。僕って解説キャラ失格? ……次頑張ろう。


「うわっ、おっさん為す(すべ)もなく死んじまう?」かけるエヌ。


 ずん、と。

 小間がとぼけている隙に打葉は何も言わずに地面を『踏み砕き』、それから言った。


「〝(トレッド)〟といきなり行くか」


 踏みつけた一歩は地面にヒビを入れてなおも重く、打葉は周囲を轟々と揺らした。人の身に余る威力に警戒した小間軍隊……群体か? 群体にしよう。うん。

 局地的な地震に、群体はその場から動けなくなった。


「うおわわわわわっ!?」のエヌ倍。


 そして補足しておくと、もちろん打葉に地震を起こすぐらいの(……直訳はアウェイクアースクェイクか?)信じられないような巨漢設定があるはずもないのは事実だ。

 打葉は「ふむ」と鼻を鳴らし、結果の分かりきった実験をしている学者のような表情を作った。


「あまり俺がふさわしくない能力だな、これは」


 能力そのものは否定しない、といった感じだった。確かにそんあ乱暴なのは打葉には似合わないとは僕でも思うけど。


「……こいつはちっと手強(てごわ)いかねぇ……」以下省略。


 僕と朱夏を遠巻きにしつつ、戦いは続いた。


「考えるなという暗示だとしたらまた変なもんだな。さてと、〝(スワット)〟だ」


 たゆむ事無く実験を続けるように、打葉は攻撃し続ける。試行錯誤どころではない。試行思考の繰り返しを淡々とこなしている。


 ただし、人間の規模を超えて。


 問答無用で打葉が薙ぎ払った――と言うより、そんな動作をした。空気を払って、少し風を起こしただけの動き。

 その動作はただ単に、負けん気の強い女の子がやるような平手打ちぐらいにしか見えなかったけれど、見えないのだけれど、


 ぐららあがあと(いなな)く象のそれのような、生身の人間に思い切りぶつかる野生の音がした。


「お、うおおおおおおおおおおおっ!?」


 音に派手さが無いのが、妙に現実味を帯びていた。

 どう見てもその手に掻き払われたとしか思えない動きで群体が、散った。実際に見える限りは、打葉の手は伸びもせず、巨大化もしていない。

 さらに、群体の立っていた地面が、ざくりとえぐられて土砂の波を盛り上げた。

 波は公園の外周に植えられた木々、林に及び、その間から土が漏れてようやく勢いが死んだ。

 土砂が舞い、枝がしきりに折れ、沈む音だけが妙に耳に残っていた。

 一瞬、つまりまばたきをする間、僕はそれらの光景を目で疑い、耳で疑い、あらゆる感覚で疑って見たけど、僕の思考回路(サーキット)は五十歩百歩のタイムでラップを刻むだけだった。

 打葉、無双キャラ? 打葉、チートか?(僕はこの単語が嫌いだ) 打葉、何で味方になった上で強くなってんの? ……いやいやこれは打葉というキャラクターに失礼か。

 そんな似たり寄ったりの似通った感想しか出なかった僕。

 打葉はまた「ふむ」と言いながら鼻を鳴らし(どうやらため息の代わりのようだった)、言った。


「どうも俺では負けないが、勝てもしないな」


 その台詞はあまり聞きたくなかった。


「魔神的な強さを発揮して何を言うんだ打葉先生?」

「正攻法じゃあ無理、と悟ったのよそこの憎むべきイケメン少年は」


 打葉の『手(スワット、とか言ってたっけ……特殊部隊?)』でえぐられた地面に巻き起こっていたもやもやした粉塵の中から、一人、ゆらりと立ち上がった。

 あえて誰と言うこともない、小間険静だ。

 寒気を吹き出すように関節を軋ませながら立ち上がる途中、猫背の姿勢と暗闇に光る目だけで肉食獣に食われそうな、そんな空気を体現していた。

 険しく僕達を見据え、静かに殺気を放つ。

 それは、僕達には無いものだった。

 何もしていないのに、迫力だけで人を圧倒する――し得る、経験値の差。幾千もの万難を潜り抜けた歴戦の生存力ということなのだろうか。たかだか一月そこそこの色採とは格と核が違うと言うことか――


「確かにそこの少年の破壊力は底知れないものがあるが……俺らの戦いの範疇でそれは必要条件にはなったとしても十分条件にはなり得ない――ってな感じのいい感じに解説しとけばオッケーだな!? おっさんどうよ!? 格好いい!? そこらの女子が放っておかない!?」

「後半の浮いた台詞のせいでダメになっているしそこまで深くもキマってもいねえ!」


 今までのが台無しだ。

 僕のボケが形無しだ。

 総じて台形無し。

 かっこじょうていたすかていかっことじかけるたかさわるにいこーるぜろ。

 にぶんのいちかけるたいかくせんえーかけるたいかくせんびーかけるさいんたいかくせんのなすかくしーたいこーるぜろ。

 ……ゴホン。

 ちくしょう!

 折角僕が誉めるような描写をしていたのに!

 よりにもよって自分で貶めやがった!

 何がしたいんだこいつは!


「まあ、放っておくかどうかは俺達に聞くよりも獅子島の方に聞いた方が良いと思うんだが」


 ようやく僕にも小間がわからなくなってきた。

 しかしそんな僕の憤りを素通りして、息を吸って、ゆっくりと小間は言った。


「と言うわけでどうよ嬢ちゃん!? 俺様格好いい!?」


 一人称に様を付けるほどには小間は興奮しているようだったが、次の朱夏の言葉は小間の期待を裏切るものだった。


「私は魔術師裁判によって小間険静を火炙りに処することに何の依存もないんだけど、最低限殺すのだけは止めておくね」


 ぼっ、と小間の足下から頭頂に渡り、火の手が上った。

 ……おまえ鬼だよ。

解説


(上底+下底)×高さ÷2

二分の一×対角線a×対角線b×sinθ


要するに台形の面積のことを言っています。

……まあ、大学生にしてはお粗末な知識ですが、適当ですのでご容赦を。


今日は程々に、また明日(これ定形文にしよう)。

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