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灰色のバックソード  作者: Hegira
第四介
49/95

力量ディスプレイ

案外これの最初に辞書に出てる意味を知らなかった作者。

 封陣が展開される中で、一も二もなく無言で僕は振り向きながら遠心力フルスイングで横に薙いだ。

 しかし余裕の登場をしただけあって小間は慌てたようにしながらも簡単によけていく。

 僕の〝打ち込み〟の様子から斬撃だと推測したのか、こんな事を言った。


「うわ、ちょっと二人きりのムードをじゃまされたからって、うおわやっ! 乱切りはっ、無いんじゃないっ!?」

「その誤解は嫌いじゃないなあ!」

「同時に否定と肯定!?」


 ちなみに乱切りと言っても本人は全く切られていない。焦ったように動きながらも的確にこちらの呼吸を読んで思いっ切りしゃがんだり必死に横に体を引っ張ったり磁石の対極同士のように跳び退いたり……絵に描いたような慌てっぷりだった。


「くっ……リーチが足りない!」

「ふっふっふ。距離の差、つまりそれはおっさんとの実力差に他ならないのだよ。少年」


 急に格好付けてダンディなお声をお聞かせになった小間だったが、僕がそれに突っ込む暇もなく、被せるような朱夏の声が聞こえた。


「リーチなら、私の出番かもしれないわね!」


 朱夏が手から火を吹いた。火はまっすぐ小間を目指し、逃げる方に向かって掃射された。当然逃げる方は小間で、絵に描いたような慌てた動きでぴょんぴょん跳ねている。


「ノノノッ、とっ、ノーゥ! お嬢さんは火炎放射器の残虐さを知っててこんなことをするのかい!?」

「炎使いにそういうことを言う方がよっぽど残酷だと思うけどー!?」

「僕に言わせて貰えればおっさんにそんな平和主義があるとは思えないけどな!」


 朱夏の火が途切れるのと入れ替わりに僕が再び小間に迫る。

 一つ、凶器を携えて。


「なんっだぁそれぇぇえええ!?」


 驚く小間の瞳に映ったもの――つまり僕の手には、〝氷刃〟が出現していた。


 二の型。


 単に凝固するだけでは為し得ない薄氷が、反るように湾曲して刀の形を作っている。峰は宝石のように三角形の幾何学模様でびっしりと埋め尽くされ、(しのぎ)から刃にかけては透き通って氷の美しさを純粋に表し、現していた。

 触ると低温火傷しそうな柄を確かめるようにしっかりと握り、僕は若干興奮気味に切りかかった。


「〝村雨・(いてつき)〟だ分かったかぁ!」


 若干小間のノリに呑まれながら前にどんどん突き進む。

 一撃目を後ろに大きくステップして距離を稼いだ小間は、


「あっちゃー、これは避けらんないわなぁ」


 コートの内側に物を探るように差し入れた手を抜いて、一緒に取り出した何かを僕の氷刃にぶつけた。

 そのまま競り合いになったのは氷刃と、一見何の変哲もないサーベルだった。


「おっさん剣術は得意じゃないんだよねぇ」

「僕も習ったわけじゃ、無いけどなっ!」


 未熟同士、それなりに切り合いを展開した。派手に足を動かすことも無く、縦の斬撃は横で防御、右斜めに切れば左斜めで防ぐ、攻撃をかわせば次の攻撃をかわされる、突きで攻めれば打ち払われ突き返される、まるで単調な、それこそ競技のような切り合いだった。五分ぐらい、刃を打ち合っただろうか、最後は鍔迫り合いの拮抗。

 その結果、僕は少し息が上がり、小間はまるで平気だった。


「いやー、なんていうかねぇ、この辺はキャリアの違いってやつ? 悪いねぇ。おっさんはママゴトじゃ死ねないんだわ」

「そう、それは良かった。こんな間を繋ぐだけのような切り合いで優勢になった方が困る!」


 まあ、半分以上は冗談なんだけど。大体今日明日で強くなるにしたって、根本のすげ替えだったらともかく、技量に関しては限界ってものがある。

 そこが僕と小間の違い、か。

 経験値に差があるというなら、どうすれば――


「統那! どいてぇええ!」


『何事!?』とも思ったけど、それと同時に僕は驚いて跳び退いた。

 そのままダッシュで逃げる。朱夏の射程範囲から。


「紅炎! 風を飲み込み吹き荒れろ! 〝火蔵(かぐら)〟ぁ! いっけぇぇええええ!」


 何に気触(かぶ)れたのか何事かを唱えながら、朱夏の手からまばゆいと表現できそうな紅蓮の炎が放射された――いや、放射と言うか、もうそれは噴火だった。


 ッッッドォォォオオオオオオン!


 ぎりぎりまで僕のいた場所を膨大な熱量が突き抜けた。それに伴い、〝村雨・凍〟が、融解する前にさっと昇華した。

 所々が影のように黒く見えたせいもあって、質量の塊が乱暴に吐き出されたように感じた。

 小間が何事か慌てて叫んでいたみたいだったけど、聞き取ることはできなかったし、射線のすぐそばにいた僕もその爆風に吹き飛ばされていた。五メートルぐらい放物線で遊んだ僕はしっかりと地面に削られるように落ちたことで遊びのツケを払った。むくりと起き上がって見た光景、風景に僕は感嘆せざるを得なかった。


「うっわぁぁぁぁぁ……」


 現実には干渉しないのだが、破壊し尽くされた公園は無惨なものだった。そこに何の遊具があったのかを推測できない程に物という物は根こそぎ持って行かれていて、さらに、地面は元から黒かったけれど、白く表現された輪郭がえぐれた土を物語っていた。耕されたようなとも言えるかもしれないが、現実には焦土なのでその喩えを使うにはあまりにも農耕の環境とは程遠かった。

 残り火がそこかしこに揺らめいている。

 今にも再び燃え上がって爆発しそうにして。


「とは言えこの手の技の後はほとんどの場合敵は立ち上がってくるからなあ……」


『やったか!?』と気の利いた一言でも言えばいいのに、また台無しなことを言ってしまった僕。その言葉に反応したのは朱夏ではなく――反応しようにも、聞こていないだろう。何故なら僕は――、


「ぅぉおぉおおぉお……こいつぁちぃっとぉっさんでも堪ぇるゎ……なんつってー」


 信じられないことに――と言うのはありきたりなんだけど――朱夏からマッハ十分の三秒ぐらい離れた所で、煤も付いていない小間が立ち上がったのが見えた――その後ろだ!


「出てくるとしたら、このタイミングだよなあ!」

「おっ、やるようになったねえ少年」


 後ろに僕は回り込んで、新たに『抜刀』する。


 三の型。


「――〝村雨・(したたり)〟!」


 小間はそれに応じる。僕に振り向きながら振り下ろされたサーベルは、僕の手刀が切り拓いた平面上で水が弾けるのと同時、


 ど真ん中からパァンと切り捨てられ、


「うっそぉー!?」

「嘘のような切れ味が売りだ!」


 折られた半分はくるくると宙を舞って地面に刺さる――前に消えた。手元に残っていた物も同様に、消えた。


「汚れ一つ無いって、まさか……さっき朱夏の炎を食らってたのはダミーか?」


 コイツ、分身の術とか口寄せの術とか言わないよな……。


「あら? 言ってなかった? おっさんは魔法使い的な事は大概できちゃうのよ」


 本当に言ったよコイツ。

 言ったと同時、小間は立体視みたいに横滑りに増殖し、十、二十……となったところで僕は数えるのを諦めた。


「何だよ、これ……」

「嬢ちゃん程じゃないけど火も使えるし……そうだねぇ、RPGの魔法使いみたいな感じで捉えて貰って一向に構わないわ」という声が何重にも響いた。


 コピペの風景に、取り囲まれた。


「おたくらそろそろ死ぬ気で来ないと死ぬかもしんないねぇ」という声も何重にも響いた。


 その彼我の差に思わず、へたりたくなった。

 正直、遊ばれていた感覚はあった。こっちは割と本気で取り組んでいるのに、向こうはわざわざそれに合わせるような動きしかしてこなかった。それはどう考えても、本気を出していない(あるいは出せない)なのだろう。

 一緒に小間に囲まれた朱夏に話しかける。


「どうする……? 朱夏」

「片っ端から焼く……とか?」

「最善だね。名案じゃなさそうだけど」


 まあ何というか、ピンチだった。


「お前さんら、そろそろ腹を括っとけよ?」と言う数十人の声。


 一斉に――若干秒ずつタイミングをずらしながら――統率されきった集団が襲いかかってきた。

 最初は徒手空拳、だらりと垂れ下がった腕を眼前でうならせて顔面めがけて叩き込んでくる――と思いきや、それを半身で避けようとした僕の足を軽く蹴手繰(けたぐ)られた。仰向けに転んだ僕にさらに畳み掛けるように――というか畳み掛けてくる一人の小間。

 自身の中心線に据えた、体重の乗った肘鉄が、僕の右側の肋骨を砕いた。


「ごぉっ……あああぁっ!」


 ここまできてようやく僕はさっきの一撃目でさっさと切っておけば良かったなどと後悔したけど、そんなことを思ったせいなのか、僕に肘を入れた小間はさらにあろうことか自爆し――炎は出ず、圧力と爆風と破片だけだが――僕がすっぽり収まるぐらいの小さな、浅いクレーターを作った。苦痛を叫ぶよりも強く圧力がかかり、一瞬だけど僕の時間が失われたような感覚に襲われた。


「がっ……っは!」


 そんな風にボロボロになった僕の視界の隅の方で別の小間が、地に拳を打ちつける事で体に纏った電気を放した。それらは僕へと弧を描きながら確実に辿り着き、僕はそれで――ショックを受けて神経が刺激され、体が不自然に跳ね、結果不自然に起き上がった形で棒立ちになっていた。

 最後に、


「「「「とまあ殴るだけでもこういう風に布石を積み重ねていく事が大事なのよ――っと」」」」


 僕の顔面と後頭部と右脇腹と左の肺とを、四体の小間の拳による衝撃が突き抜けた。奇数番目に表現した部位が前から、偶数番目に言った箇所が後ろからの攻撃だった。

 頭部への深刻なダメージもさることながら、脇腹に貰った攻撃もスタミナを(いたずら)に消耗するし、呼吸器への被害がそれに拍車をかける。

 人体は弱点の集まりなんだだと、僕はこの時心底感じた。じっとしていればまた回復するんだろうけど、そんな暇を与えられなければという予想をするまでもなく、僕には本気で終わりが見えてきた。


 この間、三十秒も経っていない。現に朱夏は接近を許さない火炎放射で、掃射で持ちこたえているけど、それも後どれぐらい持つのかわからなかった。

 後からさらに小間は増え続けていた。既にかなりの無力感と――虚脱感が僕の身に降り懸かっていた。まだ戦えと言われれば十分に戦うことができるけど、その先に勝ちが見えてこないのだ。


 さて、

 そういうところで登場する人物と言えば、


「こんな所で戦っているとは思ってはいたが、まさか本当にそうだったとはな」


 麻倉打葉に華麗に登場された。

 もっと早く来いよ打葉……と、僕は倒れ伏しながら、そう思った。

今まで書いている作品では影響無いようにしていますが、ユーザネームを変更しちゃいました。やっちゃった。

名前は二十次 壱隠岐と書いて……まあ、そのまんまです。何となく感じがよければ(『……感じ、いいよな?』と自分で疑問に思う)いいんで。ええ、どうでもいいんで。


そんなどうでもいい話より、この話についてですが、何というかまあ、加筆が8、修正が2の割合で混ざった推敲の結果でこんな風に四千文字突破というかなんというか、だったら分割しろよと親切心の呵責もあるにはあるのですが、怠惰な心が作者の揺れ動く脳内を叱責したのでこのまま掲載。まあ全部バトルだったので案外さっくり読めたのかもしれませんが。


これからもHegiraまたは二十次を現実から切り離してくれますよう。

また明日。

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