謝罪ディクリミナライズ
免罪も筆一本で冤罪になる、とは誰も記録に残すことのない低次元の台詞だよね。
ちなみにどっちがどっちだかわからない人が意外といるらしいです。
朱夏の家の門前――から五分後。
「ごめんなさい」
「…………」
何故か僕に対しては無愛想な朱夏の母親(僕の父さんとは浮気してるんじゃないかって言うぐらいに親しげに話してる)に通されて、僕は朱夏の部屋で土下座していた。
土下寝をやるという手もあったんだけど、そんなにふざけてはいられない、ということぐらいは僕でもわかる。
「正直あの時僕が具体的にどんな事を言ったのか、よく思い出せないんだけど、音をあげるのが早かったとは思ってるよ」
十数秒ぐらいはあっただろうか、それぐらいの間を置いて朱夏は口を開けた。
「何で、そんな簡単に言うの」
ふてくされてるのか、その口調はどこか僕を責めるようだった。ただ、声は弱々しく、今にも泣きそうだった。
誰だろうね、こんな顔させてんの。
…………。
「今なら、謝って済む問題だから」
「……何よそれ。今日休んだ私が馬鹿みたいじゃない」
……まあ、聞かなかったことにして、
「そういえば聞いてなかったんだけど、僕は朱夏の特訓には必要なのか?」
「……必要だよ。絶対」
とてもそうは思えないけど、朱夏が言うのなら、それは本当なのだろう。
「だったら、僕はそれに協力するよ」
てっきり僕は、朱夏に必要とされてないんじゃないかと思っていた。だけど、朱夏がそう言ってくれる以上、僕は何も惜しまない。
「……もう少ししたら私がそっちにいってたのに」
「いやいや、窓から侵入は勘弁してほしい……」
心臓と体面に悪い。
それから十数分後。
他愛もない会話をしばらく続けた頃には朱夏の調子はいつもの話しやすいものに戻っていた。
「でもまさか自分の言った事を忘れてるとは思わなかったなー?」
「あ、いや大体は覚えてるよ? 要するに僕が協力しても無意味だ、って言いたかっただけでそうじゃなかったんなら僕の方にやらない理由はないかなーって」
慌てた僕の言い訳に朱夏は呆れた。
「私も何も考えずに行動したり、悪いところはあったからこれ以上は言わないけど、それならそれでやり方を決めないといけないね」
「それはこれから少しずつ考えればいいと思……う、けど……。あー」
思い出した。
「けど?」
僕はそのままの疑問系で訊ねた朱夏に、今日あった出来事を話した。
小間険静の事。
「――というわけで悠長なことを言ってられなくなった、っていうのも、昨日の今日で謝った理由の一つなんだけど」
「何でそれを私に言わないの!」
何かやる気と一緒に火花が散ったようなものが見えたけど、気にしたら負けだ。
「結局の所は強ければ問題ないんでしょ? だったら今すぐ行動あるのみ!」
確かにそうだけど。
「じゃあすぐに準備して! ほら家に帰った帰った!」
「わっ、っと押さないで押さないでこける! 転ぶ!」
そのまま、僕は背中をどつきまわされ追い出された。
朱夏の家と僕の家の間の道路を横断している最中、何も気にしていないような大きな声で朱夏は窓から叫んだ。
「こういう状況ならあのお店に行って刀でも何でも貰えるんじゃない!?」
「あー冗談冗談僕には銃刀法違反の単語は何も聞こえないご近所の皆さん気にしないで下さいねえ!」
意図せず僕は情報隠蔽に必死になった。
****
ここで、僕にとっての転機が訪れる。
何がきっかけと言うわけでもないのだけど、後になって思えば、ここでそうなるべくしてなったというのが一番自然な解釈だという気がする。
有り体に言えば、不自然な話の流れというやつなのかもしれない。
****
それは事故だったと言えるだろう。
家に帰った瞬間、例の如く片那が僕に飛びついてきた。
そこでまずかったのが、僕の対応だ。
昨日、封陣の練習をしていた成果が今になって現れた。
どう気合いを入れればそうなるのか、自分の領域を拡大するような意識を覚えた。
それは、とても小さく、僕の周囲二〜三メートルに留まるものだった。その現実から離れ、現実離れした白黒世界の中に、片那はいた。
そのときの色がどうだったのか、僕は不覚にも覚えていない。
「片那!?」
「…………!」
そして、僕はその事実に驚き、片那もまた驚いていた。
飛びついてくる勢いはそのままに――
ガツンッ! ゴァンッ!
片那の頭突きを受け、後ろに仰け反った僕はさらに、ドアに後頭部をぶつけ、本日二回目の気絶――――
****
「――――おにぃ、大丈夫?」
「……だから、僕はおまえの兄ではないと何度言ったらいいんだ?」
玄関で土足のまま、ただ足だけ宙に突き出された格好で寝ていた僕は、片那の呼びかけで目を覚ました。
体を起こして向き直る僕に片那はふわふわ語る。
「びっくりしたよー。いきなりおにぃがアレ出すんだもん」
「……っていうか、おまえって、」
「うん、色採とかその辺の事情は知ってるよ」
……唐突な事実を告げられて僕はなんにも言えない。
「でももう役目は終わっちゃったからどうでもいいんだけどね」
「……役目?」
そしてどうでもいいって……流れが急流過ぎる。
「そう、おにぃに力をあげるの」
「カ……」
「だから、カタカナのカは違うって」
「……あれ?」
またやっちまった。
「もう一回、封陣をやってみて」
片那は真剣そのものの表情で僕に指示した。僕はそれに従ってさっきのプチ封陣を展開してみた。
その風景に、片那はやはり居た。
纏う色は、鉄色だった。
「何か、気付いたことはない?」
「気付いた事って……」
「ぴょーん」
戸惑う僕にさっきの再現とばかりに飛びついてくる片那を僕は、両手で抱き留めることができた。
「で? 何がしたかったんだ?」
「おにぃ、わからないの……?」
えっと、何? なに? 何だ?
……え? 僕って鈍い? そんなこと言われても……照れねえ。
「じゃーんけーん」
ぽん、と片那が右手でチョキを出して、僕は左手でチョキを出した。
「あーいこーで――」
「ちょっとおにぃ、もう引っ張らなくていいでしょ……もしかしてわざとなのかなぁ?」
次はパーを出そうと思っていたのに止められた。
「じゃあ、これ。握手しよ?」
「あ、ああ……」
そう言って、右手を差し出してくる片那。僕はそれに応じ、る……。
あ……。
「もしかして……そういうこと?」
「そゆことー……」
とある神話の偉大そうな名前の神の正体がどうしようもない浮気夫だということを知ったかのような残念さで嘆かれた。
そしてアニメ版ビックリマンのあいつの設定がいかに滅茶苦茶でなかった事を知った僕。
「その右手はただの右手だけど、『戻った機能』はそれだけじゃないんだよ」
「……いや、わかった。あとは自分で大丈夫」
封陣の中で動く右腕を確かめてから、僕は封陣を解いた。
「ところでそれが役目だって言うなら、何で役目の終わったおまえはまだ存在してるんだ?」
それこそ『僕の右腕』ならそうなるんじゃないのか?
「んー、ご都合主義?」
「そんな理由なら消えてしまえ」
この世界はそんな主義がまかり通っているのか。
かといって下手に消えて僕の精神に入り込まれても嫌だな……。
「でも全く力は無いから中途半端に危ないかも」
「うーん……」
よかったのか、悪かったのか。
「さあおにぃ、もう決定的な欠点は無くなったから思う存分切っていいよ」
僕はこうして何のきっかけもなく、力を得た。
正確には戻っただけだから、これはむしろ順当だと言っていいだろう。
生来の天賦の才。誰にも文句は言わせない。
殺刃師。
「うん。後はフル活用するだけだ」
さて、得るとしたら、あの刀だ。
鉄色っつーのはもう少しテツテツした感じのものだと思っていましたが本当にテツテツした感じのものですね。
なんというか、緑?
~没ネタ~
トウナは レベルが あがった!
ちからが 0ポイント あがった!
すばやさが 3ポイント あがった!
たいりょくが 2ポイント さがった!
かしこさが 0.000000001ポイント あがった!
うんのよさが 0.1 かけられた!
さいだいHPが 30 あがった!
さいだいMPが 50 あがった!
ツッコミ所満載の上にこれを一人称でやると必要以上に台詞が増えそうだったので。