襲撃ディストラクション
まあ現代社会で怖いのはむしろリストラクションでしょうけど。
その日、結局僕は家に帰り(片那の迫撃をかわし追撃をかわして)晩御飯食って部屋に戻った。
「いやあ、どうしよう……」
踏ん切りはついたものの、多分向かいの家にいるんだけど、
「昨日の今日で、行きづらい、い、いいいいぃぃぃ……」
ガキ臭いのは重々承知だったけど、どうにも行動には出られなかった。
あー、うん。双六で一回休みのマスに止まったと思えばいいか……って、うわぁ。
「ダサいな僕……」
ヘタレの謗りを免れない。
まあ、意思表明じゃないけどちょっと練習してみるか……
「……封陣」
分身の術はオレの一番苦手な……ゴホン、封陣は僕の大の苦手になっていた。一向に上手くなる気配がない。どうやればあんな暗黒ドームができるんだ。教えてくれよ打葉。
「……はあ」
まあそんな訳で今回も失敗。どうしてもあの『白黒』が出てこない。試行錯誤の繰り返し……いや、むしろ無謀錯誤か。
「……寝よ」
布団に入ったあと、コンマ数秒で僕は眠った。
実際はもっとかかっていたんだろうけど。
****
次の日。
土曜日。
熱心なことにこの学校は土曜日も授業をやっていたりする。昼で帰れるけど。
「ちょん、ちょん、ちょん(出席をとる音らしい)、っと……? おお珍しい。獅子島さん休み? はい先生、ボクの所に連絡がありました――って自分やないかーい!」
普通に出欠確認ぐらいしろよ。
担任と生徒達の温度差を実感しながら僕は前の席を見つめる。
空席。
今日、獅子島朱夏は欠席してます。
理由、僕にわかる訳ないでしょう。
弊害、僕が先生によく当てられる。
理由、前が空席で目立ってしまう。
何となく、いつもよりつまらない気がした。
****
そんな日の午後、ついに来た。
封陣――と思った時には、メシッ、と天井が潰れかけていた。
「!」
「!?」
何かが教室中に降り注いだ。
ズドドドゴガガガガバキガガガガガッ、ドガッシャァアアアアアン!
それらは教室の天井や窓ガラスを突き破って入り、壁や床を突き破って出た。封陣の中の教室は、何か巨大昆虫の巣穴の様に穴だらけになった。僕はその中を転けつ転びつ逃げ惑い、なんとか生き残ることができた。尻餅を突いた姿勢から起き上がり、大声で呼びかける。
「打葉先生無事ですかー!?」
「ああ、同級生に先生と言われるのはあまり、気持ちのいいものでは、ないな」
入り口近くで瓦礫を下から押し退けながら打葉はむくりと立ち上がった。
軽口を叩いてはいるが、打葉らしくもなく、一発貰ってしまったらしい。見た目にはひどい怪我がないのは例によってアレだろう、『人外の存在』はどうたらこうたら~、以上の理由により鉄筋コンクリートなど比ではない強度が~、とかそんな十把一絡げの説明が出てくるんだろう、きっと。
「打葉らしくないな……むしろ僕が喰らってそうな感じだけど」
「『運が悪い』ぐらいの設定はあっても、いいだろう」
……そんなありきたりな。
「それはともかく完全に視界の外だったからな。しょうがないな」
「……?」
視界の、外?
打葉にしては妙な表現だった。
「いや、そんなこと言っても野暮なだけだな」
「そんじゃあ野暮ついでに俺の用事に付き合っちゃあくんないかねえ?」
いつからいたのか、例外無く割れていた窓の近くに和装(僕は紋付き袴というのがどんなファッションなのか想像できないからそれ以上の情報は知らない)の上にコートを羽織った酔狂な……おっさんがいた。まあ正確にはダンディっぽいし、おじさんと呼んでもいいんだけどおっさんと呼ぶのが僕の感性ではしっくりくる雰囲気だ。
色は、暗褐色だった。
「おっと、おっさんの自己紹介がまだだな……そうだなぁ、小間険静。それが俺の名前だ」
たった今思い付いたように、自称おっさん・小間は手をほぐすようにグーとパーを交互にぶつけ合う事を繰り返しながら言った。
「俺は……まあ、そうだなぁ、結局何だかんだと言って人材発掘のような事をやってんのよ」
ところでというかついでというか、僕はその衝撃的な格好に何も言えないでいた。
……ゴメン。確認しておくけど、僕は取り返しのつく場面ではふざけるよ?
代わりに打葉が会話してくれるから、それで勘弁と堪忍して。
「その言動とこの行動の関係を考えると、順当に考えれば狙いは俺達――正確には『そっち』と関わりのある存在――って事になるな」
「おっ、少年聡い事言うねぇ。そういうのは俺、嫌いじゃないよ?」
「順当に考えないなら、お前の性癖とかもっと別の存在を探している等、可能性は多岐にわたる訳だが」
「酷い事言うねぇ。おっさん悲しいなぁ」
「で、結局どうなんだ?」
「あ~、こっちは組織で動いているからそれに従えるなら大概誰でも良いんだよねぇ。こんなおっさんに回ってくる任務だし。あーあ、やんなるねぇ」
「成程。おっさんは暗躍する懐刀という訳だな」
「……ホントに聡いねぇ。おっさん敬服するわ」
「三下の振りをするなら言葉遣いは規律を守るように堅苦しく、もしくは偉ぶった口調にしておかないといけないのがセオリーだからな」
それはセオリーなのか?
「アイタタ……言葉遣いは自由なんだけどねぇ、ウチの組織は。まあ下っ端は畏まってたっけかな」
「そして、こうして話しかけてくる時点で、こちらに何らかの更なる行動を仕掛ける気が満々である、というのも外れてはいないだろうなと考えるんだが」
「そうそう、『俺に殺されない』っていうのがシンプルな最低条件なのよ。と言うわけでそろそろお試しさせて貰うわ」
すっ、と小間が掌をこちらに向ける。と同時に「四手!」という打葉の警告が聞こえ、僕は会話の流れについていけないなりにも反応してしゃがみ、拳から放たれた『何か』を避けた。
それは空中を通り過ぎ、後ろで壁を破壊して、心臓に悪い音を響かせた。
「へぇ。避けるということは、経験が浅いか遠距離は苦手かのどちらか、と……」
「成程、色採には遠距離と近距離みたいなタイプ分けも存在する、と」
「……マジで抜け目ないねぇ、君……いやこれ誉めてんだけどね。ああ、それと別にそういうタイプ分けはしない方がいいよ。哺乳類爬虫類魚類鳥類両生類ぐらいの正確さしかないからねぇ」
あ、その話なら僕もわかる。所詮人間の作った分類だから、例えばカモノハシみたいに奇妙な、例外に近い存在が出てくるんだっけか。
「さてそういう君はどうなのかねぇ、っとな」
軽薄そうな言動そのままに今度は猛烈な加速度で打葉に攻め込んだ。
「ふむ」
打葉は数瞬考え、何かを決めたように頷くと、
「〝息吹〟、だな」
なんかいつの間にか技を会得してた。
まあはっきり言えばこの物語の作者というものは苦手分野が多すぎるので当然心情描写もそこに含まれていて、なんだか自分でもよくわからないことになっていますが、作者的には戦闘描写が出来ればこの物語は万々歳ですのでそこら辺は余り気にしないで行こうかなとか開き直った態度で臨もうとしているのが現状だったりします。まあその辺の主義主張はころころと変わっていると自負する作者の言うことですので気にしないで貰えれば幸いです。