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灰色のバックソード  作者: Hegira
第二人
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厠スモーク

「あーあ、来ちまったか、四手」


 と、打葉は言った。

 このとき僕はそれこそ、そんじょそこらの雑多な人物のように普段との落差に唖然として、い前として、う前としてえ前としてお前としていた。

 というのをまあ、後ろの正面は全く気にしないわけで、


「やっぱりね……雰囲気がおかしかったのよ」


 被害者のことを全く意に介さずに(どうやらこいつらの評判は朱夏の中でも良くなかったらしい)語りかけた。

 しかし、勘でわかるもんなのか。色採って。僕には全然、それこそ前々からわからなかったぞ。


「ん、獅子島、か。同じクラスの」


 打葉は今更のように朱夏のことを確認した。

 実際この二人に交流の余地などクラスメートであることぐらいしかなかったのだから、実質これが初の会話と言っていいだろう。

 まあ、朱夏と普通のクラスメート以上に交流があった人っていうのも、僕ぐらいなんだけど。

 朱夏は矢面に立つように、傍観者でしかないような僕の前に回り、そのままこう言った。


「そこで止めないなら、私がおまえを止める」


 やっぱり、暴力は許さないらしい。

 ……だけど暴力に対して暴力、というのは後で何かとツケが回ってくるものだが、朱夏はそれに気づいているのだろうか。

 それとも、その為の正義、なのか。

 ……よく言われるけど、正義は必ず勝つ。

 たとえ正義ってやつが今ぶちのめされても、次、またその次、そのまた次と時を重ねていつかは悪を滅ぼす(ここで悪の残滓が生き残るというのが続編パターン)。

 逆に言えば、正義は滅びない。連綿と続きが終わらない。

 まあ、それは物語の話だけど、ともかく。

 そういう意味で、正義は何度でもやり直し、繰り返すことで、確率的に極限まで勝ちの目を持っている。

 正義なら、官軍なら。

 後に勝ち誇る歴史を綴り、後進に尊ばれるような偉業として語り継がれる未来が待っている。

 それは、未来の世界がその正義の下に成り立っているから、正義を認めることを厭わないからだ。

 ……退屈でうっとおしい話かもしれないけど、これが高校二年生の僕なりの考え、僕の成分なので、カットはできない。

 続き。

 さて、ここで裏というか、陰を見ると、正義は敗者・賊軍・自分とは異なる正義に対しては容赦しない。勿論悪に対しても、だ。

 まあ、敗者の中にはヒーローではなくとも、スターの扱いを受けるものも、少なくはないから、ここで具体的に敗者として、スターでない名前を挙げるとすると、『あの人はそんなんじゃないんだ』といった異論が必ず出るだろうから、時代の遠さとかを考えて惨めに負けた敗者を敢えて挙げるとすれば、蘇我入鹿ってところだ。

 権力を誇り、山背大兄王を殺したとかをほとんど無関係の(また完全に無関係ではないにせよ)日本の子々孫々にねちねち言われ、仕舞には大化の改新と、小の欠けた中大兄皇子、生ゴミの塊とセットで覚えられるんだから惨めこの上ない。僕の高校の食堂のセットメニューでもこんなに酷いのは無い。

 正義ってつまり、こいつらを量産するんだよな……僕も含めて。

 そう考えると、朱夏の道徳的な正義ってのは皆から見て正しいと言わざるを得ない一方で、敵を無闇に造り上げていく行為でもあるのかもしれない。

 まあ、僕の場合もう既に自分の正義を探す、とかは手遅れなんだけど。

 改まって言うけど、僕はもう思想を改められません。

 根本は絶対に引っこ抜けません。毛根も抜けません。

 ……むりやりボケを入れたからと言ってどうなるというものでもないか。

 と、

 ここまで他人の正義を考えてきてみたけど、結局は僕の正義は全く変わらないのかなあと、思うところに留まるだけだったみたいだ。

 そもそも大体、この手の問題は既に誰かが掘り尽くしたというか掘り返してもあまり嬉しくない、いわゆる現代における炭坑みたいなものだ。……もし炭坑の喩えが違うというなら、日本をそれで潤わせて見せて頂戴、っと。

 だから、大方僕の考えを述べたところでこの話は終わりにしようと思う。


「ここで止める? それもいいけどな、」


 と、明らかに反対のことを言わんとする打葉だったが、


「なら止めて」


 朱夏はなおその言葉に被せた。

 なんというか、それは強制じゃないかと思わなくもないけど、これは打葉の方が明らかに悪いだろう。

 たとえ、こいつらが仕返しをされても仕方なかったとしても、この状況が良いと言う奴はいないだろう。

 そこで爽快感を得るような人間とは、僕は友達になりたくない。

 つまり、打葉はこの状況を進んで受け入れているわけでは、ない。と思う。


「向こうが止めてくれねーから、遂に俺はこうするしかねえ」

「……!」

「何だっ!?」


 打葉は、まるで平生と変わらない語調とは裏腹に、ポケットに手を突っ込むまでもなく、手のひらにあった物を、


「人体に優しい、煙玉(けむりだま)だ」


 手首のスナップだけで壁に叩きつけて、僕らを比喩ではなく煙に巻いた。

 ……どうして高校生の持ち物にそんなもんがあるんだ。


「そんじゃな」


 そう言って、僕の横、朱夏の横を特に何と言うこともなく、駆け抜けていった。


人体に優しくない煙玉は……毒けむり玉ですね。

あ、これハンターには何の被害もなかった……。

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