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Story8.そして運命の紡ぎの誘う夜へ

 どうやら大路君は、私のことが好き……らしい、です。


 何がどうしてそうなったのかはわからないけれど、彼に好かれて悪い気がしないのも、彼を見るとどきどきしてしまうのも……残念ながら、事実で。



「おはよう、大路くん!」

「一樹おはよー!」

「ん、おはよ」



 クリーム色の髪を揺らし、優しい色の滲む瞳を細めて、



「姫野、おはよ」



 ふわりと微笑む彼が……美しいとか、かっこいいとか思ってしまうのもまた……悔しいけれど、事実。



「おはようございます、大路君」



 そんな考えを悟られないように、ツンと刺をつけて言葉を返す。


 大路君は先日の告白などまるでなかったかのように、全く態度が変わらない。


 きっと、だからなのだと思います。



(……大路君は、)



 彼は強引なところがあるけれど、嘘をついたり、人を選んで態度を変えたりはしない。


 だから多分、私は、



(どきどき……)



 不本意ながら、どきどきしてしまうのでしょう。



(悔しいです)



 頬杖をつく横顔に目を向けていると、不意に彼はこちらを向く。


 そらすのがワンテンポ遅れてしまった目線はブラウンのそれと交じりあって、



「……なに?」



 大路君は、ふっと小さく笑って、まるで包み込むかのように言葉を繋いだ。


 そうしたら、ほら。また、私の心臓は高鳴りだす。



「……別に、」

「そんな物欲しそうな顔して、抱かれたいの?」

「はい?」



 ……嗚呼、やっぱり……どきどきするのは気のせいですね。


 そして大路君は最低です。



「寝言は寝て言いやがれです」

「はいはい」



 罵ってやったのに彼はただ楽しげにくつくつと笑って、本当に、机に顔を伏せて居眠りを始める。


 もうすぐ、1時限目の授業が始まるというのに。



(……私には関係ありません。知らんぷり知らんぷり)




 ***




 知らんぷり……してやろうと思っていたのですが、



「大路君、次は移動教室ですよ」



 悲しきかな。

 なぜか、置いて行くという選択ができませんでした。



(お隣のよしみです)



 そう。隣の席だから、ただそれだけ。

 深い意味はありません。



「大路君、起きてください」



 他のクラスメートは全員すでに移動していて、教室には、二人きり。


 彼の大きな体を揺さぶってみるものの、なかなか起きやがりません。



「大路君」

「……ん……」



 やっと重そうにまぶたが持ち上がり、まだ半分夢の中にいるのか、まどろみを残した瞳は宙を見つめる。


 ゆっくりと移動したそれに私が映ると、



「……姫野」



 かすれた声で、囁くように名前を呼んだ。



「大路君」



 その言葉に応えて、彼の名前をぽつりと呟けば、



「……白雪、」



 言い直すように声を重ねて、のっそりと体を起こす。


 小さなあくびを一つしてから、



「こういうのは普通、キスで起こすものだろ」



 意地悪そうに、目の前のオオカミはニヤリと笑った。



「キスで起こされるのはお姫様だけです」



 残念ながらおとぎ話には、あなたのようにガタイのいいお姫様はいません。


 そういう嫌味を込めてやったのに、



「それ、誘ってんの?」



 オオカミには効かないらしい。


 右腕を引っ張られて体が前に倒れると、否定を吐き出そうとした口を塞がれる。



「んんっ!」



 片手で腰を抱かれて、体は逃げることができない。


 大路君は、固く閉じた私の唇を舐め、



「白雪……口開けて。舌、出して」



 催眠術のように……甘く、低く、囁いた。



「はっ、あ、やっ……!」

「ほら、出せ」

「……っ、」



 表情が崩れるだとか、本音が口に出そうだとか、そんなものは考えられなくなる。


 恐る恐る少しだけ口を開くと、



「……いい子」



 くすりと笑って、大路君の舌が口内に侵入した。



「んんっ、は……っ、」



 ちゅっとリップ音を立てて唇が離れると、銀色がその間に糸を引く。


 酸素を取り込もうとする私を、ブラウンの相眸が少し下から見上げた。



「顔、真っ赤」

「そっ、れは、」

「すっげぇ可愛い」

「なっ……!」



 熱くなった私の頬に、そっと大路君の大きな片手が触れる。


 その熱を確かめるように指の腹でなぞり、綺麗な唇を赤い舌で舐めた。


 舌なめずりすらも、彼がするとひどく色っぽい。



「今すぐ、食べてやりたい」

「……さっ、最低、です……!」



 ぱしりと手を振り払い、まだ熱のこもる口を片手でおおう。



「最低でいいよ」



 そんな私を、大路君は愛しそうに見つめて、



「お前のことが好きなんだから、食べたいって思うのは仕方ねーもん」



 なんてことを言う。



「……意味がわかりません」

「つまりは、」



 引き出しから教科書や筆箱を取り出して立ち上がると、私の頭を撫でてきた。


 放った言葉は、



「お前も、さっさと俺を好きになればいいのになってこと」



 爆弾を一つ置いて、大路君はすたすたと教室から出ていく。


 フリーズする私の背を押すように、始業のチャイムが鳴り響いた。



(このっ、俺様め……!)



 そして――……時間は動き出す。

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