第十六話 始まり
「お、セルムレイトが見えてきたぞ」
それで良いのかとツッコミたくなるような取得方法で『危険察知』のスキルを手に入れてからしばらく経ち、漸くアルゲート伯爵領領都のセルムレイトに辿り着いた。
《漸くあのメイドさんもお仕事を終えられるっスね》
「あ、やっぱり気付いてた?」
俺の後方のある一点を見つめていたクロの呟きを拾った俺は、腕の中にいるクロにそう言った。
《いや、オレも一応Cランクに分類されている魔獣っスよ?》
「そういやそうだったな」
《忘れてたっスか!?》
《・・・お前等、人の上で喧しい!》
《「いや、アンタはロバじゃん」ないっスか》
《そういう事を言っているんじゃない!》
俺とクロの態度にロウキーは溜息を吐いたのだった。
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エリシアとクロが見ていた森で赤い馬に乗った一人の女性が荒い息を吐いていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。やっと追いつきましたよ、お嬢様」
女性の名はフェーレ。アルゲート伯爵家に仕える隠密メイドである。
「お疲れ様、リータ。あと少しで終わりよ」
《ヒヒーン!》
フェーレは自分が乗っている使い魔、ブラッドホースのリータの首元を撫でながら労った。
と、その時。フェーレは森の奥の方を見た。
「・・・ん?何か森の奥に何かが居る気が・・・。まぁ気のせいでしょうし、早くお嬢様を追わないと」
フェーレは森の奥から視線を逸らすとエリシアを追いかけて、セルムレイトへと向かって行った。
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「・・・こっちを見てた?・・・・・・ううん、気のせいだよね・・・。けど、どっちにしても、ここから離れないと・・・」
森の奥に潜んでいた影はそう呟いた。
「・・・い、・・・・・・ちだ!は・・・く・・・ろ!」
「っ!?もう追いついてきたの!?早く逃げないと・・・っ!」
潜んでいた影・・・金髪の少女は慌てて更に森の奥へと向かって走って逃げて行った。
セルムレイトの近くの森で密かに起こった小さなすれ違い。これが後世に残る事件の始まりとは、誰も知る由も無かった。




