作戦会議室の中心で、弟への愛を叫ぶ(注:このお話は百合です)
お久し振りです。
今回も短いです。
百合っぽくなりましたが、ブラコンに負けてます。
秘密の通路を抜け、ミズチと共に作戦室へと足早に向かう。
本当はダストシュートとかロッカーをシャーッと降りると作戦会議室に到着とか、なんかそういう仕様にしたかった。
でもやろうとしたら「何ですか、それ」って言われちゃって、わざわざそこから滑り降りる意味とか真顔で説明させられそうになって止めたのよね。
前世で見たアニメの真似をしたかっただけだから、冷静になったら急に恥ずかしくなってしまったのは致し方なし。
私はあの空気の中、我を通せるほど大物ではないのだ。
「みんな、揃ってるかしら」
扉を開けると同時に私は中の人員を見渡す。
毎回、桜仁側のメンバーの出席率がほぼ百パーなのが気になる。こちらのメンバーは適度にお休みしていると言うのに。
いい子なのは知ってるけど、みんな女の子なんだからそんなに荒事に首を突っ込まなくていいのよ?
「ユリさんおはよー! 今日もアタシ頑張るから、早く一緒に戦いにいこ、ふぎゅっ!?」
「おやおや、そんなご主人様のお出迎えをする飼い犬みたいに青いお尻を振って。少し躾が必要ですか?」
「ぐむむ、オバサンがアタシとユリさんのスキンシップを邪魔しないでよー!」
「ヨウちゃん、ミズチ、じゃれ合いは止めなさいって」
私に飛びつこうとしたヨウちゃんをミズチがその可愛らしいでこっぱちを押さえて止める。海千山千のミズチをふしゃーっと威嚇する女子高生はとても可愛らしい。
うん、でもヨウちゃん。ミズチを「オバサン」呼ばわりは私にダメージ来るので止めてください。
三十前半はまだ若いよ!
「くぅちゃん」
「あ、さぁちゃん」
そっと音もなく同じ学部の天勝さそりが私の腕に寄り添う。
流石忍び寄る死の異名を持つ蠍を元にした娘。腕を組まれるまで全く気配が分からなかった。
「って、あー! サソリさん抜け駆け!」
「流石お嬢。目を離すとすぐに女性をたらし込みますね」
「待って、ミズチ。誤解が生じているわ」
「よぅちゃん。早いもの勝ち、だよ」
「さぁちゃん。混乱を更に広げないで」
私が女性陣と良く分からない争いをしている間に、桜仁が男性陣に指示をしてさくさくとディーフォームズ対策会議を進めている。我が弟ながら優秀で惚れ惚れするわ。
え、ああ、うん。大丈夫。ちゃんと聞いてるから。ここで女性陣宥めてないとなんか面倒なこと起こるのよ。
桜ちゃん、本来あなたの部下なんだから何とかしてちょうだいよ、マジで。
「え、姉さんも女の子なんだから。女性陣をまとめるのは姉さんの役目でしょ?」
「そうっすよ、お嬢。俺らの直属の上司はお嬢じゃなくて坊ちゃんですよ」
え、何それ初耳。
愛らしい弟と原作部下の突然の裏切りにショックを受けながら、粛々と対策会議は始まったのだった。
「えー、では。
今回のディーフォームズですが、タイプは世界型。モチーフは『アリス』のようですね。
こちらが、偵察部隊が撮って来た映像になります。情報をまとめた資料と一緒に視聴してください」
偵察部隊を取り仕切る『マリオネットモンキー』猿渡絡繰がプロジェクターに撮影してきた映像を映しながら説明する。
映像には闇で出来たような真っ黒な城が映し出されていた。青い蔓薔薇が黒い城壁を覆っている。
薄っぺらな体を持った赤黒い兵士が時折城から顔を出した。モチーフが『アリス』なら、あれはトランプ兵だろう。
「必要戦力は」
「脅威はBランク程度。六人もいれば充分でしょう」
カラクリの答えに私は考える。今回の脅威は四段階中、下から二番目。
私は当然出動するとして、残りは誰にするか。
世界観型のディーフォームズは核となる物語が存在する。
今回はルイス・キャロルの『アリス』シリーズがモチーフとのこと。
キャラクターの多い物語は往々にして、敵の数も増えていく。
となると多数を相手取るのが得意な人にすべきだけれど。
「ユリさん、ユリさん! アタシ、アタシ行きたい!」
「ヨウちゃん?」
テーブルに肘をつき、組んだ指の上に顎を置く格好で考えていた私へヨウちゃんが元気に手を上げてアピールする。
名前を呼ぶと、ヨウちゃんは拳をぐっと握り「がんばるよ!」アピールをしてきた。
ヨウちゃんの行動は裏表が感じられなくて、嫌みもないから非常に可愛い。
ヨウちゃんは『炎拳』の名前の通り、炎と拳を使った攻撃を得手とする。一対一の接近戦が一番の得意ではあるが、炎による豪快な攻撃も行えるので多人数戦が出来ないわけではない。
いいかもしれない。
「そうね。じゃあ、一人はヨウちゃんにしましょうか」
「やったー!」
大きく万歳をするヨウちゃんはとても可愛い。
そんなに喜ぶような仕事でもない気がするんだけどね。
「くぅちゃん」
「ん?」
いつもはひっそり会議を聞いているサソリが静かに挙手をする。
漆黒の瞳はやる気に満ち満ちていた。
「わたしも、出たい」
「さぁちゃんも?」
ふむ。
彼女は『冥杖のスコルピウス』、闇の広範囲攻撃を得意とする固定砲台のような戦いを得意とする。
今回のディーフォームズとの相性は良い。
「じゃあ、こちらは私とヨウちゃん、サソリにしましょう。
桜ちゃんはどうする?」
女性陣は他に主張もないので男性陣に話を振る。
出撃は必ず男女同数で行うようにしている。男性だけ、女性だけを魅了するようなディーフォームズが現れた時の為の対策だ。
「ああ、そうだね……じゃあ、僕と誰にしようか」
桜仁が呟いて、男性陣を見渡す。
え、ちょっと待って。
「桜ちゃんが出るの?」
「もちろん」
問うと、桜仁はおっとりと首を縦に振る。
「姉さんが出るんなら、僕も出るよ」
いつもは余り変わらない表情が、微笑に変わる。
「姉さんが僕を大切にしてくれるように、僕だって姉さんを守りたいから」
「桜、ちゃん」
少し頬を染めた恥ずかしそうな表情。
う……
うう……
うぅ、ウチの桜ちゃんは世界一のいい男だぁぁあああああ!
ちょっと、みなさん!
桜ちゃんがデレましたよ、桜ちゃんがッ!!
ああ、もうこんなのいつぶりだろう! 中学校一年生の春に成長痛で痛がる桜ちゃんを添い寝しながらナデナデした時以来じゃないかなっ!?
ちょ、もう! 桜ちゃん、もう!
「桜ちゃん、愛してる」
「ありがとう、姉さん」
何とかかんとか、萌えによりショートした頭が口から発させたのは、弟への愛だった。
なんかミズチとかから、歯ぎしりが聞こえた気がするけど気のせいにしとこう。
あ、ちなみに野郎の同行者は、野郎だけで決めてました。
紹介? それはおいおいで良いよね? 野郎だし。
「お嬢、それは酷いっす」
「男女差別ー横暴だー」
私はなぁんも聞こえませーん。
なんて、やりとりをしつつ。
とにもかくにも、いざ出陣だ。
お読み頂きありがとうございました。