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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動四
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魔法少女とお叱り

 彼に敵意がないということは出会ってすぐに分かった。そんなものがあれば出会い頭に俺をボコボコにすれば済む話だ。さっきの運動部員たちみたいに。

 俺に用があるということだったので、とにかくあの場から離れることにした。先輩たちに明と出会ったことを伝えるべきかとも思ったが、話がこじれるかもと考えたし何よりまだ女子の集団に絡まれている最中だったろう。

 というわけで近場にあった小さな公園に二人で赴いた。

 ベンチに腰掛けた明に差し出したのは、コンビニで買ったハンバーガーである。


「……何だこれは?」

「ハンバーガー」

「何のつもりだ」

「助けてくれた礼だよ」


 怪訝な表情をしてはいたが、俺の手からハンバーガーを取ると包装を剥がし、がぶりと齧りついた。カイザーバーガーのものよりランクは落ちるが、大事なのはお礼の気持だろう。

 ベンチの傍に立ったまま、彼を観察していた。流石に隣に座るほど警戒心を解いたわけではない。

 彼は聖のユニコーンの力を奪おうとしていた相手である。嘘か真か、黒十字を潰すという目的を掲げてはいたが、俺の中では未だ敵として認識している。


「それで俺に用ってのは何なんだ」


 なのでいくら相手に敵意がないとはいえ、長く一緒にいるつもりはない。

 彼がハンバーガーを食べ終わったのを見計らって、早速本題に切り込んだ。


「……」


 彼は手にしていた包装紙をクシャクシャと丸めると、それを少し離れた位置にあるゴミ箱に投げ入れた。

 悪の組織にいた奴がゴミをちゃんとゴミ箱に!?

 俺が驚いたのはそこだった。だって意外じゃないか。


「……」


 俺は彼が口を開くのを待った。中々喋らないのは、まさか人見知りというわけでもないだろう。


「……なあ」


 溜め息混じりに言葉を促そうとしたところ、ようやく明が話し始めた。


「お前がエストルガーの力を引き出したのは本当か?」


 何故こいつがそのことを訊ねてくるのか、すぐにピンときた。同時に警戒心を強めて身構えた。


「力を貸すつもりはないぞ。聖と戦うために力が欲しいんだろうけど、大人しく協力するわけがないだろ」


 こいつが俺たちに語った目的は黒十字を潰すことだが、そのために聖の持つユニコーンデバイスの力を奪おうとしていた。己の持つタウラスデバイスの力と合わせることで最強の戦士になれるらしい。

 そのことを知ってる俺が素直に力を貸すと、本当にこいつは思ったのだろうか。いや口で言うことを聞かせられないのなら力づくで、ということかもしれない。

 聖たちに言っておけば良かったと後悔してきた。


「俺とあいつが戦うのは避けられぬ宿命だ」


 それを聞いては尚更力を貸すことはできない。


「だがあいつの力にはもう執着はしていない」

「……え?」

「黒十字は終わった。最早首領クロスクロイツが逃げのびているだけだ」


 終わった、っていうのは、こいつの望みである壊滅が叶ったってことなのか。


「お前がやったのか?」

「俺がアジトに赴いた時には既に三幹部は死に、クロスクロイツは姿を消していた。残ったアジトも爆破され、今は地の底だ」

「生きているのは首領だけなのか?」


 明は首を縦に振った。

 どうやら昨日、マジカルシェイクで話していたことは正しかったようだ。どういうわけか三幹部はアジトで死に、その残滓が音無先輩と戦い撃退された。

 生き残ったクロスクロイツも姿を消したというが、それを聞いても釈然としない部分があった。


「黒十字結社の末路は分かった。けどクロスクロイツが生きている以上、黒十字が真に潰れたとは言えないだろ? お前の目的である黒十字の壊滅は達成されていないはず……なのに、目的達成のためにあれだけ欲していた聖の力に執着していないっていうのは、納得できない」

「…………力より心」

「え?」


 俺の質問に対する解答かと思ったが、それにしては要領を得ない。普通に考えたら、エストルガーの力より、その心を得るということか。心っていうのは、つまり聖のハートを……奪う!?


「お前、何考えてんだ?」


 俺は引いた。あいつの心を奪うということは即ち男のことを虜にするということであって……いや、けどあいつは今は女なんだし、それなら至極真っ当な行為なのだろうか。

 だがしかし。と、考えを巡らす俺をよそに明はベンチから腰を上げた。


「また会いに来る。その時は俺の力を解放してもらうぞ」

「す、するかどうかは分かんねえぞ!」

「するさ。お前たちには俺の力が必要となる」


 踵を返し、背を向けたところで後ろから走って近付いてくる足音と、名前を呼ぶ声がして振り返った。


「うわ、草太くんもいた!」

「先輩? それに」


 それは音無先輩の声、そして彼女より速く俺のところへ駆けつけてきたのは、金髪をなびかせたクラスメイトの一野聖。


「明! ……もういないか」


 俺が最後に明の背を見た方向に目をやれば、その姿はすでに消えていた。


「もうびっくりしたよ。草太くんはいなくなるし、聖くんは何かを感じて飛び出しちゃうし」


 後からやって来た先輩が状況を説明してくれた。


「相沢くん! 一人であいつと会うなんて何を考えてるんだい!」

「明が近くにいたのが分かったのか?」

「デバイスが反応するのを感じたからね! それより……!」

「分かってる! 言いたいことは分かってるから落ち着けよ」


 鼻先が触れ合うくらい顔を近付けて怒る聖からゆっくりと後退って宥めようとする。お前が歩み寄ってきたら俺が後ろに引く意味がないじゃないかと、両手を伸ばしてその接近を食い止めた。


「確かに一人で会ったのは軽率だったと思うよ。けどあいつは俺を……俺に話があるってだけで、全然危害を加える気配はなかったんだよ」


 俺を助けたと口が滑りそうになったのを堪え、話があるという事情だけを説明した。助けたなんて告げたら、一体何から助けたのかの説明をしなくちゃいけないと思ったからだ。あんな下らないことでこいつや先輩に心配を掛けるわけにはいかない。


「話っていうのは?」


 未だに非難の表情を浮かべる聖に代わって、音無先輩が話を促してくる。普段四之宮先輩にフォローされてばっかりの先輩がフォローに回ってくれてるのが少し新鮮に感じた。


「俺の力で、明の能力を完全に解放してくれって頼まれたんですよ。聖もそうだったように、あいつもタウラスデバイスの力を完全にモノにはしてないですから」

「それで了解したのかい!?」

「するわけないだろう! 勿論断ったさ。そしたらすんなり引いてくれたよ」


 そう言ったところでようやく聖が顔を引いてくれた。怒った顔を近付けられていると落ち着かなかったので、離れてくれてホッとした。


「けどあいつが君に目を付けたなら、今後も接触してくるかもしれない。次は力づくで君の唇を奪うとも限らない」


 ちょっと想像してしまった。それは勘弁してもらいたい。


「けどさあ。力づくでやるんならもうやってるんじゃないかなぁ? 聖くんと同等の力を持ってるなら、草太くんくらい簡単に組み伏せられるしさ」


 音無先輩がそう言うので地面に押し倒されて無理矢理……なシーンを想像してしまった。やめてください背筋がゾワゾワします。


「それはそうかもしれませんが……先輩は明のことを庇っているんですか!?」


 聖が先輩にも食ってかかった。明と戦い続けてきた関係だからか、明のこととなると頭に血が上りやすいようだ。


「そんなつもりはないよ。けどあたしはその明くんのことは知らないから、感じたことを素直に言っただけ」


 明と敵対していたのは聖だけである。だからこそ、客観的な観点から見た先輩の印象の中には、明に対する悪印象というものがあまり感じられない。

 実のところ、俺も聖が敵対していたという事実を抜きにすれば、その事実を知らなかったとしたら、そこまで悪い奴じゃないのではないかと感じ始めていた。ゴミもゴミ箱に捨てていたし。

 しかし、やはり長年敵として、好敵手として接してきた聖にとっては納得しがたいことに違いない。難しい表情をしていた。


「……とにかく、これ以上君と彼が接触するのは好ましくない」

「その意見には俺も賛成するが」


 俺はちらりと先輩の顔を見た。意見を求められていることに気付き、その考えを述べてくれた。


「ま、その明くんとの付き合いが長いのは聖くんだし、当事者は草太くんだし。あたしは二人の意見を尊重するよ」


 つまりあいつとのことは俺たちに任せる、ということだ。確かにそれが一番波風が立たないし、聖も承知しやすいだろう。


「分かりました。では今後、明と一人で会うことは禁止。いいね、相沢くん!」

「お、おう」


 聖に念を押され、困惑しながら頷いた。そこまで強く言わなくっても大丈夫なのに、不安なのだろうか。


「よし。じゃあ帰ろうか」

「ああ……って、お前駅はあっちだぞ」

「何言ってるんだい。君の帰りを狙って明が接触してくるかもしれないだろう。僕が家まで送り届けるよ」

「いや、今の今日でまた会いにくるとは……」

「その気の緩みがさっきの接触を招いたんだろ!」


 むぐ、俺は言葉を呑んだ。接触を招いた原因はあいつが俺を助けてくれたからで、けどそれを説明するわけにはいかない。

 俺が沈黙したのを同意と受け取ったのか、聖が俺の腕を掴んで引っ張ってくる。


「せ、せんぱぁい……」

「気を付けて帰ってね」


 彼女は手を振って俺たちを見送ろうとしていた。


「それでは先輩、また明日学校で」


 さようなら、と別れの挨拶を口にする聖につれられて、俺の家まで帰ることになった。

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