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魔法少女の奉仕活動  作者: シイバ
魔法少女の奉仕活動四
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魔法少女と不安の種

 ぐぅ、と腹の虫がなる。時刻は正午を回っていた。

 陸上部から戻ってきた聖は俺と同じく勉強をしていた。

 自転車部から戻ってきた音無先輩も勉強をしていたが、その手は全く進んでいない。


「ねえ……この問題解ける?」

「二年生の数学は無理っすよ……なあ?」

「ちょっと見せてください」


 先輩から教科書を受け取った聖が問題に目を通すと、スラスラスラと淀みなく自分のノートに数式を書いていく。


「答え合わせはお願いします」


 ノートと教科書を受け取った先輩が答え合わせをはじめてすぐにこちらを向いてきた。


「合ってる……」

「よかったです」

「何で解けたのお前?」


 習っているはずのない問題のはずなのにと不思議に思って聖に訊ねた。


「僕を育ててくれた人が学校に通っても不都合がないように、ある程度の知識は事前に仕込んでくれたんだ」

「そうだったのか。だからって二年生の問題簡単に解いちゃあ……」

「あたしの立つ瀬がないよぉ」


 後輩に解かれたことがショックだったのか、先輩は机に突っ伏してぐったりと脱力していた。


「そんな姿を四之宮先輩に見られたら怒られちゃいますよ」

「……来なかったね、あの子」

「昨日の別れ際には来ると言っていましたけど」

「つっても先輩には助っ人の予定入ってなかったですし、他の用事があったならそっちを優先するかもしれないっすね」

「だったら一言連絡欲しいよねぇ」


 それは確かにそうだ。四之宮先輩が来てくれたら試験対策がもっと捗ったし、音無先輩もシャキッとして勉強していただろう。


「電話してみよ」


 ペンの代わりにスマートフォンを手にし、先輩が電話を掛ける。相手は聞くまでもない。


「…………」


 だが先輩はすぐに電話を机の上に置いた。


「どうしました?」

「つながらなかった」

「圏外ですか」

「電源切ってるとか」


 つながらない理由を俺たちが口々にしたが、先輩は怪訝な顔をしたままだった。


「心配だなあ」

「四之宮先輩がですか」


 音無先輩は頷き、俺と聖は顔を見合わせた。


「少し連絡が取れないだけでそんなに心配していては、先輩が心労で倒れてしまいますよ」

「そんなに気になるんなら先輩の家に行って訪ねてもいいんですし。今はそれよりも昼飯にしましょう」


 俺はお腹を叩いて腹ペコをアピールした。一見乗り気に見えなかった先輩だったが。

 ぐぎゅるるるぅ……。


「……」

「……聖か?」

「僕はそんなにはしたない音は出さないよ!」

「草太くんてばしょうがないなあ」

「あ、俺ですか俺!? 俺は違いますよ!」

「お腹が空くのは仕方ないよね! お昼は何を食べに行こうか」


 俺の言葉に聞く耳を持ってくれない先輩がそそくさと教科書ノートを片付けていく。


「はい聖くんのノート。また分からないところがあったら教えてね?」

「構いませんけど……しっかり自分で解けるようになってくださいよ」

「あはは……大丈夫、花梨がいない時にだけ聞くから!」


 それじゃ根本の解決にはならないです。そう言う代わりに俺たちは溜め息を漏らした。


「じゃあどこに行こうか?」

「っていうか皆で食べに行くのは決定事項なんですか?」

「あ……もしかして嫌だった?」

「そんなわけないじゃないですか!」

「じゃあ行こう!」

「あまりお金のかからないところでお願いしますよ」

「そんな高いところ行けるわけないじゃん……で、どこ行きたい?」

「聖は何食べたい?」

「僕は……」


 口元に手を当ててしばらく考えてからそのぷりっとした唇から続きを零した。


「……よく皆、学校帰りに友達とファストフードを食べに行ったりしてるよね。僕、そういう経験がないから……少し興味があるんだ」

「へえ。意外にも安っぽい願望があったんだな」

「いいだろう別に! これまで、一緒に食事に行けるような友人はいなかったんだから」

「そうだよ草太くん! そんな言い方したら聖くんが可愛そうじゃん!」


 音無先輩からもお説教を受けてしまい、軽率な発言だったと反省した。

 これまでずっと一人でスペシャライザーとして戦ってきた聖の気持ちが、同じ立場にいる音無先輩には俺よりずっと理解できたのだろう。


「悪い。お前の気持ちも考えずに」

「ううん、いいんだ。確かに他の人からすれば取るに足らない憧れと思われても当然だし」

「そう言うなよ! 一緒にいこう、な?」


 俺は聖の肩に手を回して、できるだけ気さくに誘った。何でもない当たり前のことを当たり前に誘うのが、聖の思い描いている学校帰りに飯を食うという行為であり、改まって言うような大したことじゃないんだぞと伝えるつもりもあったから。


「ハンバーガーでいいよな? 先輩もそれでいいですよね?」

「うん! じゃあ駅前のカイザーバーガーに行こうよ。あそこにある大食いチャレンジメニューが美味しいんだぁ……」

「大食い……? いや、先輩がそれでよければそこでいいんですけどね」

「ぼ、僕は初めてだし普通に食べようかな……」

「なら皆で駅前に向けて……あ、あたし自転車部にロード置いたままだった! 取ってくるから校門で落ち合おう!」


 バタバタと慌てて先輩が部室から出て行った。後に残された俺たちは身の回りを片付けてから部室の戸締まりを済ませた。


「でも昼飯のおかげで音無先輩が四之宮先輩のことを忘れてくれて良かったよ」

「うん。そうだね」


 校門へと向かう道すがら、音無先輩がいた時はあまり不安を抱かせないようにという思いから早々に話題を変えたあの人のことについて、聖に話しかけた。


「聖も先輩のこと、気になるか?」

「ああ……あの人なら来れないとなったら連絡の一つは寄越してくれそうなものだけど」

「携帯も通じないっていうのは……昨日先輩の家であんな話をしたせいかな、自分でも気にし過ぎだと思うが」

「僕も昨日のことがなければ不審に感じたりはしなかっただろう」


 昨日、先輩の家で互いの意識を共有し、覚悟を高めたことがかえって些細な事まで気にしてしまうようになっていた。


「思い過ごしなら問題ねえけど」

「思い過ごしではないかもしれない……そういう気持ちだけは持っていた方がいいね」


 とはいえ情報がないうちはどれだけ不安を抱いたところで何もすることができない。

 お互いの心構えだけを確認するように頷き合い、音無先輩との待ち合わせ場所である校門へと向かった。

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