魔法少女と新入部員
連休が明け初日の登校日。つつがなく一日を終えた俺は旧校舎にある一室の前に立っていた。
「よし」
最初にする仕事は決めていた。マジックのキャップをとり、その部室にかかる表札に手を加える。
「キュキュキュのキュ……っと」
人編の足りなかった漢字に「人」を足す。上出来な仕事ぶりに満足して頷いた。
あれから、真神店長は公園で起きた出来事について色々手を回さなきゃいけないということで俺たちを急いで帰した。
鈴白さんの怪我も音無先輩が綺麗に治し、笑顔で別れた。少しは俺にも慣れてくれたかな。
ここに来る前に立ち寄った職員室では、メロン先生にプリントを手渡した時にそれとなく体の具合を訊ねた。病院に運ばれた理由は過労ということになっているようだ。あの工場で起きた惨状は、先生の記憶からすっぽりと抜け落ちている。
それは委員長も同じだった。けどそれでいい。手に大怪我を負い、俺をハメようとしたなんてことを覚えておいてほしくない。彼女には、柏木さんのような友達と一緒に日常を送る生活が似合っている。
何も変わらない知り合いはダブルオーの二人くらいのものだ。変わらないあいつらが鬱陶しくもあり、俺の日常でもある。
俺はその日常を大切にしたい。ただ一緒に過ごすというだけではなく、守る対象としてだ。
「失礼します!」
俺は部室の扉を開け、同時にパパンと響く破裂音にビクッとして立ち止まった。
「……あ、あれ?」
「だからいきなりクラッカーは驚かせるだけだから止めときましょうって言ったじゃない」
虚を突かれた俺の頭に降り注ぐ紙テープに紙吹雪。それをつまみ上げては何事かと思った。
部室の真ん中には、机を三つ引っ付けてできたテーブルの上にお菓子とジュースが並んでいる。
「本当は飾り付けとかしたかったんだけどねえ。サークルだから学校から部費とか出ないし、食べ物だけで勘弁してね」
「クラッカー買わなければ少しは違うものも用意出来たんだけど。ごめんなさいねこの子のワガママで」
これはもしかして、俺の歓迎会のつもりなんだろうか。
「今日の主役なんだから、早く座って座って」
音無先輩が手を引いてくる。間違いない。俺を歓迎してくれてるんだ。小さな会場で大きな愛情を感じる。二人の優しさが嬉しくもあり気恥ずかしくもある。
「あの、先輩!」
だからその空気に呑まれる前にもう一度、俺はちゃんと二人に宣言しておきたかった。
「俺はこれから、二人にたくさん迷惑をかけます。俺なんかに出来ることは少なくて、出来ないことの方がたくさんあります。だけど、そんな俺ですけど、先輩たちのことを支えさせてください。よろしくお願いします!」
頭を下げ、二人の言葉を待った。日常に戻って欲しいという先輩たちのアドバイスを聞かずにここにいることは、二人を困らせる行為に違いない。それでも一緒に日常を守り、二人の傍にいることが俺に出来る感謝の伝え方だと信じている。
「やだなあ。今更改まることもないじゃん」
「しかたない。支えられてあげますか」
その言葉に顔を上げた。入部届を出し終え、二人に受け入れられた俺は晴れて正式にボランティア倶楽部の一員となれた。
こうしてひとまずではあるが、俺の物語に一つの区切りがつくこととなった。ただ、この出会いは単なる始まり、序章にしか過ぎない。日常と異常の狭間でどれだけ波乱に満ちた学校生活となるか、今はまだ知る由もない。
けど大丈夫。どんな苦難も困難も、ボランティア倶楽部なら乗り越えられるはずだ。
「相沢くん」
「草太くん」
そしてこの物語を締め括るなら、やはり二人の言葉が相応しいだろう。
「「ボランティア倶楽部へようこそ!!」」




