第13話:灰眼の主と対峙するんだが?
「光よ──払え」
目が……!
「眩しっ!」
援軍か!?
助かったのか?
白光が、森を裂いた。
影が、焼ける。
低い唸りが、四方で弾けた。
「……効いてる!」
「下がれ!」
聞き慣れない声。
振り向けば、白衣の男が杖を掲げていた。
「ギルドより異常個体の報告を受け、急行いたしました」
「司祭……!」
再び、光が走る。
「光よ──照らし、暴け」
木々の影が、逃げ場を失う。
今まで“見えなかったもの”が、浮かび上がる。
──シャドウウルフ。
灰の目が、いくつも。
「数、多っ……!」
俺たち、よく耐えたな!
「群れですね。しかし、これで──」
言いかけた司祭の声が、止まる。
頭上。
気配が、重く沈んだ。
光が、歪む。
ゆっくりと──
灰眼の主が、枝の上に姿を現す。
「……やはり、主がいますか」
司祭が、低く息を吐く。
「ならば──」
杖を、強く握る。
「退魔の光よ、集え」
光が、収束する。
空気が、震える。
放たれた一撃が、一直線に主へ──
──弾かれた。
「なっ……!?」
闇が、光を呑む。
灰眼が、こちらを見下ろした。
──効いていない。
「……足りませんか」
司祭の声が、わずかに沈む。
えっ、やっぱ詰みなのか……!?
空気が、また重くなる。
逃げ場は、ない。
その時。
背後で、かすかな音がした。
──靴音。
「もう……陽翔ったら。
また傷だらけじゃない。」
「『家事EX』!」
ぱぁん、と軽い音がした。
そして俺が、眩い光に包まれる。
さっき受けた傷と、装備の傷まで綺麗に治った。
そして、俺を呼ぶこの声は──
「母さん!」
「はいはい。動いちゃダメよ」
軽く手を振る。
ぱん、と手を鳴らすような音。
「酷いわね。
ワンちゃんたちは、ボサボサだし」
その一言で。
空気が、変わった。
ざわ、と。
森の“影”が、揺れる。
「ブラッシングしてあげましょうね」
母さんが、一歩前に出る。
灰眼の主が、低く唸った。
──威圧。
けど。
「……あらまぁ、怯えてるのかしら」
はたきでも払うみたいに、手を振る。
──消えた。
影が。
そこにあった“闇”が、音もなく。
消えた。
「……は?」
思わず声が漏れる。
司祭も、言葉を失っている。
「あらあら。本体は一匹だけだったのね」
母さんが、首を傾げながら言う。
木の上。
灰眼の主が、初めて“動揺”したように見えた。
「陽翔」
「……はい」
「あなた、やってみる?」
初めてだった。
いつも問答無用の母さんが。
俺に、託してくれた。
「……やる」
呼吸を整えて、剣を構える。
火を纏わせる。
剣先が、じわっと熱を帯びる。
──もっと、纏え。
剣先から、炎が伸びる。
腕じゃない。
全身で、握る。
足を、踏み込む。
視線は──一点。
木の上。
灰眼の主。
低く唸る。
だが、もう。
怖くはない。
「──行く」
踏み込む。
地面が、爆ぜた。
一直線。
影が、揺れる。
主が、跳ぶ。
速い。
だが──
「見えてる」
剣を、振り抜く。
炎が、裂ける。
空気が、燃える。
灰眼を、横一文字に薙ぐ。
手応え。
重い。
だが。
確かに──
届いた。
「……っ!」
主が、よろめく。
初めて。
距離が、崩れた。
「効いてる!」
その瞬間。
母さんの声。
「そこよ、陽翔」
──合わせる。
踏み込み、二度目。
今度は、深く。
炎が、噛みつく。
灰眼が、揺れる。
そして。
──崩れた。
森が、静かになる。
風が、戻る。
鳥の声が、かすかに戻る。
剣を、下ろす。
息を吐く。
「……やった、のか」
振り返る。
母さんが、微笑んでいた。
「やったわね、陽翔」
「……母さん」
「あなた、ちゃんとやれるのね」
「……うん」
元の世界にいた頃は、母さんから離れたくて、無我夢中だった。
今、ちゃんと、見せられた。
──逃げるためじゃなくて。
ここに、立つために。
母さんが、頷く。
「ええ。合格よ」
森の空気が、ゆっくりとほどけていく。
風が、戻る。
鳥の声が、戻る。
剣を下ろす。
ようやく、息を吐いた。
「……やった」
「あとは後片付けね」
「あ。こいつはそのままロープで縛って、ギルドに──」
「『家事EX』!」
「うおっ──!」
ぱぁん、と軽い音がした。
そして俺が、眩い光に包まれる。
また、ピカピカにされた。
「あっ。俺のスキレットぉーーー!」
こっそり育てていた、俺の鉄のフライパンまで、ピカピカにされていた。
「くそーーー!」
俺の叫びが、森に吸われていく。
──俺の冒険者ライフは……
始まったばかりだ。




