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「それじゃ、行こっか」
旭日さんがバイトに向かう用意を終わらせて一緒に家を出る。
「っと、その前に。日向ー深夜くん、帰るからな」
「西宮に報告するんですか?」
西宮は旭日さんが用意をしている間も気持ち良さそうに眠っていて、今も続いている。寝ている西宮に報告しても返事なんてないだろうに。
「一応ね。起きて深夜くんがいなかったら日向が怒ってきそうだから」
「そんなことします?」
「するする。ボクが送っていきたかったのに〜って駄々こねる」
「想像出来ない」
「君にはいい格好を見せたいんだろうね。とりあえず、報告はしたしこれで、ちゃんと声掛けたって言えるよ」
「大変ですね」
「原因は深夜くんだけどね」
「俺ですか?」
俺、なんにもしてないと思うんだけど。
「いい意味で、だから心配しなくていいよ。さ、出発しよう」
いい意味だろうと気になるものは気になる。けども、旭日さんは教えてくれなかった。
帰りはマンションを出て、商店街を通って駅に向かうことになった。来た道の方を指してこっちじゃないのか聞いてみると遠回りだと教えられた。西宮は近道だってあれだけ言ってたのに。
衝撃の事実に思わず嘘だと言ったものの、実際に商店街を抜ければすぐに駅が見えてきた。時間は十分も掛かってない。
「マジでぜんぜん時間違うんですね」
「な。言ったっしょ」
「じゃあ、何で西宮はわざわざ嘘までついて遠回りしたんだろう」
「それは、深夜くんが考えてあげてくれ。きっと、意地悪しようとしたはずじゃないから。嫌いにならないであげてほしい」
「それは、分かってます。それに、ちょっと遠回りしたってだけで嫌いになんてなりませんよ」
優しい西宮にならどんなことをされても大抵のことは許してしまいそうだ。嘘をついて遠回りしたことくらい、怒る原因にすらならない。
「そう言ってくれて助かるよ」
「友達ですから」
「そっかあ……あ、そろそろ俺は行くよ」
「あ、はい。今日はありがとうございました。誰かの家で遊ぶのなんて久し振りでめちゃくちゃ楽しかったです」
「俺の方こそだよ。こんな大学生の誘いを聞いてくれて感謝してる。日向も楽しんでたのが何よりだしね」
「……やっぱり。最初から、西宮も一緒の想定だったんですね」
「ふふふ。真実は闇の中ってことで」
隠してるようだけど、旭日さんのことだ。最初から西宮を仲間外れにするようなこと、考えてもなかったのだろう。それを実際に聞くような野暮なことはしないけど。
そうして、俺は旭日さんと別れた。旭日さんはバイト先へ向かうために向かいのホームへ。俺は家に帰るためのホームへ。
そうだ。西宮にラインでも入れておこう。今日は楽しかった。ありがとうっと。あー、今日は楽しかった。
家に帰ってきてから少し経ってのこと。西宮からラインが送られてきた。駅で送ったことに対しての返事かと思ったら電話してもいい、と書いてある。何か言いたいことでもあるんだろう、といいよと返事を送ればすぐに電話が掛かってきた。
「もしもし?」
『あ、東野くん。ごめんね。ボク、寝ちゃって』
スピーカーではなく、スマホを耳に当てている。そのため、耳のすぐ側で西宮の声が聞こえてくるのは当然だ。鈴の音のような、明るい声。普段から聞いている声だっていうのに耳元で聞くと違った感じがするのは何でだろう。
『東野くん……?』
「あ、ううん。聞いてるよ。謝ることじゃないから気にしないでくれ」
『でも、東野くんが遊びに来てくれたのに寝ちゃうなんてお迎えしてる立ち場としてありえないよ』
「寝不足だったんだろ……俺が遊びに行くのが楽しみだからって」
『あ、う、うん……』
「そんな嬉しい理由が原因なんだ。ほんと、悪い気なんてぜんぜんしてないから。それに」
あんな至近距離で西宮の寝顔を眺めていられた。こんなこと口には出来ないけど、役得だったと思ってる。
『それに?』
「帰りは旭日さんに案内してもらったから迷わず帰れたし」
『それは、よかったけど……複雑。帰りもボクが送りたかった』
「……遠回りして?」
『お、お兄ちゃんに聞いたの!?』
「いや、聞いたっていうより西宮に教えてもらった道を通らなかったから」
『ご、ごめんね。悪気があった訳じゃないんだよ。ただ……』
「大丈夫。怒ったりしてないし。西宮と歩くの楽しいからさ、遠回りしてる間も楽しかったよ」
『そ、そっか……よかった』
電話越しでも西宮が安心しているのが声音から伝わってくる。
「……あのさ。遠回りした理由って俺とちょっとでも二人でいる時間を長くしたかった、みたいな都合のいい考えをしててもいい?」
帰りの電車に揺られながら、ずっと考えていた。西宮がわざわざ嘘をついてまで遠回りした理由を。
それで、結論に至ったのがこれだ。正直、自分でもどうかしてるって思ってる。そんなのまるで、西宮が俺に特別な感情を抱いてくれてるみたいだ。
でも、そんな風に思ってくれない限り、遠回りする意味なんてないどこにもないはずなんだ。あー。とはいえだ。恥ずかし。すんごく恥ずかしい。こんなこと聞いて西宮にどう思われただろう。不安だ。
『……もしも、そうだったとしたら、嫌?』
「嫌なもんか。むしろ、光栄だよ。西宮からそんな風に思ってもらえてるならこの上ない幸せだ」
『……東野くんは凄いね。顔を合わせなくてもボクを喜ばせてくれるんだから』
「ってことは、考えてていいんだ」
『うん……だって、その通りだし』
「あ、そ、そうだったんだ」
『きゅ、急に恥ずかしがらないでよ』
「仕方ないじゃん。そういうこと言われ慣れてないんだし。俺が女の子相手に緊張しいなのは知ってるだろ」
『お、女の子……東野くんはボクが前にいなくても女の子扱いしてくれるんだね』
「こんな聞いてて耳が癒される可愛い声しておいて何言ってるんだ」
『い、言い過ぎだよ』
「言い過ぎてなんてないけどなあ」
『は、恥ずかしくなってきたから切るね』
「え、ちょっ」
一方的に通話を切られた。顔は見えず、声しか聞こえない状況で声のことを褒められたらそんなに恥ずかしくなるもんだろうか。
でも、俺だって西宮に恥ずかしくさせられたからな。お互い様だろ。それにしても。
「そっか。俺って西宮に嘘をついてまで少しでも長くいたいと思えるような存在なんだ」
西宮がどういう気持ちでそう思ってくれてるのかは分からない。けど、西宮の中で俺がわりと大きな存在になっているような気がして。それが、たまらなく嬉しくて。
ベッドにダイブした俺は体中から湧き出る興奮を放出するために足をバタつかせた。




