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「よし、始めるか」
「うん」
グラウンドの端っこの方で軽く準備運動をして体をほぐし終えた俺は隣で同じように体を伸ばしたりして運動していた西宮に声を掛けた。
今の俺と西宮は体操服に着替えているが体育の授業中じゃない。放課後だ。それじゃあ、なんで着替えてるんだって話だけど、それは数日前まで遡る。
体育祭で西宮とする二人三脚の練習をしようと西宮から誘われたのだ。一回も経験しないまま当日になって失敗するのも嫌だった俺はぜひと返事した。
という訳で、体育の授業があった今日、練習しようということになって今に至るというわけだ。
「じゃ、じゃあ、タオルで足結ぶね」
「よろしく」
家から持ってきたらしいタオルを西宮がしゃがんで足に巻き付ける。上から西宮を見下ろす形になった。西宮は長い後ろ髪を服の中に入れてモコモコしている。
「出来たよ。足、痛くない?」
「大丈夫。ありがとう」
西宮は右足に。俺は左足に。足がタオルで結ばれたことにより、俺と西宮の距離が自然と近くなった。
今さらな気がするけど、女子と二人三脚ってめっちゃ緊張するな。なんか、西宮からいい匂いがするような気がするし。って、気持ち悪いだろ、俺。
邪なことは考えないように。あと、西宮との距離が近くなったせいで緊張していると悟られないように平静を装う。
「えっと、確か……腰に腕を回すといいんだっけ」
家で調べた二人三脚のコツを思い出す。内側の手を相手の腰に回してサポートし合う、のがいいらしいんだけど……いいんだろうか。二人三脚のためとはいえ、西宮の腰に手を回したりして。西宮に嫌がられないか心配だ。
「そ、そうだね。だから、失礼します」
そう言って西宮が俺の腰に腕を回してきた。そして、自分の方へ寄せるように力を込めてくる。そのせいで、俺と西宮の距離は余計に近くなった。あばっ。ばばばばば。
「ひ、東野くんもいいよ」
「そうしないと練習にならないからな、うん」
誰に言い訳してるのか自分でも分からないまま、西宮の腰に向かって腕を伸ばす。西宮から言ってくれたし、そもそも相手は西宮。普段から、ノリで男子に背中を叩かれたりしているし、俺に触れられてもたいして気にならないのだろう。
少しだけ安心して西宮の腰に腕を回せば西宮の体が跳ねた。ビクッと怖がるような反応に俺も怖くなって咄嗟に腕を遠退けてしまう。
「ごめん。どこか痛かったか?」
そんなに力を入れた訳じゃないとはいえ、相手は女の子。女の子の肌は傷付きやすいというし、西宮にとっては十分に強かったのかもしれない。
「う、ううん。東野くんに腰を抱かれてちょっと」
「ちょっと……何?」
「な、何でもない。ボクの問題だから」
「いや、西宮だけの問題じゃないと思うぞ。俺達ペアでパートーナーなんだし。何かあるなら言ってくた方が助かる」
ちゃんと聞いておかないといざって時に失敗するかもしれない。そうした結果、西宮に怪我でも負わせたら後悔するだろうからな。
何を言われても受け止める姿勢で西宮のことを見る。じいっと見ていれば西宮は目を泳がせ始めた。やっぱり、俺に何か問題があったっぽい。でも、西宮は優しいから言うのを躊躇っているみたいだ。
「ほんと、どんなことでもいいんだ。些細なことだろうとちゃんと聞く」
「……引いたりしない?」
「しない」
「えと……その、ね。東野くんから腰に腕を回されて凄くドキドキした、の」
「……え、それだけ?」
首を縦にして頷く西宮。その頬は赤く染まっていて恥ずかしがっているようだ。思ってもいなかった理由に俺は拍子抜けしたと同時に安心した。
「そっか。西宮に痛い思いさせたとかじゃないんだな。よかった」
「だ、だから言ったでしょ。ボクの問題だって」
「でも、意外だった。西宮って軽いスキンシップならよくしてるし慣れてるもんだと思ってたから」
「他の男の子が相手だと平気だよ。男同士のノリだし」
「じゃあ、俺だけが無理なのか……」
他の男子と俺の何が違うというんだろうか。俺だって西宮と友達のはずなのに。
「だって、東野くんはボクのこと女の子として接してるでしょ」
「女の子なんだから当然だろ」
「だ、だから、東野くん相手には緊張もするし、恥ずかしくなったりもするの。今だって……こんなに近いし」
二人三脚の練習をしていないとはいえ、俺と西宮は足をタオルで結んだままの状態。普段、西宮と話す時よりも距離は近い。
「ちょっと安心した」
「何が?」
「緊張してるの俺だけじゃないんだって」
「東野くんも緊張、してくれてたの?」
「まあ、女の子とこんなに接近するのとか今までなかったし。でも、そういうの出して西宮に知られたらなんか恥ずかしいから必死に隠してたんだ」
「そっか……ふふ。ボク達、おんなじだね」
嬉しそうに笑った西宮になんだか胸がくすぐったい気持ちになる。体がむず痒いというか表現が難しい。変な感覚だ。
「あ。それじゃあね、二人三脚をするための練習とか、どうかな」
「というと?」
「軽いスキンシップをしてお互いに慣れてから練習した方が身になると思うんだ」
「それは、そうかも? でも、スキンシップって何するんだ?」
何をするにしても俺は女の子と触れ合うってだけで緊張は避けられないけどな。
「手でも繋ぐ、とか? ほら、いきなり腰に腕を回すよりは接触面も少ないし難易度的には低いかなって」
そう言って西宮が俺に手を差し出してくる。確かに、腰に腕を回すよりは手を繋ぐ方が気軽に出来る気がする。それに、繋ぐってよりも握手って思えばもっと楽だ。握手くらい、俺だって相手が女の子だろうと緊張せずに出来る。
西宮の手に俺の手を合わせる。そして、握った。西宮の手は身長のわりには小さくて、俺の方が大きい。にぎにぎと手を動かしてみればすべすべな肌の感触が伝わってくる。
「……これだけでも、恥ずかしいね」
「西宮から提案したんだぞ」
「わ、分かってるよ。でも、東野くんと手をこんな形で繋げるなんて思ってもなかったから……へへ」
手を見つめて唇を緩める西宮。なんで、そんなに楽しそうなんだろう。
ん、繋げるって言った? 西宮は俺と手を繋ぎたかったのか? なんて、そんなことないか。気のせいだよな。
結局、一回目の練習はぜんぜん練習にならなかった。また日にちを改めて、練習しようと約束した。
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