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よろしくお願いいたします。



赤茶色の竜は、サーダユギノと名乗った。


「ええとそれで、俺たちは番とかじゃないんだけど」

「そうそう。ちょっとした事故で、お互いの血を飲んじゃったら、なんか私がルノの眷属みたいなものになったっぽいって調べてくれた魔法使いには言われたのよ」

それぞれが言うのを聞いたサーダユギノは、目を見開いた。


「えっ?お互いの血を飲んだのか?それはまた、随分と古式ゆかしい儀式が成立したもんだ」

「昔の儀式?」

「そうだ。大昔、オレのばあちゃんくらいの世代の話だな。番の儀式の一つとして、お互いに血を分け合って、魔力を交換してたんだ」


ルノフェーリとベラは目をむいた。

「「ええぇええぇぇええええっ?!」」

「仲良しだなぁ」



どうやら、サーダユギノには番のようなつながりが見えているそうだ。

しかし番とは少し違うので、確信が持てなかったんだとか。

つながりが見えるのは、竜だからというよりは本人の資質によるものらしい。


「まじかぁ。でも、ちゃんと番になった記憶もないし、儀式的なものはしてないはずなんだけど」

ルノフェーリは首をひねった。


「うーん。私がブチギレで魔力全開だったから、血に魔力がたっぷり混ざってたのかも?」

ベラも首をかしげた。


「そういえば、なんか聞いた気がするな。番になったら番紋が出るはずだって。あと、なんか儀式が必要だったっけ?お互いの逆鱗を飲むのも大事だけど、あれは番とはまた別の何かだったはず?だから、ほかにもなんかあった気がする。血の交換はおまけみたいなものだったと思うけど、うろ覚えだな」

サーダユギノも首をかしげた。

昔のこと過ぎて忘れてしまったらしい。


「おじいちゃんかな」

「大体合ってる」

「合ってるんだ」

ベラがポロリと零した言葉に、サーダユギノは反論するどころかうなずいた。

見た目は20代なのにボケ始めたおじいちゃんとはシュールである。

正確には、色々と記憶し過ぎてどれかわからなくなっているのだろうが。


ちなみに、小鉢のお茶はルノフェーリの前に置かれた。



「番紋かぁ。形は知ってるけど俺には多分どこにもないし、ベラも見たところないよね?」

「この頬の傷は違うんでしょう?あと、傷跡に暗色が混ざってるのも、もしかしてルノの魔力を取り込んだからだったのかな」

首元の傷の近くには、暗色の刺青のような色がついているのが見えている。


「あぁ、その色はたしかに、ルノフェーリの魔力だろうね。でも番紋じゃないみたいだし。あ、番紋ってね、弱い方の個体にだけ出るんだよ。だから、もしもあるならベラの方にあるはずだ。あれは要するに、『俺のだから手を出すな』っていう宣言みたいなもんだから」

「え、番紋ってそんな『唾つけた』みたいなやつだったの?」

「そうそう」

ベラの中で、ほんのりあった番への幻想がぶち壊された。


「じゃあなんで、俺とベラにつながりがあるんだろう」

小鉢のお茶を飲みほしたルノフェーリに、サーダユギノが答えた。

「多分だけど、血を飲んだだけで儀式をしてないから予約状態なんじゃないかな。儀式をしたら正式に番になれるよ」


「それは当分できないし、お互い了承したうえでのことじゃないからなぁ」

「当分できないの?なんかあった?」

サーダユギノがルノフェーリに質問した。


「実は俺、色々あって逆鱗を割ってあっちこっちにバラまいちゃったんだ。それで、今は逆鱗の欠片を回収してるところ」

「えぇ?大変だね。あれ、下手したら国ごと消えるじゃん」

「ほんとそれ。今のところ、ほとんどの人がただの飾りとして保管してくれてたけど」

「飾りにしてないとこもあったの?え、すっごい豪胆」

「それが、何にも知らずにうまいことバランスを取って使ってて――」

ルノフェーリとサーダユギノは、楽しそうに情報交換しはじめた。


そしてベラは、ぼんやりと紅茶を飲みながら考えていた。


―― 今日は野宿かな。晩御飯どうしよう。




結論から言うと、夕食は竜二人が狩ってきた猪肉になった。

魔法でちゃっちゃと血抜きして、河原で焼肉祭りである。


「狩りができるなら、果物で食いつながなくても何とかなったんじゃないの?」

ベラは、肉をさばきながら言った。

しかしそれに対して、ルノフェーリは胸を張った。


「俺は、繊細な操作は無理なんだ。この間の魔獣だって、デカかったからたまたま当たったけど、案外魔法を思った通りに投げるのって難しいよね。それから、威力はあれくらいが最小限だよ」

「え?ノーコンのうえに馬鹿力なの?」

「うぐっ……!ま、魔力が膨大過ぎて細かい作業には向いてないの!だから、猪とか小さい動物を狙ったら丸焦げにするどころか消し炭にしちゃうし、当てるまでにあっちこっち穴ぼこだらけになる。爪で切り裂いたら細切れになって素材が残らない」

「あ、うん。わかった。今回の猪もサーダユギノが狩ってきたんだね。次からずっと、ルノは果物係で」

「軽い!果物係はいいけども!!」

「いいんかい」

軽く受け流すベラに、ルノフェーリは不満げに口を尖らせた。


「俺はすごいんだからね?!両親にも、『お前は魔力が大きすぎるからできるだけ魔法を使わずに色々解決しなさい』って言われてきたくらいだし」

それはもう使うなということでは。


「魔法の使い方下手くそって言われてんじゃん!」

「言われてない!細かい調整が苦手なだけ」

「それを下手っていうの!しかも迷子症だし!」

「迷子症?」


二人の言い合いに、サーダユギノが入ってきた。


「うん、ルノってめちゃくちゃ方向音痴で、逆鱗探しの旅も情報は仕入れているのに行きたい街にたどり着けなくて気づいたら40年経ってたらしいよ」

「あー、なるほど。魔力の多い竜に多いやつだね」

サーダユギノは納得したように言った。


「魔力が多いと、方向音痴になるの?」

なんじゃそりゃ。


ベラが思わず聞くと、サーダユギノはうなずいた。

「そうだよ。より多くの魔力を無意識に巡らせるようにしている関係で、三半規管が圧迫されて発達しづらいんだ。それで、方向感覚があまりない竜になっていく」

「へぇ。魔力が多いのも善し悪しね。人も同じなのかしら」

「竜ほど強大にはならないからそこまでじゃないだろうけど、多少は影響してると思うよ」


「私は全然影響を感じないんだけど」

「ふぅん?ルノフェーリは竜の中でも魔力が多い方だよね。オレの三倍くらいあると思う。ベラはオレの半分くらいじゃないかな。それでも、人としてはあり得ない量だ。多少は影響があるはずなんだけど」

こてん、とサーダユギノは首をかしげた。


「あ、もしかして後天的に魔力量が増えたから、とか?多分、俺と血の契約みたいなのをして、もっと増えたんじゃないかな」

「あー、それかも」

「後天的?どういうこと?」

不思議そうに聞くサーダユギノに、昔のベラが何をしたのかを説明した。


爆笑された。



読了ありがとうございました。

続きます。

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