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よろしくお願いいたします。
コロッタ伯爵の紹介で泊まった宿では、いわゆるスイートルームのような、最上級の部屋を提供された。
「すごい部屋だね」
「確かに。寝室なんて4部屋もあるわよ。2人じゃ使い切れないわ」
「宿を使い切るとは」
当然、食事は部屋のダイニングスペースでコース料理が提供された。
思った通り、フルーツのお酒がとても美味しい。
「すっごい美味しいけど、ベラ、お金大丈夫かな……」
しっかりステーキを堪能しきってから、ルノフェーリが心配そうに言った。
「食べてから言うこと?まぁ、少しくらい大丈夫よ。明日からはまた移動で野宿か村の宿で雑魚寝だし」
「お、俺も少しは持ってるから」
「わかった。きっちり割り勘ね」
「えっ!割り勘は厳しいかもしれない」
「大丈夫、出世払いで」
「ねぇベラ、出世払いって『払え』って言われたらすぐ払わないといけないんじゃなかったっけ」
「そうよ」
「厳しい!」
実際、ベラにとっては大した金額ではないのでなんとかなるだろう。
一晩ぐっすり休んで、朝食も楽しんでから、フロントで支払いを頼んだ。
「いえいえ、コロッタ伯爵から預かっておりますので、お客様はお支払い不要です」
「え?」
「伯爵が?」
「はい」
受付の男性は、にっこりとほほ笑んだ。
スイートルームの宿泊費用を全部出してくれるとは、伯爵もなかなかの太っ腹である。
もしかしたら、危険な逆鱗の欠片を引き取ったうえに、ごねた先代伯爵を丸め込んだお礼なのかもしれない。
せっかくなので、おすすめを聞いて何本かお酒を手に入れた。
「次は東の方のハンリム侯爵領だっけ」
「そうよ。ちょっと遠いから、急いで飛んでいっても3日くらいかしら」
「レオンジ帝国は広いもんね」
「森とか荒野とか、人が住めなくて未踏の地域も多いもの」
「じゃあ、ついでにちょっと大きめの魔獣を狩って魔石集めしてもいい?方向をベラに任せられるなら、魔獣探しに集中できるから」
「いいわよ」
そういうわけで、東に向かって真っすぐ飛んで移動することになった。
『あっ!ベラ、あっちにでっかい魔石の元がいるよ』
「ほんと?じゃあちょっと寄り道しましょう」
『はーい!』
真っすぐには行けなかった。
「見えたわ、あれね」
『おぉ?結構大きいね』
「このへん、街も村も何もない山の奥だもの」
『でっかく成長してくれたんだね。ありがたいなぁ』
「魔獣にとってはありがたくない客ね」
『客じゃないよ、捕食者だよ』
「食わないんだから捕食者じゃないわ。敵?略奪者?天敵?」
『最終的にご飯を買うんだから捕食者でいいんじゃないかな』
「それもそっか」
空から確認した二人は、上空からその魔獣に近づいた。
森の木々の間からも見える巨体は、15メートルほどあるかもしれない。
「あ、ルノ、このまままっすぐ魔獣の上を通過してくれる?なるべく低めで」
『うん?いいけど』
暗色の竜は、森の上から滑空し、弧を描くようにして魔獣の上を通過した。
魔獣は、竜を敵だと認識した。
ベラがルノフェーリの背中から軽く腕を振ると、石の槍が大量に出現して魔獣に降り注いだ。
魔獣は声を上げる間もなく討伐された。
『べ、ベラっ?!』
「一回やってみたかったのよね!やっぱり飛んでるルノの背中に乗ってたらその分のスピードが乗って良い感じの威力になるわ」
『酷い。俺だって倒したかったのに』
「ごめんごめん。とりあえず、魔石回収しよ?こんだけ森が深いんだし、探せば似たような大きさの魔獣も見つかるって」
『もう。次は俺だからね!』
「わかった。次は見てるだけにするから」
『絶対だよ!』
その言葉通り、ルノフェーリは次の魔獣を見つけたら先手必勝とばかりに一撃で倒していた。
背中に乗っていたベラも、さすが竜は威力が桁違いだな、とほんの少しぞわりとした。
そうして寄り道をしつつも東を目指している途中で、突然ルノフェーリが一方向を見て固まった。
「ルノ?どうしたの?」
『……竜がいる』
「え、ほかの竜?近いの?」
『少し向こう。あ、向こうも気づいたな。こっちに来るみたいだから、あそこに降りようか』
つい、とルノフェーリが顔を向けたのは、少し開けた河原だった。
河原に立って、ベラが背中から下りるとルノフェーリが人型になった。
「竜って、なんか特別な連絡手段でもあるの?」
「ううん。ただ、魔力の波動っていうの?あの、逆鱗で感じたでしょう?ああいうのがわかる。竜は魔力に敏感だからね」
言いながら、ルノフェーリは石を集めてかまどを作りだした。
だから、ベラは適当に目についた木切れを集めた。
「そういうものなのね。私は一緒にいていいの?」
「うん、大丈夫。竜って割と個人主義だから、夫婦と独り立ちするまでの子ども以外が一緒に住むことはほとんどない。それに、住む場所は山奥が多い。だけど、孤独が好きなわけじゃないんだよね。数十年に一回くらいは、誰かとしゃべりたいわけ」
「数十年単位」
「竜そのものが少ないのもあって、同胞としゃべれる機会なんて下手すると数百年なかったりするから」
「数百年」
竜の時間感覚は、人のそれとはずいぶん違うらしい。
「私もそのうち、数十年があっという間みたいな感じになるのかしら」
「眷属も結構長生きになるからね。多分、あと百年もしたらそうなるんじゃないかな」
「マジかぁ。いよいよ人じゃなくなる感じね」
「……なんか、ごめん」
その声音が沈んでいたので、ベラは思わずルノフェーリを見た。
「謝る必要なんてないわよ。ルノは被害者じゃないの。私が強襲した側なんだから。むしろ、勝手に眷属になったやつなんて知らない、って言える立場だと思うんだけど」
「えっ!いやでも、人生が捻じ曲げられたのはベラだよね。俺は何にも変わってないし」
「いやいや、私が蹴っ飛ばしたから逆鱗を粉々にして大陸中にバラまいちゃったじゃないの。おかげで何十年も迷子旅してるんでしょ」
「確かに」
「それに、寿命がどうとか老化がどうとかっていうのは、もう通り過ぎたから平気。しかも、ほぼほぼ私の自業自得よ」
「でも」
「根本的には私が住んでたところの領主が悪いんだから。それに、私は今を気に入ってるからいいのよ」
「……そっか」
かまどに木を組み上げたルノフェーリは、魔法でそっと火をつけた。
お湯が沸いたところで、空が陰った。
「お、来たよ」
「ほんとだ」
2人の上から近づいてきたのは、赤茶色の竜だった。
『おや?人間も一緒だったのか』
「あぁ」
「人型になれるなら、お茶淹れるわよ」
『おぉ!それはありがたい』
赤茶色の竜は空中で変化し、河原に飛び降りた。
「おや、これはまた。いやいや、邪魔してすまんな。竜族に会うのは三百年ほどぶりなもので」
ルノフェーリとベラを見た赤茶色の髪の男性は、苦笑しながら頭を掻いた。
その服は、シンプルなシャツとズボン。
足もとは裸足である。
「別に邪魔じゃないよ」
「そうそう。別に急いで旅をしているわけでもないし」
そう言いながら、ベラは木のカップ二つと木の小鉢を一つ取り出した。
さすがに、カップをいくつも持ち歩いてはいないのだ。
「そうか?番の2人がそう言うなら遠慮なく」
「「えっ」」
「え?」
番とはなんのことだ。
読了ありがとうございました。
続きます。




