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よろしくお願いいたします。



その後の道中も、晴れたり雨が降ったりしながら、特に大きな事件もなく進み、コロッタの街に到着した。

コロッタ伯爵が治める街で、田舎にある割に栄えているという。


理由は、街を覆う結界にあった。


「街全部結界の中って。これは、魔石を使ってるのかなぁ」

ルノフェーリが、空を見上げながら言った。

結界自体は特に目に見えないが、魔力が動いているのは感じられる。


「どうなんだろ。多分中心の方でしょ。ちょっと行ってみる?」

「そうだね」


ベラとルノフェーリは護衛任務を終え、ギルドに報告していた。

無事にルノフェーリがB級にランクアップしたので、書き換えも終わっている。




街の中央付近には、役所を併設しているらしい領主館が建っていた。


「ねぇルノ」

「うーん……」

「やっぱりそう?」

「そうだと思う。すごいな、絶妙なバランスで魔力を注いで使ってる」


近づくと、逆鱗の気配がわかったのである。

しかし、ただ保管されているのではなかった。

「結界の動力にしてるとか、すごい危なっかしいわね。わかってて使ってるのかしら」

「どうだろう。使えたからそのまま使ってるとかかなぁ。どっちにしろ、早く回収した方がいいね」

「うっかりバランス間違ったらドカンでしょ」

「結界は仕事してるから、内側だけが全部爆散しちゃう」

「こっわ!」


ルノフェーリが提案するので、一度コロッタの街の外へ出た。

「で、どうするの?」

「こうする」





コロッタの街は、突然の竜の襲来にパニックになった。

竜族は、魔獣とは違うものだ。

それでも、悪意を持った竜は結界に弾かれると説明されていたのである。


しかし、やってきた竜は悠々と結界の内側に入って街の上空を優雅に飛んでいった。


「結局、力づくじゃないの」

『だってそれが一番話が早いんだよ』

「わかるけどさ」


ルノフェーリの背中から見下ろせば、あわあわと走って逃げる人たちが見える。

目指す領主館の周りでは、兵士たちが走り回っていた。


領主館まで飛び、ぐるりと一周すると、多分兵士の訓練場らしい広場が見えた。

『あそこに降りるよ』

「どうぞー」

ベラは、ルノフェーリの背にべろんと寝転がって景色を眺めていた。



場所を定めて降り立つと、バタバタと兵士たちが集まってきた。

「な、なぜ竜が結界を通ってこれるんだ?!」

「知るかよっ!」


並んでこちらに向かって武器を構える兵士をかき分けて、明らかに兵士ではない上等な服を着た人物がやってきた。

「伯爵様!危険です!」

「いや、これは、連絡のあった竜だと思う」


『ブッドラ公爵から連絡があったか?』

「は!はい!その、逆鱗の所有者の竜が訪れるだろうと」

『そうだ。俺の逆鱗を使った結界だから、俺を拒絶するわけがない』

「さ、さようでございますね!」


『それで、逆鱗は返してもらいたいのだが』

「そう、言われましても」

コロッタ伯爵は、困ったように眉を下げた。


『逆鱗を、結界の核としているようだな』

「はい、その通りでして。この街を守る、重要なものでございますれば」

『ベラ』

「はいはーい」


ベラは、ルノフェーリの背から飛び降りて伯爵の前に立った。

「おいっ!」

兵士が前に出たが、ベラはそれをひょいと横へ誘導してくるりとあちらを向かせてしまった。


「攻撃の意思はないんだから、黙ってなさいよ。で、逆鱗の代わりだけど、これでどうです?」

取り出したのは、10センチを少し超える魔石だった。

「こ、これは……!」

領主は、驚きに目を見開いた。


「魔石の方が、逆鱗よりもずっと安全に使えます。っていうか、よくまあ被害を出さずに逆鱗を核にできたわね」

「は、はい。実は、核に魔力を入れられるのは私の父、先代だけでして」

「ふぅん。じゃあおじいちゃんを酷使してたんですね」


「おじ……ま、まぁ、そういうことになりますな」

「ならなおさら、こっちに換えた方がいいですよ。今の伯爵でも、ほかの魔法使いでも、魔石なら普通に魔力を補充できるでしょうから」

「確かに……!」


伯爵が乗り気になったので、ルノフェーリも人化して、結界の魔法陣のところへ向かった。

ちなみに、ベラがA級、ルノフェーリがB級の冒険者ということで、兵士たちも一応納得して矛を下げてくれた。



「うわ、すごいバランスぎりっぎり」

「だね」

その逆鱗は、見事に調整されて魔力を保っていた。


「それじゃあ、こっちに取り替えます。横に置いて魔力を込めてから逆鱗を取り除くので、結界はそのまま継続されますから」

「はい、よろしくお願いいたします」

魔石を置くと、伯爵が魔力を込めた。


「なんと、これは……。この魔石は、随分と簡単に魔力を通してくれるんですね」

透明度が高い魔石は、使いやすいのだ。

当然、高価になる。


「もしかして伯爵も、逆鱗に魔力を込めてみたんですか?」

「ええ。しかし、あまりに抵抗が大きいというか、通す穴が小さすぎて通らないような感じがしまして、早々に諦めました」


それを聞いたルノフェーリがほっとしたようにうなずいた。

「良かった。もし無理やり魔力を入れてたら、街ごと爆発して今頃このあたりは更地だったかもしれない」

「えっ」

「あ、これで大丈夫。逆鱗は外すね」

「はっ、はい」


ひょい、とルノフェーリが逆鱗を手に取った。

結界には、何の変化もなかった。



今後は結界の管理がずっと楽になる、とコロッタ伯爵は喜び、ルノフェーリとベラに礼を言った。

そうして宿を紹介してもらって去ろうとしていたら、領主館から老人が走り出てきた。

「お前!逆鱗を渡したのか!」

「父上。そうですよ、持ち主にお返ししまして、代わりに魔石を」

「なんということを!ほかの奴らとは一線を画す素晴らしい家宝だというのに!」

老人は、先代伯爵だった。


ぐだぐだと文句を言う老人は、とにかく逆鱗を手放したくないらしい。

その取引はすでにルノフェーリと現コロッタ伯爵の間で成立しているので、文句を言っても仕方ないのだが、現伯爵は父親に詰められてタジタジとなっていた。


魔石の方が価値は高いが、逆鱗が珍しいお宝だという意見には同意せざるを得ない。

とはいえ。

「めんどくせーな」

「どうしたの、ベラ?」

「ルノ、ちょっと一回竜になって」

「う、うん」


今いる前庭もある程度スペースがあったので、ルノフェーリはぶわりと藍色の竜になった。

それを見た老人は息をのみ、伯爵は顔色を変えた。


「えーと、あ、これこれ。よいしょっと」

『いったぁ?!』

ベラは、背中側で剥がれかかっていた鱗を一枚ぶちりと引っぺがした。


「はい、これで納得しなさいよ。採れたての竜の鱗。逆鱗よりずっと安全だし、欠片じゃなくて完璧な一枚もの」

「なっ、なんと!」


老人は息子を放置してベラの前まで走ってきて、手のひら大の暗色の鱗を受け取った。

「後で伯爵から聞いたらいいけど、逆鱗は使い方を間違ったら街ごと爆発する危険があるんですよ。先代伯爵はすごいバランスでぎりぎり使っていましたけど、なかなか危険だったんです。だから、こっちで満足してくださいね」


「そうだったのか……。あいわかった。これはありがたく受け取るとしよう」

老人は威厳を出すようにして言ったが、その鼻息と鱗を凝視するギラギラした瞳がすべてを台無しにしていた。


『痛かったぁ』

しょぼん、と頭を下げたルノフェーリに近寄ったベラは、そっと抱き着くようにしてその頭を撫でた。

「ごめん。ちょっとめんどくさくなっちゃって」

『うぅ。次は剥がれるまでちゃんと待ってよ』

「うん、ごめんね」

よしよし、と撫でるベラに、ルノフェーリは甘えるようにして鼻先を寄せた。



読了ありがとうございました。

続きます。

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