表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

1:第五王女アマリリス

前作である

『【闇】が深い王女の愛が重すぎてゾクゾクするんですけど!』を先に読んでいただいた方が楽しめると思います。


 ***=============***

 

  これは鳥籠の中で懸命に生きた

 

    美しいお姫様のお話


 ***=============***

 




 小さくも大きくもないジルモネア王国。

 そこの第五王女としてアマリリスは生をうけた。


 アマリリスの母は男爵という地位の低さにも関わらず、妖精のような儚げな美貌を国王に気に入られ、側室として後宮に召し上げられた。


 けれどもアマリリスの母は他の側室たちからの嫌がらせを受け流す技量もなく、精神的に追い詰められてしまいアマリリスが5歳の時に病で亡くなってしまった。


 その後アマリリスは離宮に住処(すみか)をうつされ、侍女を1人つけられただけで、居ないかのように扱われるようになった。




**===========**


「アマリリス様、外に出てみませんか?」

 侍女のサラが、うす暗い部屋のベッドに腰掛けたまま立ち上がろうとさえしない小さな女の子に声をかけた。


「ありがとうサラ。でもいいの」

 顔を伏せ、小さな女の子であるアマリリスはそう呟いた。

 サラは悲しそうな表情を一瞬浮かべ、礼をして部屋を出ていった。




 母を失って3ヶ月。

 5歳のアマリリスはまだまだ悲しみに暮れていた。


 優しかった母。

 アマリリスが寂しい時や不安な時はずっと抱きしめてくれた母。

 ある日いきなり倒れ、それからベッドから起き上がれなくなりあっという間に天国に行ってしまった。


 母と住んでいた思い出の場所から知らない所に移され、一緒に暮らすのは侍女1人。

 父親である国王も、母親は違うが半分は血がつながっている兄姉たちも、誰もアマリリスのことは気にかけない。


 存在を忘れられているようだ。


 何も分からない5歳のアマリリスは寂しい気持ちがどうしようもなく膨らんでいく。


「……お母様……どうして私を置いて行ったの?」

 アマリリスの弱々しい訴えは静寂の中へ消えていく。


 アマリリスは悲しかった。

 泣きたかった。

 けれど母のよく言っていた〝泣きたい時こそ笑いなさい〟という教えを守ろうと頑張っていた。



 

 ーー泣くのは我慢出来るけど、笑えないわ。


 アマリリスは窓から外を見る。

 こじんまりした離宮だが、細密な彫刻が施された噴水と、美しい花々が咲き誇る庭があった。


 そこでは庭師のジョージおじいさんがお花を植えている。

 何もかも嫌になっていたアマリリスだが『このお庭は綺麗で好きだな』とぼんやり思った。




 沈んだ気持ちのまま、月日は無常にも流れていった。

 

 半年ほど経つと、少しずつ気持ちに変化が生まれた。

 侍女のサラの優しい気遣いや、ゆったりとした離宮での生活に徐々に傷が癒されていくのを感じていた。


 けれど国王や他の兄弟たちといった家族に会っていない寂しさは埋めることが出来なかった。

 



**===========**


 アマリリスは6歳になった。

 サラとジョージおじいさんで、ささやかなお誕生日会を開いてくれた。

 ジョージおじいさんがお花の〝アマリリス〟をたくさん離宮のお庭に植えてくれた。

 〝アマリリス〟の別名は〝ナイトスターリリー〟というらしく、その名の通り星のような大きな美しい花を咲かせていた。

 そんな、より一層綺麗になったお庭で3人だけのお誕生日会をアマリリスは楽しんだ。




「お誕生日おめでとうございます」

 サラが紅茶を一口飲んだタイミングで改めて祝福してくれた。

 本来なら王女であるアマリリスと同じお茶の席に座るなんて恐れ多いのだが、アマリリスが許可をしていた。


「アマリリス様、おめでとうございます」

 ジョージおじいさんも朗らかに笑いながら祝いの言葉をおくってくれた。


「2人とも、ありがとう」

 アマリリスはこの穏やかな生活が段々と気に入っていた。

 家族は誰も構ってくれないが、姉のようなサラと孫のように可愛がってくれるジョージおじいさんが居てくれるからかもしれない。




 誕生日には父親である国王からプレゼントが一応届く。

 いつも可愛らしいドレスだ。

 王族だからか移住食には困らない生活をさせてくれており、ドレスもたくさん持っているのだけど……


 …………

 

 アマリリスは複雑な気持ちになるけどプレゼントでもらったドレスをよく着ることが多かった。



 

 この頃から、アマリリスは少しずつ外に出るようにもなっていた。

 王宮内のお庭なら、どこに行っても(とが)められることは無かった。

 要所要所に護衛がおり、アマリリスが行きたいと言うと王宮内なら案内してくれた。

 

 一応、王族だからかしら……?

 

 ただ何かを頼んでも「かしこまりました」しか言わず、会話らしいおしゃべりは出来たことがなかった。


 アマリリスはそんな対応をされるたびに悲しかった。


 


 王宮の城の中は入っても怒られなかった。

 けれど、アマリリスは庭でいる方が好きだったので城に入ることはなかった。

 ただ仕事が忙しいサラを連れて行くことは難しく、どうしても1人で行くしかなかった。


「いいですか、王宮内しか出歩いてはダメですよ。変な人にもついて行ってはダメですよ」

 サラが腰に手をあて、人差し指を立てたポーズを取りアマリリスに言い聞かせた。

「はーい」

 アマリリスは返事をする。

 外出する時のいつものやりとりだった。




**===========** 


 アマリリスの最近のお気に入りの場所は、王宮の1番大きい庭の外れにある小さなガゼボだった。

 そこから見える大きな池があり、たまに鳥が訪れてくれる。

 心地よい風もふいており、ボーっとするのにうってつけの場所だった。

 

 アマリリスは王女だが、王族としての教育などは一切無くなっていた。

 だから、特に何もすることが無く毎日を過ごしていた。

 母が生きていたころに文字などは教えてくれていたので読み書きはできる。

 けれど貴族らしい振る舞いや挨拶などはあまり知らなかった。


「あれ? 誰かがいる……」

 お目当てのガゼボのベンチにつくと、先客がいた。

 自分よりもだいぶ大きなお兄さん。

 

 相手もアマリリスに気付いたようで、一瞬驚いたように目を見開いた。

 けれど次の瞬間にはベンチから立ち上がり片膝をついて頭を下げた。

「初めまして王女様。俺はシアン・シュトラスと申します」

「……私はアマリリスです……こんにちは」

 

 サラとジョージおじいさん以外で王女として自分を扱ってくれる人に、母の死後初めて会った。

 

 そして普通に会話してくれた。

 

 アマリリスはたったそれだけのことだったが嬉しくて泣き出してしまった。

 泣き顔を見られるのは恥ずかしいので両手で顔を覆い、うつむいて隠した。

 

 シアンは呆然としていたが、アマリリスにベンチに座るように勧めてくれた。


「申し訳ございません。何か気に障ることをしてしまいましたか?」

 優しい声がアマリリスに降ってくる。

「っ違うの。……嬉しくて……」

 

 それからアマリリスは自分の母親にもう会えないこと。

 離宮に隔離されたこと。

 サラとジョージおじいさんしかお喋りしてくれないことをシアンに話した。

 

 シアンは急かすことなくアマリリスの話しにずっと耳を傾けてくれていた。

 時たま頭をヨシヨシ撫でてくれてアマリリスを慰めてくれた。

 アマリリスはその暖かい手も嬉しくて余計に泣いてしまったことをシアンには秘密にした。

 

 


「……ふぅ」

 全てを話し終えると、アマリリスはずいぶん落ち着きを取り戻し、同時に幾分かスッキリもしていた。

 

「ありがとう、いっぱいお話を聞いてくれて」

 アマリリスは大泣きしてしまったことが少し恥ずかしくて頬が赤くなるのを感じた。


「私とここにいて大丈夫? ……何かご用事があるのに邪魔してない?」

 アマリリスが相手の顔色をうかがうように少し首をかしげながら見上げる。

 その不安で揺れている瞳に見つめられてシアンは思わず息を呑んだ。

「大丈夫です」

 シアンが慌てて顔を背けながら言った。

 「?」

 背が低いアマリリスからは、赤くなったシアンの頬や耳はよく見えなかった。


 


 それから2人はたくさんお喋りをした。

 

 シアンは、自分の父が国王に用事がありそれに着いては来たのだが、手持ち無沙汰になったのでこのガゼボで時間をつぶしていたそうだ。

 

「何で私が王女だって分かったの?」

「それは……第五王女と言えば有名ですよ。王宮の庭にはたまに花の妖精のような少女が現れるって」

 そんなことを言われてアマリリスは頬が熱を帯びるのを感じた。

 あちこちを自由気ままに散歩しているだけなのに、噂になっているとは……

「恥ずかしいです……」

 アマリリスは赤くなった顔を両手で覆いかくした。

 隣から笑い声が聞こえた。


 シアンとはすごく話しやすかった。

 聞けば6歳年上らしいが威圧感などは全く感じなかった。

 柔らかそうな焦茶色の髪はガゼボを吹き抜ける風により彼の耳や頬を毛先が撫でている。

 琥珀色の瞳は暖かい太陽の光のようで見ていると引き込まれそうになる。


「王女様はーー」

「……アマリリスと呼んで下さい」

 名前を呼んでくれないことに、アマリリスは少しむくれながら抗議の声をあげた。


「アマリリス様はどうしてここに?」

 シアンは苦笑しながら名前を呼んでくれた。


「……実はここ、お母様とよく過ごした場所なの」

 アマリリスはそう言って遠くの景色を見つめた。

 後宮で肩身の狭かった母は少しでも別の場所で過ごしたかったのかもしれない。

「…………」

 シアンも返す言葉がなく、アマリリスの視線の先を同じように見つめた。

 2人の間を穏やかな風が吹き抜け、心地の良い沈黙を作った。

 


 しばらくしてシアンがゆっくりと口を開く。

「俺には弟が2人いるのですが、1人がアマリリス様に近い7歳です。その弟がもう少し幼い時によく読んでいた物語の話をしましょうか?」

 少ししんみりした雰囲気になってしまったので、それを変えようとシアンはアマリリスが興味を惹きそうな話題を頑張って探した。

「……うん。聞きたいな」

 アマリリスは母が生きていた時に、寝る前によく絵本を読んでくれていたのを思い出し、胸があったかくなった。



 

 ***=============***


 ある所に可愛らしいお姫様がいました。

 お姫様にはいつも側で守ってくれる騎士がいました。

 お姫様は幸せに暮らしていましたが、そんなお姫様を好きになってしまった人がいました。

 その人は魔王でした。

 お姫様は魔王を怖がり逃げてしまいました。

 怒った魔王はある日の夜、暗闇の中から現れて誰にも気付かれずにお姫様を(さら)ってしまいました。

 

 騎士はお姫様を探して世界中を旅しました。

 お姫様はなんと世界で1番深い海の底に閉じ込められていました。

 世界中を旅する間に騎士は聖剣を手に入れており、深い海をそして星空をも切り裂く程の聖剣の力でお姫様を救い出しました。

 

 そして2人で手を取り合い、魔王を倒しました。

 それから2人は決して離れることなく、いつまでも一緒にいました。


 ***=============***




「シュトラス家は騎士の家系で、俺も弟2人も騎士を目指してます。なので、この話の強い騎士に憧れて弟たちはこの物語が好きなのでしょうね」

 シアンは柔らかく微笑みながらそう言った。

「…………私も誰か守ってくれるかしら」

 アマリリスは思わずそう呟いた。


「……俺が守ります!」

 シアンがアマリリスを見つめながら強く言い切った。

「!?」

 アマリリスがシアンの発言に驚き、目を見開いて彼を見る。

「もっと大きくなったら騎士になって、アマリリス様を守る近衛に志願します!それまでどうか待っていて下さい」

 シアンがアマリリスの片手を取って、自分の両手で大事そうに優しく握った。


「……はい!」

 アマリリスは嬉しくて花が綻ぶように笑った。

 


 この時のシアンとの思い出が、アマリリスの中で光り輝く1番の救いの出来事になった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ