隣国との交流
大学での薬剤師たちが学び、薬草や薬も隣国に送ってもまだ余るくらいの備蓄が出来るようになると、カルロとグラベルは作物を作り始めた。
「鉱物が肥料になるのですね」
ローレンスから渡された資料はベスキドの薬剤師からの手紙だった。
一緒に送られてきた鉱物はベスキドで研究した結果、作物の育成に成果があると書いてあった。その為、どれくらいの成果が出るのか実験をすることになり、大学の薬草畑の一部を作物用の畑に作り替えて、小麦と他の数種類の作物を作り始めていた。
その生育記録が大学から送られてきていた。鉱物を使った畑と使っていない畑の成長の違いと更に同時に薬草でも試しているようで、薬草の生育記録もついていた。
「ある程度結果が分かったから、今度は他の領地でも試してみようってことになった。シャーリーはカルロとその準備に行ってほしい」
ローレンスから言われたのはカルロと共に国内で作物を作っている地域を回ってこの肥料を使ってもらうようにするというものだった。
カルロから届いた対象地域の直近の作物の収穫量を確認してみた。それでいくと、鉱物を使った肥料で作物を作ると三割増しくらいの収穫量になると予測できる。もしも、これがうまくいったら現在も食料不足に悩む領地の救済になるのではないかと期待を寄せる。
今でも荒れた領地を抱えて苦悩する領主や人手不足で子供も使って何とか農作物を作っている領地もある。グラベルは出来れば子供はしっかりと学ぶ場所を作りたいと考えているが、このままではなかなかそれが進まない状態だった。
他国から流れてきた難民たちを人手不足に悩む領地へ送ってみたが、それも生活習慣の違う者達で諍いが度々起きていて上手くいかないようで一旦難民の受け入れを止めた。
グラベル曰く、自国民すら守れないのに難民を受け入れて自国民を苦悩に晒すわけにはいかないという理由だった。その理由にシャーリーも納得せざるを得ない。食料不足で困っている領地があるのに難民を受け入れたため、その難民たちの食料の確保もしなければいけなくなる。
自国民を犠牲にしてまで難民を救済するのは違うとグラベルは言う。厳しい言葉だがあくまでも自国民を守ることが大切だと言っていた。
ベスキドとの交流はお互いどのような状況が分かっていて、分別をもって対応できるから始めたと言っていた。
ベスキドも食料不足ではあるが、自国で何とかしようとしている。さらに、ベスキドで研究してきたものを惜しみなく提供してくれるのだ。
ベスキドとの交流を聞きつけた他国も同様に交流をと言ってきたが、そのほとんどが物資のみを期待するだけでその後の対策も補償も考えられていなかったので断ったと言っていた。
難民はこの国には入ることは出来ずに、別の国へと流れて言っている。国民がいなくなればそれだけ経済も衰退していく。先の流行り病でいくつかの国が消滅したと噂になっているのは生き残れるのはきちんとした対策を考えている国だけなのだと改めて感じた。
この国でも食料不足は解消されていなくて、急務といった状況であることは変わりない。
ローレンスとカルロはベスキドとの交流では、本でしか知らなかった鉱物や研究結果を実際に見聞きして興味が湧き次々と新しいことに挑戦を始めていている。
今回のこともカルロは別にすることがあるからと日程は私で決めてほしいとのことだった。その為、食料不足が深刻な地域を優先的に回るのと人手不足の地域には応援要員の手配もして二週間後には出発していた。
「カルロ様。どうして北の領地から向かうのですか?」
カルロから指示のあったのは北の領地を一番初めに訪れるとあった。北の領地では食料も薬草つくりも元薬室長のアンリエットが管理しているので順調だ。その為、どうして訪れる必要があるのか疑問だった。
「北の領地がベスキドと同じ気候だと分かったんだ。それで、北でも使って薬草と作物を作ってもらおうってことになったんだ」
カルロはベスキドからの書簡で気候が北の領地とよく似ていることを突き止め、アンリエットに頼んで、今回の肥料を使った薬草と作物を作ってもらっていた。今回は実際にそれを見に行くことにした。
久しぶりに来た、ヴォルスク領は雪解けで畑の土が顔を出し、新芽が目についた。
「カルロ様。シャーリー様。お久しぶりです」
カルロが先に場所を降り、続いてシャーリーも馬車を降りるとグラベルの従弟、コールフォード男爵が出迎えてくれた。
「コールフォード男爵様。お久しぶりです」
「ロベルトと呼んでください」
グラベルの領地だったヴォルスク領は先日、正式にコールフォード男爵の領地になった。
元々、グラベルは政権争いに巻き込まれたくなくて、時期が来たらここヴォルスク領に引きこもるつもりでいた。
結婚するつもりもなかったので、その後継者を従弟のコールフォード男爵に譲るつもりで。
しかし、マーガレット王女が次の国王に決まった今、グラベルは出来るだけ王宮に近い場所にいることを望んだ。それというのも、マーガレット王女を見守るため。陛下が亡くなった後もしっかりと支えていく決意を固めたからこそ、北の領地はコールフォード男爵へ譲った。
コールフォード男爵も既に何年もヴォルスク領を管理していたので難しいことはなく、順調に政務をこなしているようだ。
ロベルトの案内でカルロが送った肥料を使った試験はヴォルスク領の温室と外の畑で行われていた。
薬草と作物の状況や収穫量などをアンリエットから聞いて、生育状況などを確認するとカルロは引き続きベスキドの鉱物で肥料を使うように指示を出していた。
その後、予定していた領地を回り帰ってきたカルロはすぐさまローレンスにヴォルスク領の生育記録と状況を報告していた。
「カルロ。この書簡を今度ベスキドに送る荷物に入れてほしい」
ローレンスがカルロから聞いた内容を早速まとめて、カルロに託していた。
「ベスキドに送るのですか?」
「そうだ。北の領地はベスキドと気候がよく似ている。温室と外の気候、両方にあの肥料は効果があるようだから、その情報と北で作っている薬草の種と作物の種を一緒におくる。あの地でもきっと育つはずだから」
ローレンスとカルロが考えていたのはベスキドで作る薬草や作物を増やすことだったのだ。ベスキドで作られていた薬草や作物はとても限られていて、それ以外は作ったことがなかったらしい。
今は、その研究に費やす時間も余裕もないということでローレンスとカルロが準備していた。
今回、いい結果が出たのでその報告と、使えそうな種を送ることでベスキドでも新たな薬草と作物を作ることが出来る。
ベスキドからはこれからも肥料に使う鉱物の輸入は続けられるというので、お互いの利点を生かした協力体制がしっかりと出来ているのだと嬉しくなる。
一か月後、ベスキドの国王自らの感謝の手紙が薬室に届けられた。




