表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/93

王室御用達 前編

ホルック領の薬草は王宮専属の薬草園となった。すなわち王室御用達である。


その発表と共にリンゲル領とフォアボルド領が王宮の薬室管理下の薬草畑を作ることが発表された。

薬剤師見習いはそれぞれ再編成され、ホルック領とリンゲル領、フォアボルド領で各五人ずつ配置され、残りは王宮の薬室選任となった。 因みにイザベラの体調管理組は王室担当になっている。

 薬作りは全ての薬剤師見習いが担当するので担当領地へ行く日以外でローテーションが組まれている。


 シャーリーはイザベラの体調管理と並行してリンゲル領とフォアボルド領の薬草畑の準備を進めている。先日、シャーリーはカルロと薬剤師見習いたちを連れてリンゲル領とフォアボルド領の農地を視察してきた。

 カルロの計画通り、まずは数カ月後にやってくる冬風邪の薬に使う薬草を作る。それが終わった後、それぞれ別の薬草を植えることになっている。リンゲル領とフォアボルド領の担当の薬剤師見習いたちはそれぞれカルロが算出した土作りの材料手配に追われている。


 カルロは研究する内容を精査し、ローレンスが選任した薬剤師見習いたちと準備に取り掛かっている。ホルック領担当の見習い薬剤師たちは既にホルック領へ出向き薬草作りを始めていた。


「シャーリー様、イザベラ様のご出産の準備をそろそろ始めようと思うのですが」


 ルーカスが聞いてくる。


「そうですね。サイモン医師からは出産予定は三か月後と聞いていますが、早めに準備しておいてもいいですね」


 ルーカスはサイモン医師から預かったとみられる処方箋を見せてきた。


「そうか、王族の出産は暫くなかったから出産前後の必要な薬剤がないのね。ナイジェル医師ならいい薬剤をご存知かもしれないわ」

「分かりました。早速、連絡します」

「お願いします」


 ルーカスは早速手紙書き始めた。

 マースとアンヌは現在、イザベラのところに行っている。悪阻も治まって食事もしっかりとれるようになったので今度は出産までの注意事項を伝える為だ。少しずつだが出産に向けての体制が整いつつある。


「それにしても、ブランデン様の爵位と王室専属のお話はよかったですね。ルイーザ様の出産にも間に合ったのでローレル子爵も安心なさったのではないでしょうか」

「本当に間に合ってよかったわ」


 シャーリーはつくづくそう思う。爵位の授与式があった丁度一週間後にルイーザが男児を出産したのだ。


「ブランデン子爵も薬草畑が王室専属になって励みになっているのではないでしょうか」


 エレノアも嬉しそうに話す。シャーリーは珍しいと感じていた。エレノアの父、アンスバッハ諸侯は身分制度に厳しい方と記憶している。その父を持つエレノアがブランデンのことをよく思っていないのではと危惧していたのだが。


「ブランデン殿の爵位が嬉しいの?」


 思わず聞いてしまった。一緒に仕事をするようになってエレノアとアンヌを見ていると貴族としての誇りはあるが傲慢さはない。不思議に思っていたのだ。


「嬉しいですよ。周りからいろいろ言われているのは前から知っていました。ですが、ブランデン様がなさっていることは国のため、民のためになります。何もしないのに文句ばかり言う貴族たちとは違いますから」


 しっかりと自分の目で見て動ける人なんだと改めて感じた。エレノアとアンヌのことは、はっきりと聞いたことはないが、家が嫌でイザベラの進めで薬剤師になったと聞いている。


「シャーリー様、どうかされましたか?」


 エレノアはシャーリーの顔を覗き込んだ。


「エレノア様のお父上はとても厳しい方だと聞いたことがありましたので、エレノア様の今の言葉を聞いたらお叱りを受けるのではないかと」

「ここに来るまでは民の暮らしなど考えたこともありませんでした。ですが、診療所はホルック領へ出向き農民たちと話をすることで、自分がどれだけ恵まれて暮らしていたのかを知りました」


 お恥ずかしいですとエレノアは目を伏せた。


「では、お屋敷に戻られてもいいのでは。ここの仕事は大変だと思いますよ」


 シャーリーはエレノアがここに来たことを後悔しているのではないかと気になる。もしかして家に帰りたくなっているのではないかと。


「シャーリー様、私には年の離れた弟がいます。次期領主となる弟を補佐するように言われました。その弟は両親に甘やかされて育ったためか領地や領民のことを守ることも慈しむこともなく、我儘の限りを尽くしています。私は毎回、その尻拭いをさせられるのです。それが嫌でここに逃げ込みました。もう、両親や弟のために自分を犠牲にするのは止めたんです」


 エレノアの決意をみた。自分がここに来た時と同じだ。どうにもならないことに自分の無力を感じて、逃げ場を探した。シャーリーはグラベルに、エレノアはイザベラに助けられたのだ。ブランデンも同じだ。グラベルの助けを借りて、自分の未来を切り開こうとしている。


「エレノア様、幸せになりましょうね」


 シャーリーはこの言葉で分かってくれると思った。

 エレノアは薬室に来て一番の笑顔を見せた。


「ただいま戻りました」


 マースとアンヌが戻ってきた。


「イザベラ様の体調はいいみたいなので、散策など少し体を動かすように伝えてきました」


 マースが言うと、ルーカスがイザベラの体調の変化を記した手帳を確認している。


「食事が進むと言っていたけど、あまり太りすぎると出産が大変だとサイモン医師も言っていたからな」


 ルーカスが手帳をシャーリーとエレノアに見せる。


「お腹はあまり大きくないですね。こんなもんですか?」


 シャーリーは姉妹が出産経験のあるマースとルーカスに確認する。アンヌとエレノアも首を傾げながら二人を見ている。


「出産予定日は三カ月後だから、少し小さいかも」


 ルーカスが言う。


「サイモン医師は悪阻の時期が長かったから仕方がないと言っていたよ。これからしっかり栄養をとれば問題ないと言っていた」


 マースも付け加える。


「では、栄養のある食事を考えないといけませんね」


 アンヌが張り切りだす。


「シャーリー様、あれ、使いましょう」


 あれとは妊娠中のルイーザのためにホルック領の薬草畑の農民たちが栄養のある野菜を作っていた。それをイザベラのためにと分けてくれたのだ。


「私、献立を考えます」


 アンヌが張り切る。


「それって、民にも推奨してはどうだろう。街の外れに行くと栄養不足で出産を待たずに子供が亡くなることもあるようだから」


 ルーカスが言うと皆が黙った。


「……」

「流石に、王妃様と同じ献立は駄目だろう」


 マースが突っ込む。


「アンヌ様、出来るだけ簡単に作れる献立も考えましょう」


 エレノアが提案する。


「そうだ、それがいい。出来ればあまりお金が掛からない。庶民でも手に入りやすい食材を使うのはどうだろう」


 マースも助け船を出す。


「ナイジェル医師に相談してみてはいかがでしょうか。診療所では民も診察に来ますから詳しいと思います」


 シャーリーも付け加える。


『それがいい』


皆の声が揃った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ