王室御用達 後編
「シャーリー様、今年の冬もまた王都の薬を全て薬室で作ることになるのですか?」
エレノアが心配そうに聞いてくる。
「今年は、リンゲル領とフォアボルド領の薬草の出来で薬の配布を王都とその周辺の都市に広げてみようかと話が出ているの」
「周辺都市ですか」
エレノアの顔が引きつっている。
無理もないシャーリーも初め聞いた時は途方もないことだと思ったがどうやら違っていた。
「私たちが作るのは昨年と同じ王都だけ、周辺都市はホルック領とリンゲル領、フォアボルド領でそこの領内の薬剤師に薬を作ってもらうことになったの」
目的は王国中の薬を作ることだが、まだそこまで薬剤師の確保が出来ていない。そこで薬草園のある領内でも暫定で取り組んでみようと話が出た。
「街の薬師たちには薬作りをさせないのですか?」
エレノアが栄養剤を作りながら訊いてきた。今日は王妃担当が王宮の薬作りをしている。シャーリーも胃薬を作りつつホルック領の薬草量を確認していた。
「リンゲル領とフォアボルド領でどれくらいの薬草が収穫できるかまだ分からないのと、街の薬師に配ると診療所の薬が不足するの」
「まだ、薬草園が足りないのですね」
「フォアボルド領のピエール様がネヴェルス領の農地もと言ってくださっているけど、食料の確保や薬草畑の指導者もまだ足りなくて」
「食料不足はかなり改善されたと聞いていますが」
「イダは黒い病で両親と家を失ったの。弟は食べる物がなくて毒空木を食べてなくなってしまったのよ」
エレノアは視線を彷徨わせている。驚いて声も出ないようだ。
「黒い病が来ないとも限らないでしょう。その為の備えは必要なの」
シャーリーも、もう二度とイダのような子を出したくない。その為にも自分に出来ることをしたいと思っている。
「やはり私は恵まれていたのですね」
エレノアが小さく首を振りながら呟く。
「私たちが今、出来ることを精一杯やりましょう」
「はい」
〇〇〇
ホルック領へ言っていた見習い薬剤師たちが帰ってきた。
「疲れたー!」
薬草が入った大きな籠を抱えている。
「どうしたのですか?」
シャーリーが籠をみて聞いた。
「これはヴォルスク領で作った薬草です」
アランが差し出した薬草を見る。王都ではあまり作られない薬草だ。
「ヴォルスク領の薬草がどうして?」
エレノアも不思議に思ったのか一緒に薬草を見る
「昨日、グラベル様がホルック領に来たみたいで、その時この薬草を置いて行ったって」
シャーリーはこの薬草で何をしろと言うのかと首を傾げていると薬室の奥からローレンスが出てきた。
「その薬草で薬を作ってほしいって言ってきた」
ローレンスが手紙をシャーリーに渡した。
手紙には北の地で栽培している薬草で、北の地ではよく使われる物と書かれていた。その薬を王都で使ってみてほしいと書かれていた。
「どういう理由でしょうか」
「この薬草で作った薬が王都でも効果があるか確認したいらしい」
「どんな薬ですか?」
「北では風邪薬として使用している。北と王都では風邪の流行の時期が違うからもし効果があればこの薬草も候補に入れたいと言っている」
ローレンスの説明にシャーリーとエレノアは顔を見合わせた。
「アラン、薬作るよ」
カルロが腕まくりをしながら薬室に入ってきた。
「あっ。シャーリー、北の薬草の効果を調べると同時にホルック領の薬草もグラベルに渡しておいた。北でも同様にホルック領の薬草の効果を調べることになったから」
カルロはそう言うとアランと持ってきた薬草で薬を作り始める。
「ホルック領の薬を北の地で使うための試験的なことだよ。あの地は少し難しいから」
ローレンスがシャーリーとエレノアに説明する。
「難しいとはどのように?」
エレノアが聞いている。
「北の領主はみんな先王や先々王に功績を挙げて仕えていた人たちなんだ。グラベルは領地を従弟に任せてずっとここで薬剤師をしていたからあまり良く思われていない」
「それでも、薬草畑を作ることを決めた領主は何人かいると聞いていますが」
シャーリーはアーリシュからの手紙のことを話した。
「かなり苦労しているようだよ。北の地以外で作った薬草で薬を作るとなるときちんと証明できるものが必要なんだ」
それがこの薬草だとローレンスは籠の中の薬草を指差した。
「王室の専属となっても難しいのですか?」
エレノアが聞いている。シャーリーはもっと別の理由があるように思えた。
「もしかして、祈祷師が関係していますか?」
シャーリーの問いに気まずそうに頷くローレンス。
「そうなんだ。既に処刑されたけど、それまでの悪行がグラベルのせいだとされている。レヌアイ子爵のこともそうなんだ」
「それはグラベル様のせいではないですよね」
祈祷師のことはこの薬室全員に説明はされている。レヌアイ子爵のこともソフィーが何をしたのかもここの薬室の者ならみんな知っている。だからこその言葉だが。事情を知らない者からしたらグラベルのせいで領民たちを不安にした者がいたと言うことになる。
「祈祷師がここを辞めた理由なんか遠く北に住む者たちは知らないよ。何かあったらしいくらいしか。その祈祷師がもし偶然、治らないと言われた病を治してしまったら、どちらの言い分を信じる?」
「あっ!」
エレノアはやっとわかったらしい。
「レヌアイ子爵にしてもそうだよね。実際、ソフィーはシャーリーの名を騙って陛下に毒を盛った。そのシャーリーは僕たちと一緒にいたからそんなことしていないと分かるけど、そうではない者たちはどうかな」
「王室専属となってもまだ駄目と言うことですね」
シャーリーはローレンスに確認するように聞く。
「異を唱える貴族はまだいる。貴族ですら反対意見が出るんだ。街の薬師たちはどう思っているのか。少しずつでも賛同者を作っていかなければいけないんだ」
「シャーリー様、私たちがやることは沢山あると言うことですね」
エレノアの目には力がこもっていた。シャーリーは仲間がいるのは心強いともう一度、決意を込めた。




